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- 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ●太宰治【文豪ナビ 太宰治 ナイフを持つ前にダザイを読め!!】
  • 太宰治 『太宰治全集 3』 (ちくま文庫)
  • 太宰治をおもしろく読む方法 (単行本) 山口 俊雄 (編集)
  • 太宰治 人間失格 ヴィヨンの妻 お伽草子 惜別 津軽 5冊
  • 古書「太宰治全集 第2巻」筑摩書房、昭和46年発行
  • ◎◎ 太宰治集/人間失格 斜陽 走れメロス ヴィヨンの妻◎◎
  • 定本 太宰治全集 初版 筑摩書房 中古
  • 太宰治本「太宰萌え 入門者のための文学ガイドブック」岡崎武志
  • ◆◇ 太宰治著「女生徒」(角川文庫)
  • 朗読CD 朗読街道22「富嶽百景」太宰治 試聴あり
 もう、三十七歳になります。こないだ、或る先輩が、よく、まあ、君は、生きて来たなあ、としみじみ言っていました。私自身にも、三十七まで生きて来たのが、うそのように思われる事があります。戦争のおかげで、やっと、生き抜く力を得たようなものです。もう、子供が二人あります。上が女の子で、ことし五歳になります。下は、男の子で、これは昨年の八月に生れ、まだ何の芸も出来ません。敵機来襲の時には、妻が下の男の子を背負い、私は上の女の子を抱いて、防空|壕(ごう)に飛び込みます。先日、にわかに敵機が降下して来て、すぐ近くに爆弾を落し、防空壕に飛び込むひまも無く、家族は二組にわかれて押入れにもぐり込みましたが、ガチャンと、もののこわれる音がして、上の女の子が、やあ、ガラスがこわれたと、恐怖も何も感じない様子で、無心に騒ぎ、敵機が去ってから、もの音のした方へ行って見ると、やっぱり、三畳間の窓ガラスが一枚こわれていました。私は黙って、しゃがんで、ガラスの破片を拾い集めましたが、その指先が震えているので苦笑しました。一刻も早く修理したくて、まだ空襲警報解除されていないのに、油紙を切って、こわれた跡に張りつけましたが、汚い裏側のほうを外に向け、きれいなほうを内に向けて張ったので、妻は顔をしかめて、あたしがあとで致しますのに、あべこべですよ、それは、と言いました。私は、再び、苦笑しました。
 疎開しなければならぬのですけれど、いろいろの事情で、そうして主として金銭の事情で、愚図々々しているうちに、もう、春がやって来ました。
 ことしの東京の春は、北国の春とたいへん似ています。
 雪溶けの滴(しずく)の音が、絶えず聞えるからです。上の女の子は、しきりに足袋を脱ぎたがります。
 ことしの東京の雪は、四十年振りの大雪なのだそうですね。私が東京へ来てから、もうかれこれ十五年くらいになりますが、こんな大雪に遭った記憶はありません。
 雪が溶けると同時に、花が咲きはじめるなんて、まるで、北国の春と同じですね。いながらにして故郷疎開したような気持ちになれるのも、この大雪のおかげでした。
 いま、上の女の子が、はだしにカッコをはいて雪溶けの道を、その母に連れられて銭湯に出かけました。
 きょうは、空襲が無いようです。
 出征する年少の友人の旗に、男児|畢生(ひっせい)危機一髪、と書いてやりました。
 忙、閑、ともに間一髪。



底本:「もの思う葦」新潮文庫新潮社
   1980(昭和55)年9月25日発
   2002(平成14)年5月30日42刷改版
入力小山奈緒子
校正:土屋隆
2003年9月23日作成
青空文庫作成ファイル
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