河童 関連リンク

芥川 竜之介 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

河童 - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

  • 妹尾河童 『河童が覗いたトイレまんだら』文庫 切手可
  • 妹尾河童 『河童のタクアンかじり歩き』文庫 切手可
  • 妹尾河童 『河童の手のうち幕の内』文庫 切手可
  • 妹尾河童 『河童が覗いた仕事場』文庫 切手可
  • 河童のスケッチブック妹尾河童集める食べる旅に出るイラスト満載
  • 河童が覗いたインド / 著:妹尾河童 ◆新潮文庫◆
  • 河童が覗いたヨーロッパ / 著:妹尾河童 ◆新潮文庫◆
  • 妹尾河童 『河童が覗いた仕事場』文庫 切手可
  • 河童が覗いたヨーロッパ 妹尾河童
  • 河童が覗いたトイレまんだら 妹尾河童 文藝春秋
次のページ
どうか Kappa発音してください。 芥川龍之介         序  これはある精神病院患者、――第二十三号がだれにでもしゃべる話である。彼はもう三十を越しているであろう。が、一見したところはいかにも若々しい狂人である。彼の半生の経験は、――いや、そんなことはどうでもよい。彼はただじっと両膝(りょうひざ)をかかえ、時々窓の外へ目をやりながら、(鉄格子(てつごうし)をはめた窓の外には枯れ葉さえ見えない樫(かし)の木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。)院長のS博士や僕を相手に長々とこの話をしゃべりつづけた。もっとも身ぶりはしなかったわけではない。彼はたとえば「驚いた」と言う時には急に顔をのけぞらせたりした。……
 僕はこういう彼の話をかなり正確に写したつもりである。もしまただれか僕の筆記に飽き足りない人があるとすれば、東京市外××村のS精神病院を尋ねてみるがよい。年よりも若い第二十三号はまず丁寧(ていねい)に頭を下げ、蒲団(ふとん)のない椅子(いす)を指さすであろう。それから憂鬱(ゆううつ)な微笑を浮かべ、静かにこの話を繰り返すであろう。最後に、――僕はこの話を終わった時の彼の顔色を覚えている。彼は最後に身を起こすが早いか、たちまち拳骨(げんこつ)をふりまわしながら、だれにでもこう怒鳴(どな)りつけるであろう。――「出て行け! この悪党めが! 貴様莫迦(ばか)な、嫉妬(しっと)深い、猥褻(わいせつ)な、ずうずうしい、うぬぼれきった、残酷な、虫のいい動物なんだろう。出ていけ! この悪党めが!」

        一

 三年|前(まえ)の夏のことです。僕は人並みにリュック・サックを背負い、あの上高地(かみこうち)の温泉|宿(やど)から穂高山(ほたかやま)へ登ろうとしました。穂高山へ登るのには御承知のとおり梓川(あずさがわ)をさかのぼるほかはありません。僕は前に穂高山はもちろん、槍(やり)ヶ岳(たけ)にも登っていましたから、朝霧の下(お)りた梓川の谷を案内者もつれずに登ってゆきました。朝霧下り梓川の谷を――しかしその霧はいつまでたっても晴れ景色(けしき)は見えません。のみならずかえって深くなるのです。僕は一時間ばかり歩いた後(のち)、一度上高地温泉宿へ引き返すことにしようかと思いました。けれども上高地へ引き返すにしても、とにかく霧の晴れるのを待った上にしなければなりません。といって霧は一刻ごとにずんずん深くなるばかりなのです。「ええ、いっそ登ってしまえ。」――僕はこう考えましたから、梓川の谷を離れないように熊笹(くまざさ)の中を分けてゆきました。
 しかし僕の目をさえぎるものはやはり深い霧ばかりです。もっとも時々霧の中から太い毛生欅(ぶな)や樅(もみ)の枝が青あおと葉を垂(た)らしたのも見えなかったわけではありません。それからまた放牧の馬や牛も突然僕の前へ顔を出しました。けれどもそれらは見えたと思うと、たちまち濛々(もうもう)とした霧の中に隠れてしまうのです。そのうちに足もくたびれてくれば、腹もだんだん減りはじめる、――おまけに霧にぬれ透(とお)った登山服や毛布なども並みたいていの重さではありません。僕はとうとう我(が)を折りましたから、岩にせかれている水の音をたよりに梓川の谷へ下(お)りることにしました。
 僕は水ぎわの岩に腰かけ、とりあえず食事にとりかかりました。コオンド・ビイフの罐(かん)を切ったり、枯れ枝を集めて火をつけたり、――そんなことをしているうちにかれこれ十分はたったでしょう。その間(あいだ)にどこまでも意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりました。僕はパンをかじりながら、ちょっと腕|時計(どけい)をのぞいてみました。時刻はもう一時二十分過ぎです。が、それよりも驚いたのは何か気味の悪い顔が一つ、円(まる)い腕時計硝子(ガラス)の上へちらりと影を落としたことです。僕は驚いてふり返りました。すると、――僕が河童(かっぱ)というものを見たのは実にこの時がはじめてだったのです。僕の後ろにある岩の上には画(え)にあるとおりの河童が一匹、片手は白樺(しらかば)の幹を抱(かか)え、片手は目の上にかざしたなり、珍しそうに僕を見おろしていました。
 僕は呆(あ)っ気(け)にとられたまま、しばらくは身動きもしずにいました。河童もやはり驚いたとみえ、目の上の手さえ動かしません。そのうちに僕は飛び立つが早いか、岩の上の河童へおどりかかりました。同時にまた河童逃げ出しました。いや、おそらくは逃げ出したのでしょう。実はひらりと身をかわしたと思うと、たちまちどこかへ消えてしまったのです。僕はいよいよ驚きながら、熊笹(くまざさ)の中を見まわしました。すると河童逃げ腰をしたなり、二三メエトル隔たった向こうに僕を振り返って見ているのです。


次のページ

芥川 竜之介 (あくたがわ りゅうのすけ) 以外のオススメ作品

河童 (かっぱ) のリンク元

「河童-芥川 竜之介」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN