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明治開化 安吾捕物 16 その十五 赤罠 - 坂口 安吾 ( さかぐち あんご )

  • 二銭銅貨 2銭銅貨 明治13年 明治14年 明治16年 古銭
  • Ω 図録『明治天皇と明治美術の名宝』展*明治神宮*平成14年
  • 1円~ 明治貨幣 1厘銅貨3枚(明治15年×2枚、明治16年×1枚)
  • 明治大正期手彩色絵葉書【日本橋】明治44年落成
  • 美品 東京人 2005年10月 明治東京「お雇い外国人」明治建築
  • ☆純銀 明治天皇御肖像牌 明治百年記念メダル/13
  • !219  半銭 明治6年&明治7年  2枚 上品
  • ★☆竜1銭/明治10年/竜2銭/明治15年/2枚セット☆★
  • 〔初心だし〕 古銭 明治一円銀貨 明治二十銭 寛永通宝
  • LG21 ギフト券 明治プロビオヨーグルト 明治乳業 4個分
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明治開化 安吾捕物 その十五 赤罠  年が改って一月十三日。松飾りも取払われて、街には正月気分が見られなくなったが、ここ市川田舎道を着かざった人々の群が三々五々つづいて通る。一見して東京下町のそれと分る風俗芸者風の粋な女姿も少からずまじっている。
 深川木場旦那の数ある中でも音にきこえた大旦那山キの市川別荘葬式に参列する人々であったが、それにしては喪服姿が目につかなくて、女姿は遊山(ゆさん)のようになまめかしいばかりである。それも道理お葬式とは云え、死んだフリをして生きかえるという趣向のものだ。
 山キの当主、不破兵衛は当年六十一一月十三日というこの日が誕生日で、還暦祝いを葬式でやろうというのである。
 厄払いの意味もあった。甚だ老後にめぐまれない人で、中年夫人を失ったのが晩年孤独のキザシであった。彼自身は生れつき頑健な体質で病気知らずと人の羨む体質だったが、死んだ夫人病弱だったせいか、生れた三名の子供のうち、兄と姉はすでにこの世になく、一人残った清作も病身であった。骨が細くヒョロ/\と青白く育って、見るからに長命の相が欠けているから、
「早く嫁をもたせてタネをとらなくちゃア、山キの後が絶えてしまう。美人薄命というが、オレがキリョウ好みをしたのが思えば失敗のモトであろう。若い頃は分別が至らないから、目先の快楽に盲いて、老後も死後も考えないが、家を保つには丈夫で利口な嫁を選ばなければいけないものだ。その上キリョウが良ければ越したことはないが、それは二の次だ」
 不破兵衛はこう考えて、まだ清作が二十という若いときに、今の嫁をもたせた。そのときチヨは十六という若い嫁であった。
 幸いに玉之助、信作という二人の孫は母の健康をうけついで無病息災に育つから、喜兵衛非常に安堵していた。と、去年の秋の季節に、大事な二人の孫がまちがえて毒茸を食し、一夜にそろって死んでしまった。
 豪放な喜兵衛旦那もさすがに一時は寝食を忘れるほどの悲歎にくれたのである。しかし冷静に考えれば希望がなくなったわけではない。長命の望みなしと二十で嫁をもたせた清作は案外にも長持ちして、すでに三十であるが、まだ何年かは持ちそうだ。現に二人の孫を失うと殆ど同時に、あたかもそれを取りかえすようにチヨは妊娠してくれた。死んだ孫の数を取りかえすのも儚い希望ではなかろう。
 そこで喜兵衛心機一転、年が改ると共に自分誕生日がくるから、ちょうど還暦に当るを幸い、厄払い、縁起直しに思いついたのが生きた葬式である。いっぺん死んで、生れ変ろうという彼らしい趣向であった。
 いったん心を持ち直せば一時のメソメソしたところはカゲすらも見せない喜兵衛発心の起りはどうあろうと、葬式ダンドリが陽気で、荒っぽくて、賑やかで、勇ましいこと。準備は年の暮から、木やり音頭と共に着々すすんでいた。
 お隣りのシナでは病人の枕元の一番よく見えるところへ棺桶を飾って病床をなぐさめ、お前さんはこの立派棺桶におさまるのだから心おきなく死になさいよ、と安心を与えてやる。さすがに大陸風習はノンビリしているが、日本でこんなことをやると、オレの死ぬのを待っていやがるか。オノレ恨めしや。棺桶を蹴とばしてユーレイになってしまう。だから死ぬまでは何食わぬ顔、ただ生命を保つ工夫にこれ努める心底をヒレキしてユーレイ防止に全幅の努力を払わなければならない。
 そこで、さア死んだとなると、忙しいな。ここにはじめて、にわかに葬式の準備にかかる。けれども、何様の葬式でも一週間か十日のうちには終らなければならないものであるから、精一パイ準備しても、参会者の頭数やお供え物を差引くと、あとには白木のバラックと賃借りの幕が残るぐらいのものだ。
 喜兵衛葬式は充分に時間をかけて本場の木やりで気合をかけながら着々と念を入れてやったのだから、棺桶だってシナの上物に負けないのが出来ているが、全般の準備に較べれば、それぐらいは物の数ではない。
 知人のもとに刷り物の死亡通知と葬式案内状が発送されたが、そこには式の次第がちゃんと書いてある。それによると、喜兵衛が死んで生れかわるまでの順序は次のようになっている。
 まず坊さん読経があって、禅師が喜兵衛の頭をまるめ法衣をきせてやる。そこで喜兵衛は法体となり生きながら自分で歩いてノコノコ棺桶におさまる。
 そこでトビのコマ五郎輩下の若い者が火消装束に身をそろえ、棺桶を担いで木やり勇ましく庭園内に葬列をねって、ダビ所に安置する。このダビ所はコマ五郎が輩下の大工を指図して年の暮から丹精こめて新築したもの。これに棺桶をおさめて火をかける。パッと火がもえあがったときにダビ所の扉を排して現れ出ずるは赤い頭巾にチャンチャンコ。生れかわった喜兵衛である。
 これより葬式変じて還暦の盛宴となる。メデタシ、メデタシ、というダンドリだった。
 こういう葬式だから、喪服の参列者が目につかないのは当然だが、その人々にまじって、ちょッと風俗の変った二人づれ。


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