日本に生れた以上は 関連リンク

岸田 国士 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

日本に生れた以上は - 岸田 国士 ( きしだ くにお )

  • ★日本の外交史 2冊★ 近代日本外交史・現代日本外交史
  • Ξ/日本製美術刀剣日本刀◇白石目 小刀 日本刀(模造刀)
  • 日本軍、日本海軍、日本陸軍、飛行眼鏡、ゴーグル
  • 日本軍、日本陸軍、日本海軍、恩賜の煙草入れ
  • 日本軍、日本陸軍、日本海軍、30年式銃剣、合法品
  • 格安!!日本語教師必見/日本語初歩/日本語国際センター
  • 佳景日本・秘境と仙境の旅(東日本編・西日本編)
  • ■蛇蔵&海野凪子 日本人の知らない日本語 笑える日本語バトル
  • P34#日本語2冊◆常識として知っておきたい日本語◆問題な日本語
  • 日本軍、日本陸軍、38式クリップ日本海軍、
次のページ
岸田國士  さあ、僕はどういふ風に云はうか?  林君は熱情を見事に整理しつつ雄弁を振つてゐる。森山君は、縹渺たる感懐をリリカル思考に托してゐる。何れ文学者らしい態度で堂々とこの課題を征服した。
 僕は、率直に云ふ。林君にはまだついて行けないし、森山君には少し焦らされた。
 かういふ問題は、といふよりも、「愛国心」といふやうな言葉に対しては、文学者共通の潔癖から、まづ一つのポオズを択んで物を云ふやうになる。そこが興味のあるところであらうが、出題者の意図はどこにあるにせよ、僕は、この問題を、まだ「文学者的」に取扱ふ用意ができてゐない。
 憂国精神愛国心祖国愛国民の真情、日本愛する気持、母国を懐しむ心、と、かう字引のやうに書き並べてみて、その間に可なりのニユアンスがあることはもちろん、語感の上では、殆んど右と左のやうに違ひがあることを発見する。
 殊に、最初の二つの言葉は、林君の使つてゐる意味を、正当に解釈させることが必要である。
 僕も人並に、この「愛国心」といふ言葉には照れる方であるが、それは照れるのが間違ひなのだと思ふ。現代日本語のうちで、文学者に毛嫌ひされてゐる言葉が可なり多く、それは、一般日本人、殊に、無教養政治家やジヤアナリストが、勝手言葉のイメエジを決定し、不純な概念を附け加へることを平気でやり、これを是正する「機関」がないために、民衆の間にすぐこれが伝播してしまふからである。専門的用語でさへ、これを戯画的に使用することが流行し、いつの間にか、本来の意味が忘れられてしまふ。自然主義、享楽主義自由主義等皆然りである。
 文学者は、かういふ風にして、国語使用権を狭められてゐるのみならず、言葉を毛嫌ひすることによつて、実体を疎んずる結果を招いてゐることさへある。
 僕は三十歳を過ぎて初めて戯曲書き、不用意に「夢」といふ言葉をふんだんに使つたら、当時、先輩たる某作家から注意受けた。日本では、そんな風に「夢」といふ言葉作家たるものは使はないといふ説明である。それは「臭い」のである。なるほど、少したつて、僕は活動写真の標題が「夢」といふ言葉荒したのであらうと気がついた。この事実皮肉に考へると、日本作家は「夢」といふ言葉を用心して使ふ結果、「夢」を書くことまで用心するのであらう。

       一

 僕は日本人であることを恥ぢもしないし、矜りともしてゐない。つまり、これこそ、人間に生れたことと同様、実に運命的であり、偶然であり、誰の力でもどうすることもできないことである。だから、それについて、愚痴もこぼさないかはり、感謝もしてゐないといふ当り前な前提をしておいて――

       二

 日本世界の他の国に比べて、善いところもあり、悪いところもある。しかし、われわれの祖先並にわれわれが、その善いところ悪いところの一部を生み出し、育ててゐることは争へない。それに対しては、真剣に考へなければならぬと思ふ。ただ、日本世界の他の国に比べて優れてゐるから、その日本愛するといふ考へ方には危険なものがある。小学校時代に、われわれは日本風土気候について、さもそれが世界に類のない恵まれた国のやうに教へられた。ところが、事実は大違ひで、自然の脅威の下でこれほどすくみ上つてゐる国は少いのである。が、それゆゑに、日本に対する愛情がどうもなりはしない。寧ろ今日の僕は、かかる国土をしみじみ痛ましく思ひ、その国土に於いて、戦ひ、生き、しかも自然を愛して来た民族の相貌を懐しむ心が切である。なんでもないことを、優れてゐるやうに思ひ込み、または思ひ込ませ、それによつて自尊心を撫でまわしてゐるやり方は、笑止千万であり、愚劣の骨頂である。
 それと同時に、日本の悪いところを、さも手柄顔に取りたてて、これだから日本は嫌ひだといふのも少し早すぎる。さういふ自分にも、その悪いところがあるのを忘れてゐさうだからである。それから人間ならどこの国の人間でも有つてゐる弱点のやうなものと、日本人のみが特に、その長所と共に有つてゐる弱点とを区別して、その各々に対する批判と対策を誤らぬやうにせねばならぬと思ふ。しかし、日本愛するといふ気持は、その美点と欠点とを併せた何物かに対する親しみの感情であるにもせよ、好きになつてはいかぬもの、好きでなくてはならぬものがだんだんはつきりして来ると、われわれの日本は、現在、甚だ魅力に乏しい国であるといふことに気がつき、自分日本愛するとは云ひきれぬやうな気がし、さて、こんなことでは困る、どうしたらいいのだと、うろたへるやうになる。

       三

 日本をより善くしたいといふ欲望が、祖国愛といふ名で呼ばれるなら、さう呼んでも差支ないではないか。この場合、他の国より善くしたいと希ふのは、人間美しい弱点だ。それも、結局、「何を善いといふか」の問題になるが、例へば、警察網が完備し、粗製濫造品が世界市場を脅やかし、外遊客がゲイシヤと人力車に感心するといふやうなことを指すのだとしたら、それはもう、美しい弱点とは云へなくなる。

       四

 その意味で、日本を善くするといふ、その「善く」といふ観念だけは、飽くまでも、世界共通のものにしなければならず、それならば、日本がいくら善くなつても、他の国々は少しも迷惑はしない、云ふところの国際主義矛盾はしないのである。
 理窟はまあさうだが、一つ困つた問題がある。それは他の国々も、さう理想的に行つてゐないといふこと、日本と略々同じやうな「醜い弱点」をもつてゐるといふことである。林君は魯迅言葉を引いてゐるが、その気持は、日本人だつてあるのだ。あるけれども、なかなかああ云ひ切るものが、われわれの周囲にはゐなかつた。
 他の国から征服されるといふこと、例へ文化の面だけでも、他国の優越的支配下に置かれるといふことは、ただに民族自尊心を傷けるのみならず、そこからは、断じて新しい生活が芽を吹かないのである。過つて、敵に正義の名を奪はれても、戦争には負けてはならぬ。少くとも、国家自由だけは存続させねばならぬ。ここのところ、政治的にはいろいろの方便があらうと思ふが、愈々戦争となつたら理窟はもう通らぬ。お互にお互の生命を守り合ふのが当然だ。そして、これは止むに止まれぬ「愛国行為」である。

       五

 僕は、愛国心といふもののうちに、民族自尊心が含まれてゐることを指摘したが、それは何れも、その現はれ方によつて弱点ともなり、強味ともなること、他の総ての性情的特質と同様である。殊に、愛国心といふ言葉は、今日に於いては、母性愛などといふ言葉と同じく、月並で、空元気で、卑俗な響きを伴ひ易く、従つて、無教養権力階級並に、これに迎合せんとする大衆の便利な標語として役立ち得る語感に満ちてゐる。


次のページ

岸田 国士 (きしだ くにお) 以外のオススメ作品

日本に生れた以上は (にほんにうまれたいじょうは) のリンク元

「日本に生れた以上は-岸田 国士」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN