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- 岡本 かの子 ( おかもと かのこ )

  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 4』岡本かの子 寺田寅彦★1円
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  • 鮨 岡本かの子 初版 戦前 文学 小説 昭和16年
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  • 0805 日本の文学46 宇野千代・岡本かの子 昭和44年4月初版
  • 佐藤春夫 『掬水譚』 岡本かの子宛署名本 谷崎潤一郎
ばないのち一ぱいに咲くからに生命(いのち)をかけてわが眺(なが)めたり さくら花(ばな)咲きに咲きたり諸立(もろだ)ちの棕梠(しゆろ)春光(しゆんくわう)にかがやくかたへ この山の樹樹(きぎ)のことごと芽ぐみたりのつぼみ稍(やや)ややにゆるむ ひつそりと欅(けやき)大門(だいもん)とざしありひつそりと咲きてあるかも 丘の上のさく家(いへ)の日あたりに啼(な)きむつみ居(を)る親豚子豚 ひともとのの幹(みき)につながれし若駒(わかごま)の瞳(め)のうるめる愛(かな)し 淋しげに今年(ことし)の春も咲くものか一樹(ひとき)は枯(か)れしその傍(そば)の 春さればさくらさきけり花蔭(はなかげ)の淀(よど)の浮木(ふぼく)の苔(こけ)も青めり ひえびえと咲きたわみたる花(はな)のしたひえびえとせまる肉体の感じ 散りかかり散りかかれども棕梠の葉に散る花(はな)ふぶき溜(たま)るとはせず ならび咲くの吹雪(ふぶき)ぽぷらあの若芽(わかめ)の枝の枝ごとにかかる わが庭の|日和(びより)の真昼なれ贈りこしこれのつやつや林檎(りんご) 青森林檎の箱ゆつやつやと取り出(い)でてつきず花(はな)の樹(こ)のもと 林檎むく幅広(はばひろ)ないふまさやけく咲き満(み)てる花(はな)の影うつしたり 地震(なゐ)崩(くづ)れそのままなれや石崖に枝垂(しだ)れは咲き枝垂れたり しんしんと花(さくら)かこめる夜(よる)の家|突(とつ)としてぴあの鳴りいでにけり しんしんと花(はな)ふかき奥にいつぽんの道とほりたりわれひとり行(ゆ)く せちに行けかし春はの樹下(こした)みちかなしめりともせちに行けかし さくら花ひたすらめづる片心(かたごころ)せちに敵(かたき)をおもひつつあり 朝ざくら討たば討(う)たれむその時の臍(ほぞ)かためけりこの朝のさくら あだかたきうらみそねみの畜生(ちくしやう)が花(さくら)見てありとわれに驚く わが婢(はした)なにおもふらむ廚辺(くりやべ)の花(はな)の樹(こ)のもとにあちらむき停(た)てり この朝の花(はな)の樹(こ)のもと小心の与作(よさく)ものつと歩み出でたり わが幼稚(をさな)さひたはづかしし立ち優(まさ)り咲き揃(そろ)ひたる春花(はるはな)なれや 咲きこもる花(はな)ふところゆ一(ひと)ひらの白刃(しろは)こぼれて夢さめにけり わがころも夜具(やぐ)に仕換(しか)へてつつましく掻(か)い寝(いね)てけり月夜(つくよ)夜ざくら 角(つの)立ちのみじかきからに牛の角(つの)つのだち行けどふれずさくらに いみじくも枝垂(しだ)るるさくら日(ひ)の本(もと)の良子(ながこ)女王(によわう)が素直(なほ)きおん眉(まゆ) 可愛(かあ)ゆしといふわが言の畏(かし)こけれ花(さくら)見ますかわが良子ひめ 新しき家居(いへゐ)の門(かど)に花(はな)咲けど夜(よ)を暗み提灯(ちやうちん)つけて出(い)でけり 花(はな)さける道は暗けど一(いつ)しんに提灯ふりて歩みけるかも わが持てる提灯の炎(ひ)はとどかずてはただに闇(やみ)に真白し いつぽんのすずしく野に樹(た)てりほかにいつぽんの樹もあらぬ野に ばな暗夜(やみよ)に白くぼけてあり墨(すみ)一色(いつしき)の藪(やぶ)のほとりに つぶらかにわが眼(め)を張(は)ればつぶつぶに光こまかき朝かも ひんがしの家(や)の白かべに八重(やへ)ざくら淋漓(りんり)と花のかげうつしたり さくら咲く丘のあなたの空の果て朝やけ雲の朱(しゆ)を湛(たた)へたり わだつみの豊旗雲(とよはたぐも)のあかねいろ大和(やまと)島根(しまね)の春花(はるはな)に映(は)ゆ ひさかたの光のどけしちるここの丘辺(をかべ)を過ぐる葬列(さうれつ) ほそほそと雫(しづく)しだるる糸ざくら西洋婦人|濡(ぬ)れてくぐるも 糸ほそき腕(かひな)がひしひしとわが真額(まひたへ)をむちうちにけり わが家(いへ)の遠(とほ)つ代(よ)にひとり美しき娘ありしといふ雨夜(あまよ)夜ざくら 真玉(まだま)なす花(はな)のしづくに白黒のだんだら犬がぬれて停(た)ちたり 折々(をりをり)にしづくしたたる花(はな)のかげ女靴(めぐつ)のあとのとびとびに残る ほそほそと花(はな)の奥より見えて来る灯(ひ)にまさりたる淋しき灯なし 花(はな)の奥なにたからかに語り来る人ありて姿なかなか見えず 糸杉(いとすぎ)のみどり燃えたりそのかたへふわふわ咲き白(しら)むかも さく丘にのぼれば遠(をち)かたの松ふく風の声かそかなり この丘の花(さくら)のもとゆ見はるかす遠松原(とほまつばら)のほのぼのしかも 松の間(ま)にさきたり松の葉の黒きひまよりうす紅(べに)ざくら ミケロアンゼロの憂鬱(いううつ)はわれを去らずけり花(さくら)の陰影(かげ)は疲れてぞ見ゆれ 花(はな)あかりさす弥生(やよひ)こそわが部屋にそこはかとなく淀(よど)む憂鬱 かなしみがやがて黒める憂鬱となりて術(すべ)なし花(はな)のしたみち 早春の風ひようひようと吹きにけりかちかちに莟(つぼ)む|並木(なみき)を かちかちにつぼむの樹下(こした)みちしなび蜜柑(みかん)を曳(ひ)いて通るも さくら咲くあかるき外(と)には立ちにけりわが衣(きぬ)の皺(しわ)にはかに著(しる)し 仁丹(じんたん)の広告灯が青くまた赤く照(てら)せり夜(よ)のばな 花(さくらばな)軒場(のきば)に近し頬(ほ)にあつるかみそりの冷えのうすらさびしき 山川のどよみの音のすさまじきどよみの傍(そば)の一本(ひともと) 花(はな)さけど廚(くりや)女房いつしんに働きてあり釜(かま)ひかる廚 裏庭のひよろひよろてふずばの手ふき手ぬぐひ薄汚(うすよご)れたり しんしんと家をめぐりてさくおぞけだちたり夜半(よは)にめざめて けふ咲けるはわれに要(えう)あらじひとの嘘(うそ)をばひたに数(かぞ)ふる さかんなるはわれになまぬるき「許しの心」あに教ふべしや 薄月夜(うすづくよ)こよひひそかに海鳥(うみどり)がこの丘(をか)の花をついばみに来(こ)む この丘に散る夜(よ)なり黒玉(ぬばたま)の海に白帆(しらほ)はなに夢むらむ 夜(よ)は夜とて闇の小床(をどこ)に淡星(あはぼし)と語らふものか小(こ)ざくら こよひわきて花(はな)の上なる暗空(やみぞら)に光するどき星ひとつあり ひとり見る山ざくらばな胃を病(や)みてほろほろ苦き舌を含(ふふ)めり ねむたげな|並木(なみき)を一声(ひとこゑ)の汽笛(きてき)の音がつつ走りけり 駅前石炭の層にうらうらと花(はな)ちりかかる真昼なりけり 自動車の太輪(ふとわ)の砂塵(さぢん)もうもうとたちけむりつつ道の辺(べ)の 真白なる鶏(くだかけ)ひとつ今朝(けさ)みれば血に染(そ)みてあり花(はな)の樹(こ)のもと 空高く咲けどもわがたどる一本の道は岩根(いはね)こごしき さくらばな咲く春なれや偽(いつは)りもまことも来よやともに眺(なが)めな 日(ひ)の本(もと)の春のあめつち豪華(がうくわ)なる花(さくら)の層をうちに築きたり おのづから蔭影(かげ)こそやどれ咲き満(み)てる花(さくら)の層のこのもかのもに にほやかにさくら描(か)かむと春陽(はるひ)のもとぬばたまの墨(すみ)をすり流したり にほやかにさくら描(ゑが)きておみな子(ご)も金(かね)もうけむとおもひ立ちたり おみな子の金もうくるを笑はざれ日本のさくら震後の 日本の震後のさくらいかならむ色にさくやと待ちに待ちたり 金ほしきおみなとなりて眺(なが)むれどの色は変(かわ)らざりけり 金ほしき今年の春のおのれかもいやうるはしとをば見つ このわれや金とり初(そ)めの日(ひ)の本(もと)の震後の花(はな)の真盛りの今日(けふ) 停電電車のうちゆつくづくと都(みやこ)の花(はな)をながめたるかも さく頃ともなればわきてわが疲(つか)るる日こそ数は多けれ かろき疲れさくらさく椽(えん)にかりそめの綻(ほころ)びもわがつくろはずけり しばたたきうちしばたたき眼(め)を病(や)めるわれやをまともには見ず さくら花(ばな)まぼしけれどもやはらかく春のこころに咲きとほりたり うつらうつらわが夢むらく遠方(をちかた)の水晶山に散るさくら花 うちわたすの長道(ながて)はろばろとわがいのちをば放ちやりたり 外(と)の面(も)には|盛(さか)るをわが瓶(へい)の室咲(むろざ)きの薔薇(ばら)ははやもしぼめり 真黒くわれ動(うごか)ざりあしたより花(はな)は窓辺(まどべ)に散りに散れども ひそかなる独言(ひとりごと)なれけふ聞きてあすは忘れよひともと 遠稲妻(とほいなづま)そらのいづこぞうちひそみこの夜(よざくら)のもだし愛(かな)しも かきくもる大空のもとひそやかに息づきにつつこの丘の かそかなる遠雷(とほいかづち)を感じつつひつそりとさき続きたり なごやかに空くもりつつ咲き盛(さか)るを一日(ひとひ)うち和(なご)めたり 気難(きむづ)かしきこの家(や)の主人(あるじ)むづかしき顔しつつさくら移植(うつ)させて居(を)り 歌麿(うたまろ)の遊女(いうぢよ)の襟(えり)の小(こざくら)がわが傘(からかさ)にとまり来にけり 政信(まさのぶ)の遊女の袖(そで)に散るさくらいかなる風にかつ散りにけん うたかた流れの岸に広重(ひろしげ)が現(うつつ)の花(はな)を描(か)き重ねたり 咲き倦(う)みて白くふやけし花(はな)のいろ欠伸(あくび)かみつつわが見やりたり みちばたのさくらの太根(ふとね)玉葱(たまねぎ)を懇(ねもごろ)いだきわがいこひたり ほろほろとちれども玉葱はむつつりとしてもの言はずけり 何がなしかなしくなれりもの言はぬ玉葱に散り散り滑(すべ)るさくら ここに散るは白し玉葱薄茶(うすちや)の皮ゆ青芽(あをめ)のぞけり 春浅しここの丘辺(をかべ)の裸木(はだかぎ)の|並木(なみき)を歩(あゆ)みつつかなし さくら木のその諸立(もろだ)ちのはだか木にこもらふ熱を感ぜざらめや 松の葉の一葉(ひとは)一葉に濃(こま)やけく照る陽(ひ)のひかりにも照る 若竹(わかたけ)のあさきみどりに山ざくら淡淡(あはあは)と咲きて添(そ)ひ樹(た)てるかも 花(さくらばな)ちりて腐(くさ)れりぬかるみに黒く腐れる椿(つばき)がほとり 地を撲(う)ちて大輪(たいりん)つばき折折(をりをり)に落つるすなはち散り積むさくら 大寺(おほでら)の庭に椿は敷(し)き腐り木蓮(もくれん)の枝に散りかかる ぼたんここだく樹(た)てり尼(あま)たちが紐(ひも)かけ渡し白衣(びやくえ)干(ほ)すかも 鬱(うつ)として曇天(どんてん)のしたに動かざり梢(こずゑ)のさくら散り敷けるさくら どんよりと曇天に一樹(ひとき)立つさくら散るとしもなく散る花のあり 一天(いつてん)は墨(すみ)すり流し満山(まんざん)ののいろは気負(きお)ひたちたり 見渡せば河しも遠し河しもの瀬瀬(せぜ)にうつれる春花(はるはな)のかげ 急阪(きふはん)のいただき昏(くら)し濛濛(もうもう)とのふぶき吹きとざしたり さやさやと竹さやぐからに出(い)でて見ればしんとが咲き居(ゐ)たるかも 塔(たふ)の沢のいかもの店に女唐(めたう)停(た)ちその向(むか)つ峰(を)の花(はな)盛りなり いかものを女唐買ひたりその女唐箱根の花(はな)の下みちを行く わがままはやめなとぞおもへしかはあれ春さり来ればさきけり 花(はな)の山は淡墨(うすずみ)いろに暮れにけり大烏(おほがらす)一羽ひつそり帰る 大暴風(おほあらし)うすずみ色の生壁(なまかべ)にさくら許多(ここだ)くたたきつけたり ここにして|並木(なみき)はつきにけり遠浪(とほなみ)の音かそかにはする 花(はな)の山はうしろに高し見はるかす淡墨いろのたそがれの海 いそがはしく吾(われ)を育ててわが母や長閑(のど)にも見で逝(ゆ)きませしか 十年(ととせ)まへの狂院(きやうゐん)のさくら狂人(きちがひ)のわれが見にける狂院のさくら 狂人のわれが見にける十年まへの真赤きさくら真黒きさくら 狂人(きちがひ)よ狂人(きちがひ)よとてはやされき花(さくら)や云(い)ひし人間(ひと)や笑ひし ふたたびは見る春|無(な)けむ狂人(きちがひ)のわれに咲きけむ炎の わが夫(つま)よ十年(ととせ)昔のきちがひのわが恐怖(おそれ)たる花(はな)あらぬ春 ねむれねむれ子よ汝(な)が母がきちがひのむかし怖れし花(はな)あらぬ春 人間の交友(まじわり)のはてはみな儚(はか)な見つつし行きがてぬかなし (来よと宣(の)らせる佐藤春夫氏に厚く謝しつつ) 花(はな)あかり廚(くりや)にさせば生魚(なまざかな)鉢(はち)に三ぼん冴(さ)えひかりたり 生ざかな光りて飛べりうす紅(べに)のの肌の澄(す)みの冷たさ 底本:「愛よ、愛」メタローグ    1999(平成11)年5月8日第1刷発行 底本の親本:「全集冬樹社    1976(昭和51)年発行 ※「椽(えん)」の表記について、底本は、原文を尊重したとしています。 入力:門田裕志 校正:土屋隆 2004年2月17日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネット図書館青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力校正制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


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