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杜松の樹 - グリム ヤーコプ・ルードヴィッヒ・カール ( グリム ヤーコプ・ルードヴィッヒ・カール )

  • 【田村盆栽小品部】 杜松A24(樹高:23cm)
  • 特別出品 【杜松】 第17回 緑風盆栽展 出品樹!   
  • 鮎タモ枠(杜松)42cm(11番)
  • 【盆栽道楽】<<杜松 ③>>
  • ☆ 鮎タモ(アユ・万久作) ☆ 天然木の杜松(ネズ) ☆
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グリム 中島孤島訳  むかしむかし大昔(おおむかし)、今(いま)から二千|年(ねん)も前(まえ)のこと、一人(ひとり)の金持(かねも)ちがあって、美(うつ)くしい、気立(きだて)の善(い)い、おかみさんを持(も)って居(い)ました。この夫婦(ふうふ)は大層(たいそう)仲(なか)が好(よ)かったが、小児(こども)がないので、どうかして一人(ひとり)ほしいと思(おも)い、おかみさんは、夜(よる)も、昼(ひる)も、一|心(しん)に、小児(こども)の授(さず)かりますようにと祈(いの)っておりましたが、どうしても出来(でき)ませんでした。
 さてこの夫婦(ふうふ)の家(うち)の前(まえ)の庭(にわ)に、一|本(ぽん)の杜松(としょう)がありました。或(あ)る日(ひ)、冬(ふゆ)のことでしたが、おかみさんはこの樹(き)の下(した)で、林檎(りんご)の皮(かわ)を剥(む)いていました。剥(む)いてゆくうちに、指(ゆび)を切(き)ったので、雪(ゆき)の上(うえ)へ血(ち)がたれました。(*(註)杜松は檜類の喬木で、一に「ねず」又は「むろ」ともいいます)
「ああ、」と女(おんな)は深(ふか)い嘆息(ためいき)を吐(つ)いて、目(め)の前(まえ)の血(ち)を眺(なが)めているうちに、急(きゅう)に心細(こころぼそ)くなって、こう言(い)った。「血(ち)のように赤(あか)く、雪(ゆき)のように白(しろ)い小児(こども)が、ひとりあったらねい!」
言(い)ってしまうと、女(おんな)の胸(むね)は急(きゅう)に軽(かる)くなりました。そして確(たし)かに自分(じぶん)の願(ねがい)がとどいたような気(き)がしました。女(おんな)は家(うち)へ入(はい)りました。それから一|月(つき)経(た)つと、雪(ゆき)が消(き)えました。二|月(つき)すると、色々(いろいろ)な物(もの)が青(あお)くなりました。三|月(つき)すると、地(じ)の中(なか)から花(はな)が咲(さ)きました。四|月(つき)すると、木々(きぎ)の梢(こずえ)が青葉(あおば)に包(つつ)まれ、枝(えだ)と枝(えだ)が重(かさ)なり合(あ)って、小鳥(ことり)は森(もり)に谺(こだま)を起(お)こして、木(き)の上(うえ)の花(はな)を散(ち)らすくらいに、歌(うた)い出(だ)しました。五|月(つき)経(た)った時(とき)に、おかみさんは、杜松(ねず)の樹(き)の下(した)へ行(ゆ)きましたが、杜松(としょう)の甘(あま)い香気(かおり)を嚊(か)ぐと、胸(むね)の底(そこ)が躍(おど)り立(た)つような気(き)がして来(き)て、嬉(うれ)しさに我(われ)しらずそこへ膝(ひざ)を突(つ)きました。六|月目(つきめ)が過(す)ぎると、杜松(ねず)の実(み)は堅(かた)く、肉(にく)づいて来(き)ましたが、女(おんな)はただ静(じっ)として居(い)ました。七|月(つき)になると、女(おんな)は杜松(ねず)の実(み)を落(おと)して、しきりに食(た)べました。するとだんだん気(き)がふさいで、病気(びょうき)になりました。それから八|月(つき)経(た)った時(とき)に、女(おんな)は夫(おっと)の所(ところ)へ行(い)って、泣(な)きながら、こう言(い)いました。
「もしかわたしが死(し)んだら、あの杜松(としょう)の根元(ねもと)へ埋(う)めて下(くだ)さいね。」
 これですっかり安心(あんしん)して、嬉(うれ)しそうにしているうちに、九|月(つき)が過(す)ぎて、十|月目(つきめ)になって、女(おんな)は雪(ゆき)のように白(しろ)く、血(ち)のように赤(あか)い小児(こども)を生(う)みました。それを見(み)ると、女(おんな)はあんまり喜(よろこ)んで、とうとう死(し)んでしまいました。
 夫(おっと)は女(おんな)を杜松(としょう)の根元(ねもと)へ埋(う)めました。そしてその時(とき)には、大変(たいへん)に泣(な)きましたが、時(とき)が経(た)つと、悲(かなし)みもだんだん薄(うす)くなりました。それから暫(しばら)くすると、男(おとこ)はすっかり諦(あきら)めて、泣(な)くのをやめました。それから暫(しばら)くして、男(おとこ)は別(べつ)なおかみさんをもらいました。
 二|度目(どめ)のおかみさんには、女(おんな)の子(こ)が生(う)まれました。初(はじめ)のおかみさんの子(こ)は、血(ち)のように赤(あか)く、雪(ゆき)のように白(しろ)い男(おとこ)の子(こ)でした。おかみさん自分(じぶん)の娘(むすめ)を見(み)ると、可愛(かわゆ)くって、可愛(かわゆ)くって、たまらないほどでしたが、この小(ちい)さな男(おとこ)の子(こ)を見(み)るたんびに、いやな気持(きもち)になりました。どうかして夫(おっと)の財産(ざいさん)を残(のこ)らず自分(じぶん)の娘(むすめ)にやりたいものだが、それには、この男(おとこ)の子(こ)が邪魔(じゃま)になる、というような考(かんが)えが、始終(しじゅう)女(おんな)の心(こころ)をはなれませんでした。それでおかみさんは、だんだん鬼(おに)のような心(こころ)になって、いつもこの子(こ)を目(め)の敵(かたき)にして、打(ぶ)ったり、敲(たた)いたり、家中(うちじゅう)を追廻(おいまわ)したりするので、かわいそうな小児(こども)は、始終(しょっちゅう)びくびくして、学校(がっこう)から帰(かえ)っても、家(うち)にはおちついていられないくらいでした。
 或(あ)る時(とき)、おかみさんが、二|階(かい)の小部屋(こべや)へはいっていると、女(おんな)の子(こ)もついて来(き)て、こう言(い)いました。
「母(かあ)さん、林檎(りんご)を頂戴(ちょうだい)。」
「あいよ。」とおかあさんが言(い)って、函(はこ)の中(なか)から美麗(きれい)な林檎(りんご)を出(だ)して、女(おんな)の子(こ)にやりました。その函(はこ)には大(おお)きな、重(おも)い蓋(ふた)と頑固(がんこ)な鉄(てつ)の錠(じょう)が、ついていました。
「母(かあ)さん、」と女(おんな)の子(こ)が言(い)った。「兄(にい)さんにも、一つあげないこと?」
 おかあさんは機嫌(きげん)をわるくしたが、それでも何気(なにげ)なしに、こういいました。
「あいよ、学校(がっこう)から帰(かえ)って来(き)たらね。」
 そして男(おとこ)の子(こ)が帰(かえ)って来(く)るのを窓(まど)から見(み)ると、急(きゅう)に悪魔(あくま)が心(こころ)の中(なか)へはいってでも来(き)たように、女(おんな)の子(こ)の持(も)っている林檎(りんご)をひったくって、
「兄(にい)さんより先(さき)に食(た)べるんじゃない。」
と言(い)いながら、林檎(りんご)を函(はこ)の中(なか)へ投込(なげこ)んで、蓋(ふた)をしてしまいました。
 そこへ男(おとこ)の子(こ)が帰(かえ)って来(き)て、扉(と)の所(ところ)まで来(く)ると、悪魔(あくま)のついた継母(ままはは)は、わざと優(やさ)しい声(こえ)で、
「坊(ぼう)や、林檎(りんご)をあげようか?」といって、じろりと男(おとこ)の子(こ)の顔(かお)を見(み)ました。
「母(かあ)さん、」と男(おとこ)の子(こ)が言(い)った。「何(なん)て顔(かお)してるの! ええ、林檎(りんご)を下(くだ)さい。」
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母(ままはは)は部屋(へや)へはいって、函(はこ)の蓋(ふた)を持上(もちあげ)げながら、「さア自分(じぶん)で一個(ひとつ)お取(と)りなさい。」
 こういわれて、男(おとこ)の子(こ)が函(はこ)の中(なか)へ頭(あたま)を突込(つっこ)んだ途端(とたん)に、ガタンと蓋(ふた)を落(おと)したので、小児(こども)の頭(あたま)はころりととれて、赤(あか)い林檎(りんご)の中(なか)へ落(お)ちました。それを見(み)ると、継母(ままはは)は急(きゅう)に恐(おそ)ろしくなって、「どうしたら、脱(のが)れられるだろう?」と思(おも)いました。そこで継母(ままはは)は、自分(じぶん)の居室(いま)にある箪笥(たんす)のところに行(い)って、手近(てぢか)の抽斗(ひきだし)から、白(しろ)い手巾(はんけち)を出(だ)して来(き)て、頭(あたま)を頸(くび)に密着(くっつ)けた上(うえ)を、ぐるぐると巻(ま)いて、傷(きず)の分(わか)らないようにし、そして手(て)へ林檎(りんご)を持(も)たせて、男(おとこ)の子(こ)を入口(いりぐち)の椅子(いす)の上(うえ)へ坐(すわ)らせておきました。
 間(ま)もなく、女(おんな)の子(こ)のマリちゃんが、今(いま)ちょうど、台所(だいどころ)で、炉(ろ)の前(まえ)に立(た)って、沸立(にえた)った鍋(なべ)をかき廻(まわ)しているお母(かあ)さんのそばへ来(き)ました。
「母(かあ)さん、」とマリちゃんが言(い)った。「兄(にい)さんは扉(と)の前(まえ)に坐(すわ)って、真白(まっしろ)なお顔(かお)をして、林檎(りんご)を手(て)に持(も)っているのよ。


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