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- 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ●太宰治【文豪ナビ 太宰治 ナイフを持つ前にダザイを読め!!】
  • 太宰治 『太宰治全集 3』 (ちくま文庫)
  • 太宰治をおもしろく読む方法 (単行本) 山口 俊雄 (編集)
  • 太宰治 人間失格 ヴィヨンの妻 お伽草子 惜別 津軽 5冊
  • 古書「太宰治全集 第2巻」筑摩書房、昭和46年発行
  • ◎◎ 太宰治集/人間失格 斜陽 走れメロス ヴィヨンの妻◎◎
  • 定本 太宰治全集 初版 筑摩書房 中古
  • 太宰治本「太宰萌え 入門者のための文学ガイドブック」岡崎武志
  • ◆◇ 太宰治著「女生徒」(角川文庫)
  • 朗読CD 朗読街道22「富嶽百景」太宰治 試聴あり
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 昭和二十年の八月から約一年箇月ほど、本州の北端の津軽の生家で、所謂(いわゆる)疎開(そかい)生活をしていたのであるが、そのあいだ私は、ほとんど家の中にばかりいて、旅行らしい旅行は、いちども、しなかった。いちど、津軽半島日本海側の、或(あ)る港町遊びに行ったが、それとて、私の疎開していた町から汽車で、せいぜい三、四時間の、「外出」とでも言ったほうがいいくらいの小旅行であった。
 けれども私は、その港町の或る旅館に一泊して、哀話、にも似た奇妙事件に接したのである。それを、書こう。
 私が津軽疎開していた頃は、私のほうから人を訪問した事は、ほとんど無かったし、また、私を訪問して来る人もあまり無かった。それでも時たま、復員青年などが、小説の話を聞かして下さい、などと言ってやって来る。
地方文化、という言葉がよく使われているようですが、あれは、先生、どういう事なんでしょうか。」
「うむ。僕にもよくわからないのだがね。たとえば、いまこの地方には、濁酒がさかんに作られているようだが、どうせ作るなら、おいしくて、そうしてたくさん飲んでも二日酔いしないような、上等なものを作る濁酒に限らず、イチゴ酒でも、桑(くわ)の実酒でも、野葡萄(のぶどう)の酒でも、リンゴの酒でも、いろいろ工夫(くふう)して、酔い心地のよい上等品を作る。たべものにしても同じ事で、この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらす。そうして皆で愉快に飲みかつ食う。そんな事じゃ、ないかしら。」
先生は、濁酒などお飲みになりますか。」
「飲まぬ事もないが、そんなに、おいしいとは思わない。酔い心地も、結構でない。」
「しかし、いいのもありますよ。清酒とすこしも変らないのも、このごろ出来るようになったのです。」
「そうか。それがすなわち、地方文化進歩というものなのかも知れない。」
「こんど、先生のところに持って来てもいいですか。先生は、飲んで下さいますか。」
「それは、飲んであげてもいい。地方文化研究のためですからね。」
 数日後に、その青年は、水筒お酒をつめて持って来た。
 私は飲んでみて、
「うまい。」
 と言った。
 清酒と同様に綺麗(きれい)に澄んでいて、清酒よりも更に濃い琥珀(こはく)色で、アルコール度もかなり強いように思われた。
「優秀でしょう?」
「うむ。優秀だ。地方文化あなどるべからずだ。」
それから先生、これが何だかわかりますか?」
 青年は持参の弁当箱の蓋(ふた)をひらいて卓上に置いた。
 私は一目見て、
「蛇(へび)だ。」
 と言った。
「そうです。マムシの照り焼です。これもまた、地方文化の一つじゃないでしょうか。この地方の産物を、出来るだけおいしくたべる事に、独自の工夫をこらした結果、こんなものが出来上ったんです。地方文化研究のためにも、たべてみて下さい。」
 私は、観念して、たべた。
「いかがです。おいしいでしょう?」
「うむ。」
「精が、つきますよ。これを、一度に五寸以上たべると、鼻血が出ます。先生はいま、二寸たべましたから、まだ大丈夫。もう二寸たべてごらんなさい。四寸くらいたべたら、ちょうどからだにいいでしょう。」
 私は仕方なく、
「それでは、もう二寸、ごちそうになりましょう。」
 と言って、たべた。


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