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沈黙の塔 - 森 鴎外 ( もり おうがい )

  • ハヤカワポケットミステリ「沈黙のセールスマン」「負け犬」2冊
  • ◆即決◆(少年隊) 愛と沈黙 / 9A97
  • ♪ LD 『羊たちの沈黙』 (日本語字幕)
  • ★羊たちの沈黙★トマス・ハリス ★菊池光訳★新潮文庫★
  • 悪魔の沈黙 笹沢左保 カッパノベルス 同梱包不可
  • T・ハリス:羊たちの沈黙、ハンニバル他全7冊
  • 紙片堂:サンリオSF文庫 トム・リーミイ「沈黙の声」
  • 【HPB1457】沈黙のセールスマン★マイクル・Z・リューイン
  • ウィルスン・タッカー「長く大いなる沈黙」
  • 沈黙の王 (宮城谷 昌光)
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 高い塔が夕(ゆうべ)の空に聳(そび)えている。  塔の上に集まっている鴉(からす)が、立ちそうにしてはまた止まる。そして啼(な)き騒いでいる。
 鴉の群れを離れて、鴉の振舞(ふるまい)を憎んでいるのかと思われるように、鴎(かもめ)が二三羽、きれぎれの啼声をして、塔に近くなったり遠くなったりして飛んでいる。
 疲れたような馬が車を重げに挽(ひ)いて、塔の下に来る。何物かが車から卸されて、塔の内に運び入れられる。
 一台の車が去れば、次の一台の車が来る。塔の内に運び入れられる品物はなかなか多いのである。
 己(おれ)は海岸に立ってこの様子を見ている。汐(しお)は鈍く緩く、ぴたりぴたりと岸の石垣を洗っている。市の方から塔へ来て、塔から市の方へ帰る車が、己の前を通り過ぎる。どの車にも、軟(やわらか)い鼠色(ねずみいろ)の帽の、鍔(つば)を下へ曲げたのを被(かぶ)った男が、馭者台(ぎょしゃだい)に乗って、俯向(うつむ)き加減になっている。
 不精らしく歩いて行く馬の蹄(ひづめ)の音と、小石に触れて鈍く軋(きし)る車輪の響とが、単調に聞える。
 己は塔が灰色の中に灰色で画(えが)かれたようになるまで、海岸に立ち尽(つく)していた。

       *          *          *

 電灯の明るく照っている、ホテルの広間に這入ったとき、己は粗い格子の縞羅紗(しまらしゃ)のジャケツとずぼんとを着た男の、長い脚を交叉(こうさ)させて、安楽椅子(いす)に仰向けに寝たように腰を掛けて新聞を読んでいるのを見た。この、柳敬助という人の画が toile(トアル) を抜け出たかと思うように脚の長い男には、きのうも同じ広間で出合ったことがあるのである。
何か面白い事がありますか」と、己は声を掛けた。
 新聞を広げている両手位置を換えずに、脚長は不精らしくちょいと横目でこっちを見た。「Nothing at all!」物を言い掛けた己に対してよりは、新聞に対して不平なような調子で言い放ったが、暫(しばら)くして言い足した。「また椰子(やし)の殻に爆弾を詰めたのが二つ三つあったそうですよ。」
革命党ですね。」
 己は大理石の卓の上にあるマッチ立てを引き寄せて、煙草に火を附けて、椅子に腰を掛けた。
 暫くしてから、脚長が新聞を卓の上に置いて、退屈らしい顔をしているから、己はまた話し掛けた。「へんな塔のある処へ往って見て来ましたよ。」
「Malabar(マラバア) hill(ヒル) でしょう。」
「あれはなんの塔ですか。」
沈黙の塔です。」
「車で塔の中へ運ぶのはなんですか。」
死骸(しがい)です。」
「なんの死骸ですか。」
「Parsi(パアシイ) 族の死骸です。」
「なんであんなに沢山死ぬのでしょう。コレラでも流行(はや)っているのですか。」
殺すのです。また二三十人殺したと、新聞に出ていましたよ。」
「誰(たれ)が殺しますか。」
仲間同志で殺すのです。」
「なぜ。」
危険書物読む奴(やつ)を殺すのです。」
「どんな本ですか。」
自然主義社会主義との本です。」
「妙な取り合せですなあ。」
自然主義の本と社会主義の本とは別々ですよ。」
「はあ。どうも好く分かりませんなあ。本の名でも知れていますか。」
「一々書いてありますよ。」脚長は卓の上に置いた新聞を取って、広げて己の前へ出した。
 己は新聞を取り上げて読み始めた。脚長は退屈そうな顔をして、安楽椅子に掛けている。


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