明治開化 安吾捕物 17 その十六 家族は六人・目一ツ半 関連リンク

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明治開化 安吾捕物 17 その十六 家族は六人・目一ツ半 - 坂口 安吾 ( さかぐち あんご )

  • 二銭銅貨 2銭銅貨 明治13年 明治14年 明治16年 古銭
  • Ω 図録『明治天皇と明治美術の名宝』展*明治神宮*平成14年
  • 1円~ 明治貨幣 1厘銅貨3枚(明治15年×2枚、明治16年×1枚)
  • 明治大正期手彩色絵葉書【日本橋】明治44年落成
  • 美品 東京人 2005年10月 明治東京「お雇い外国人」明治建築
  • ☆純銀 明治天皇御肖像牌 明治百年記念メダル/13
  • !219  半銭 明治6年&明治7年  2枚 上品
  • ★☆竜1銭/明治10年/竜2銭/明治15年/2枚セット☆★
  • 〔初心だし〕 古銭 明治一円銀貨 明治二十銭 寛永通宝
  • LG21 ギフト券 明治プロビオヨーグルト 明治乳業 4個分
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明治開化 安吾捕物 その十六 家族は六人・目一ツ半 「ねえ、旦那足利にゃア、ロクなアンマがいないでしょう。私ゃ足利のアンマになってもいいんですがね。連れてッてくれねえかなア。足利師匠のウチへ住み込みでも結構でさア。どうも、東京を食いつめちゃったよ」
 足利織物商人仁助の肩をもみながら、アンマの弁内が卑しそうな声で云う。
 めッぽう力の強いアンマで、並のアンマを受けつけない仁助の肩の凝りがこのメクラの馬力にかかると気持よくほぐれる。馬のような鼻息をたてて一時間あまりも力をぬかない仕事熱心なところは結構であるが、カタワのヒガミや一徹で何を仕でかすか知れないような不気味なところが気にかかる。
「何をやらかし東京を食いつめたのだ」
「ちょいと借金ができちゃッてね。小金もちの後家さんにめぐりあいてえよ。ハッハ」
「フン。そッちを探した方が確かだ。田舎じゃア、アンマにかかろうてえお客の数は知れたものよ」
「ウチの師匠は小金もちの後家さんと一しょになってアンマの株を買ってもらッたんだそうですがね。だが、田舎と云っても足利なら、結構アンマで身が立つはずだ。私の兄弟子がお客のヒキで高崎へ店をもちましたが、羽ぶりがいいッで話さ。その高崎のお客てえのが、やッぱりここが定宿の人さ」
 アンマの問わず語り。
 昔は「アンマのつかみ取り」という言葉があった。今の人にはこの言葉の特殊の意味がわからない。アンマが人の肩をつかんでお金をとるのは当り前の話じゃないか。洒落にも、語呂合せにもなりやしない。バカバカしい、と思うだけのことであろう。
 それと云うのが「つかんで取る」の取るというのがピンとこないせいである。アンマ上下(かみしも)三百文(三銭)。当今は若干割高になって百五十円か二百円。決して特に取りやがるナという金ではない。大きな門構えの邸宅に「アンマもみ療治」の看板が出ているタメシはない。もんで取る金が微々たるシガない商売だから、「つかみ取り」の取るという言葉の力が全然ピンとこないのである。
 ところが、江戸時代はそうではない。料金は当今と比例の同じような微々たるものでも、縄張りがあった。八丁四方にアンマ一軒。これがアンマの縄張りだ。八丁四方に一軒以外は新規開業が許されないという不文律があったのである。
 だから、アンマの師匠の羽ぶりは大したものだ。多くの弟子抱えて、つかみ取らせる。師匠立派な妾宅なぞを構えて、町内では屈指のお金持である。直々師匠につかみ取ってもらうには、よほど辞を低うし、礼を厚くしなければならなかったものである。
 今ではアンマの型もくずれたが、昔のアンマは主としてメクラで、杉山流と云った。目明きアンマもいたが、これを吉田流と云い、埼玉の者に限って弟子入りを許されていた。メクラのアンマの方は生国に限定はない。
 明治になるとアンマの縄張りなぞという不文律は顧られなくなって、誰がどこへ開業しても文句がでなくなったから、つかみ取るのも容易な業ではなくなったが、それでも多くの弟子をかかえてつかみ取らせることができれば、アンマの師匠一人は悪い商売ではなかったのである。
 弁内が住みこんでいる師匠のウチは、人形町のサガミ屋というアンマ屋サン。
 弁内の問わず語りの通り師匠の銀一は小金持の後家のオカネと良い仲になり、株を買ってもらって開業したのだそうだ。その頃はまだアンマの株なぞがあったのだろう。開業当時は多くの弟子抱えて盛大につかみ取らせていたが、次第に時勢に押されて、商売仇きが多くなり、今では弟子がたった三人。弁内の兄弟子の角平と、見習の稲吉の三人メクラだけである。
 銀一は小金持のオカネと結婚してアンマの株を買ってもらったが、メクラ以外の者には羨しがられもしなかった。オカネの顔は四谷お岩と思えばマチガイない。メクラ以外の男はものの三十秒以上は結婚していられないという面相だった。
 オカネの片目はつぶれていたが、完全なメクラではなかった。片目はボンヤリ見えるのである。


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