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河童の話 - 折口 信夫 ( おりくち しのぶ )

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  • 妹尾河童 『河童の手のうち幕の内』文庫 切手可
  • 妹尾河童 『河童が覗いた仕事場』文庫 切手可
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  • 河童が覗いたインド / 著:妹尾河童 ◆新潮文庫◆
  • 河童が覗いたヨーロッパ / 著:妹尾河童 ◆新潮文庫◆
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私はふた夏、壱岐の国へ渡つた。さうして此島が、凡北九州一円の河童伝説の吹きだまりになつてゐた事を知つた。尚考へて見ると、仄かながら水の神信仰の古い姿が、生きてこの島びとの上にはたらいて居るのを覚つた。其と今一つ、私はなるべく、認識不十分な他人の記録の奇事異聞を利用する前に、当時の実感を印象する自分の採訪帳を資料とする事が、民俗学問の上に最大切な態度であると思ふ故に、壱岐及びその近島の伝承中心として、この研究概要書く、一つの試みをもくろんだのである。
この話は、河童が、海の彼岸から来る尊い水の神の信仰に、土地々々の水の精霊の要素を交へて来たことを基礎として、綴つたのである。たゞ、茲には、その方面の証明の、甚しく興味のないのを虞れて、単に既に決定した前提のやうにして、書き進めたのである。
この話の中にさしこんだ河童の図は、すべて、元熊本藩水練師範小堀平七さんの家に伝る、河童絵巻から拝借した。



     一 河童の女


河郎の恋する宿や夏の月

蕪村の句には、その絵に封ぜられたものが、極端に出てゐる。自由にふるまうた様でも、流派の伝襲には勝てなかつたのである。彼の心の土佐絵や浮世絵は誹諧の形を仮りて現れた。此句だつて、唯の墨書きではない。又単に所謂俳画なるものでもない。男に化けて、娘の宿を訪ふ河童水郷の夜更けの夏の月。ある種の合巻を思はせる図どりである。かうした趣向は或は、蕪村自身の創作の様に見えるかも知れぬ。尤、近代河童には、此点の欠けて居る伝説は多いが、以前はやつぱりあつたのである。
私は、二度も壱岐の島を調べた。其結果、河を名とする処から、河童の本拠を河その他淡水のありかと思うて来た考へが、壊れて了うた。長者|原(バル)と言ふ海を受け高台は、があたろを使うて長者になつた人の屋敷趾だと言ふ。其は小さな、髪ふり乱した子どもの姿だつた。其が来初めてから、俄かに長者になり、家蔵は段々建て増した。があたろが歩いた処は、びしよ/″\と濡れてゐる。畳の上までも、それで上つて来る。果ては、長者女房が嫌ひ出して、来させない様にした。すると忽、家蔵も消えてなくなり、長者の後に立つて居た屏風は、岩になつて残つた。此は男の子らしい。
平戸には、女のがあたろの話をしてゐる。ある分限者の家に仕へた女、毎日来ては、毎晩帰る。何処から来るか、家処をあかさない。ある時、後を尾(ツ)けて行くと、海の波が二つに開けた。通ひ女はどん/\、其中へ這入つて見えなくなつた。女は其を悟つたかして、其後ふつつり出て来なくなつたと言ふ。

此二つの話で見ると、毎日海から出て来る事、家の富みに関係ある事、ある家主に使はれる事、主の失策を怨んで来なくなること、女姿の、子どもでないのもある事などが知れる。だが外に、通ひでなく、居なりの者もあつたらしい。殿川(トノカハ)屋敷と言ふのは、壱州での豪家のあつた処である。或代の主、外出途中に逢うた美しい女を連れ戻つて、女房とした。子までも生んだが、ある時、屋敷内の井(カハ)へ飛びこんで、海へ還つて了うた。其時、椀を持つたまゝ駈け出したので、井の底を覗くと、椀の沈んでゐるのが見えると言ふ。この「信田妻(シノダヅマ)」に似た日本の海の夫人の話を、あの島でも、もう知つた人が、少くなつて居た。此伝へで訣るのは、井の如き湧き水も、地下を通つて、海に続いて居るとした、考への見える事である。
かうした物語を伴はぬ、信仰そのまゝの形は、日本国中に残つてゐる。「若狭井」型の他界観である。二月堂の「水とり」は、若狭の池の水を呼び出すのだと言ふ。諏訪の湖(ウミ)・琵琶湖霧島山の大汝(オホナメ)の池など、懸け離れた遠方の井や湧き水に通じてゐると言ふ。不思議なのは又龍宮へ通うてゐると言ふ、井戸清水の多い事である。規模の大きなのは、龍宮は、瀬田の唐橋の下から行けるなど言ふ。だが、龍宮に通ずる水が、なぜ塩水でないのか、説いたものはない。一年の中ある時の外、使はなかつた神秘の水のあつた事を、別の機会に書きたいと思うてゐる。神聖な淡水(まみづ)が、海から地下を抜けて、信仰行事の日の為に、湧き出るのだと思うてゐたらしいのである。


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