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母親 - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )

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  • 美品■VERY 2010年7月号■理想の母親像白書 送料80円
  • 女性ワンオーナー禁煙車(母親)☆車検付H23年8月☆H16年登録☆
  • ◆ 母親よりも恵まれた結婚ができない理由 岩月謙司
  • ◎VERY ヴェリィ 2010年7月号 /「理想の母親像」白書
  • 男の子を伸ばす母親は、ここが違う!伝説のカリスマ家庭教師が説
  • とんでもない母親と情ない男の国日本◆マークス 寿子◆草思社
  • あなたの知らないアンデルセン4冊/影・雪だるま・母親・人魚姫
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 ――癖というのか、習慣というのか、へんなことが知らず識らずに身についてくる。吉岡にもそれがあった。十一月十五日、七・五・三の祝い日に、彼は炬燵開きをするのだった。炬燵開きといっても、大したことではない。独身の貧しい彼のことだ。押入の片隅から、古ぼけた炬燵薄い掛布団とを取り出し、ぱっぱっと埃を払い、炭火を入れれば、それでよい。日当りのよい六畳の室だから、暖い日が続けば、炬燵は隅っこに押しやっておく。だが、最初の日だけは、炬燵温度をしばらく楽しむのである。今年も、七・五・三の祝い日、彼は会社への出勤を休んで、炬燵開きをし、薄曇りの空を硝子戸ごしに眺めながら、とりとめもない夢想に耽った。五合の酒に、スルメとピーナツ、それだけで結構、午後の半日が楽しめるのである。火鉢に、酒の燗をする湯までわかしているので、室の中は暖い。だが、戸外の空気は冷たかった。その冷たい空気のなかを、信子が、七つになる娘の喜久子を連れて歩いている……。
 信子も喜久子も、ふだん着のままだ。
 信子は片手に、藁であんだ買物袋をさげ、片手で、娘の手を引いている。娘の手が如何にも貴いものであるかのように、心からの温かみをこめて、しっとりと担っている。娘の方も、母の手に心から縋っている。買物袋の中には、鶏肉が百匁、竹の皮と新聞紙と二重に包んで、ぽっちりとはいっている。
 一方はまだ戦災の焼跡のままになってる四辻まで来ると、信子は娘をかえり見る。
ちょっと、お詣りして来ましょうね。」
「どこ?」
今日ね、七・五・三のお祝いの日ですよ。あなたも七つだから、氏神さまに、お詣りしましょう。」
「ああ、七・五・三て、聞いたわ。きれいな着物をきて、神さまに、お詣りするんでしょう。」
「そうよ。でも、買物の帰りですから、この儘でいいのよ。」
 二人は神社の方へ曲って行く。
 ――吉岡はかじっていたスルメを捨てて、酒をぐいぐい飲んだ……。信子よ、幼い者に向って、なぜ嘘をつくのか。七・五・三の晴着がなければ、ないでいいじゃないか。ないのをむしろ誇りとしたらどうか。初めからお詣りをするつもりでいたくせに、わざわざ買物袋などをさげ、買物の帰りだからふだん着のままでよいなどと、なぜごまかすのか。幼い者にはありの儘を言って聞かせなさい。そうだ、あの衣裳屋の店先に立っていたことも、すっかり言って聞かせなさい。
 信子は店先に暫く佇んで、それから中へはいって行く。
 出来合いの女服と子供服が両側にずらりと掛けてある。その子供服の方へ信子は行って、縞模様を晩め、定価を見調べ、思案してはまた眺め、次第に奥へはいってゆく。突き当り卓上には、反物が積み上げてある。そこから、一人の店員が出て来る。
「お子様のものでございますか。新柄がたくさん取揃えてありますが、お幾つぐらいでございましょう。」
 信子は眼を大きくし、口を少し開いて、言葉もなく立ちつくす。どうしてこんな奥まではいり込んだのか、自分でもびっくりしてるようだ。
今日は、ちょっと見ただけで、またにしますわ。」
 呟くように言い、くるりと向き直って、店を出る。そして逃げるように、足早に立ち去って行く。
 ――吉岡はやけにピーナツを指先でおし潰し、そして酒を飲んだ……。信子よ、娘の衣裳を買ってやりたいというその気持ちは分るが、買う金もないのに、どうしてあのような店にふらふらとはいって行ったのか。なぜ抵抗しなかったのか。抵抗することによってこそ、人間は強くなる。


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