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新種族ノラ - 吉行 エイスケ ( よしゆき えいすけ )

  • 吉行エイスケ作品集 文園社
  • 吉行エイスケ作品集 (単行本)  件:吉行淳之介
  • 吉行和子監修■吉行エイスケ-作品と世界/初版
  • 吉行エイスケ 作品と世界 1997年 初版 1刷 送料290円
  • ◆ 吉行エイスケ作品集
  • 吉行エイスケ作品集/ダダイズム/新興芸術派/「あぐり」野村萬斎
  • 吉行和子監修『吉行エイスケ作品と世界』/ダダイズム新興芸術派
  • 『吉行エイスケ作品集』/ダダイズム新興芸術派あぐり
  • 「吉行エイスケ作品集」”昭和初期のパンクだ”と作品を読んで~
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  Nora  生まれは、柬甫塞(カンボジヤ)国、プノンペン市。  父は、カンボジヤ華僑現在為替経紀(かわせブローカー)。
 母は、カンボジヤ女、シソワットの居城王宮舞妓であった。
 現在は、上海(シャンハイ)市、フランス・タウン、アルベーローに住む。
 学歴は、中西女塾を卒業後、南洋大学の文科の聴講生となった。十九歳
 職業は、南京(ナンキン)路角、百貨店泰興公司(レーン・クロフォード)の女店員、支配人デー・ダブリュ・クロフォードに愛さる。
 美貌は、新種族プラナカン(Pranakans)に酷似す。薄鼠色皮膚、心惹(こころひ)くエキゾチシズムと蛇舞(すねいく)を踊る妖艶さと椰子(ばあむ)しゅがあのごとき甘美(あま)さがある。
 趣味は、ハイ・アライに熱狂す。映画俳優アドルフマンジュウとグレタ・ガルボが好き。ダンスはツレブラ、そのシステムウォーク、右廻転、左廻転、プロムナード、チロ、踵(かかと)を床から浮離するツレブラを愛す。支那賭博(とばく)を好まず。ポーカーをする。煙草はレッド・バンドを喫(す)い、酒はラム酒、とくにネグリッタラムにてつくるバカーデ・カクテールを愛飲する。
 遺伝は、結婚したら鉄漿(おはぐろ)をつけると云う。上海プノンペン間を商用にて往来する父にカンボジヤ国より檳榔子(ばあむ)の実を土産に買ってきてもらう。霖雨(りんう)の来らんことをたえず願う。工業騒音を好まざれど精米所の音響と、投機的熱狂を繰りかえす。フランス人にたいする人種的、嫌悪。そしてカンボジヤエロチシズムを発散す。
 食楽は、精進(しょうじん)料理がお好き。まず録糸(まめそうめん)にてつくる魚翅(ふかのひれ)、湯葉(ゆば)でつくれる火腿(ハム)、たまに彼女はかつて母とともに杭州(コウシュウ)の西湖(サイコ)にある功徳林|蔬(そ)食処へ精進料理を味わいに行った。鹹(つけ)ものは蓮根(れんこん)のぬかづけが好き。だがちかごろは洋食メニューを並べている。ときどきこっそり支那街へ海蛇(うみへび)の料理を食しにいらっしゃる。婦人病の薬だとて。
 衣裳は、三十枚のアフタヌーン・ドレス。彼女年齢と同じだけのイブニング・ドレス。ノラは衣裳道楽だ。アフタヌーンスカートは短くイブニングスカートは長い。無地より模様入が好き。色合いは赫(あか)色がかった熱帯色。だが、ノラよ。スリップにつけたレースがまんかいしてスカートから臑(すね)のあたりに××××るのはあまり感心しないがどうしたものか。赤い蛇皮(へびかわ)の靴。保護色のような薄絹の手袋。暗褐色(あんかっしょく)に赤に横縞(よこじま)のあるアンクルサックス色眼鏡(いろめがね)。魚の顋(えら)のように赤いガーター
 肉感は、上海になくてはならぬものの一つ。樹脂(ヤニ)色の唾液(だえき)。象形文字のような骨格。闇色の肉体の隙間。撒水孔(さんすいこう)のような耳環のあと。円形乳房のある地理上海彼女舞台なら、そのコスチュームはノラの薄鼠色皮膚だ。新しい薔薇戦争勃起する魅力がそこにある。黄浦口(コウホコウ)にのぞんだパブリック・ガーデン、そこでは四十幾種類かの人種プラタナスの木蔭を逍遙(しょうよう)している。スペイン女が、ヴェリストのアメリカ女が、権能を知る英国女が、ユーモアを感じさせるロシア女が、流行の尖端(せんたん)を自覚した日本女が、弛緩(しかん)したような朝鮮女が、ニグロの女が、そしてノラの属する混血種の支那女が黄浦灘(パンド)を横切って蘇州路へ、北京路へ、南京路へと立ち去って行く。


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