海野十三氏の弁 探偵作家お道楽帳・その五 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )
氏の辯
探偵作家お道樂帳・その五
「お道樂」の話ですか、それは困りましたね、私は酒もやらないしこの二三年からだの調子をわるくしてゐるので、たまに三軒茶屋あたりを散歩してくる位のところですから、人樣のやうな派手な「お道樂」はありませんね。
電氣ですか、あれはいまでは「お道樂」のやうになつてゐますが、これは專攻した學問で、これでも私は理學士なのです。
佐野昌一の本名で「おはなし電氣學」なんて、素人向の電氣學の入門書を出したり、ご存じのやうに丘丘十郎のペンネームで、科學小説を書いたりしてゐます。
これは「お道樂」以上の自慢話になるのですが、ごらんなさい、この家は停電されても心配ない上に、いつ泥君が現れても平氣でゐられるやうな裝置が、すつかり出來てゐるでせう。自慢はそればかりではありませんよ、これは「寶石」の讀者にも感謝して頂きたい、といふわけは、停電で夜仕事が出來ず困り拔いてゐた横溝正史君に、私が發明(少し大きすぎますかね)した電燈裝置を送つてあげて喜ばれたことがあります。ちやうど「本陣殺人事件」の解決篇が、この燈下で書かれたことは、自慢になるでせう、ハツハハハ。
書道ですか、あれは「お道樂」ではありませんよ。中學三年の頃からはじめたのですが、眞面目に書道の先生になるつもりでした。その動機も充分あるのです。私の書く探偵小説中の殺人動機よりもたしかな位です。
中學生の私は、ある日、お爺さんに呼びよせられましてね、お前の祖先は書道の神とされてゐる有名な菅原道眞公だから、その子孫たるお前が字のへたなわけがないと、妙な論理から押しつけられて、毎日お手本と睨めつこをすることになつたわけです。
海ならばたたへる水の底までも清き心は月ぞ照さん……といふやうな道眞公の和歌まで暗記したものです。
その後、日下部先生の門に入つて「※腕流」を學び、どうやら人樣にもお見せできるやうに上達しました。
書道は、何といつても中國が本場ですよ。小さな子供まで日本人の大人以上に達筆なのには驚かされますね。
探偵小説のやうな荒つぽい人殺しの話などを書いてゐる私などには、その合間々々に「書道」を學ぶことは、別天地に遊ぶ鶴の如く心の澄みわたるのを感じます。
去年あたりから、書道の他流試合を横溝君とやることになり、何度も書を送るのですが、無手勝流といふわけか、一度も横溝君の方から送つて來ないのには困つたものですよ。何れ上京したらトツチメてやりませう。
『別冊宝石』昭和二十三年七月号
底本:「海野十三メモリアル・ブック」海野十三の会
2000(平成12)年5月17日第1刷発行
初出:「別冊宝石」
1948(昭和23)年7月5日発行
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年5月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
佐野昌一の本名で「おはなし電氣學」なんて、素人向の電氣學の入門書を出したり、ご存じのやうに丘丘十郎のペンネームで、科學小説を書いたりしてゐます。
これは「お道樂」以上の自慢話になるのですが、ごらんなさい、この家は停電されても心配ない上に、いつ泥君が現れても平氣でゐられるやうな裝置が、すつかり出來てゐるでせう。自慢はそればかりではありませんよ、これは「寶石」の讀者にも感謝して頂きたい、といふわけは、停電で夜仕事が出來ず困り拔いてゐた横溝正史君に、私が發明(少し大きすぎますかね)した電燈裝置を送つてあげて喜ばれたことがあります。ちやうど「本陣殺人事件」の解決篇が、この燈下で書かれたことは、自慢になるでせう、ハツハハハ。
書道ですか、あれは「お道樂」ではありませんよ。中學三年の頃からはじめたのですが、眞面目に書道の先生になるつもりでした。その動機も充分あるのです。私の書く探偵小説中の殺人動機よりもたしかな位です。
中學生の私は、ある日、お爺さんに呼びよせられましてね、お前の祖先は書道の神とされてゐる有名な菅原道眞公だから、その子孫たるお前が字のへたなわけがないと、妙な論理から押しつけられて、毎日お手本と睨めつこをすることになつたわけです。
海ならばたたへる水の底までも清き心は月ぞ照さん……といふやうな道眞公の和歌まで暗記したものです。
その後、日下部先生の門に入つて「※腕流」を學び、どうやら人樣にもお見せできるやうに上達しました。
書道は、何といつても中國が本場ですよ。小さな子供まで日本人の大人以上に達筆なのには驚かされますね。
探偵小説のやうな荒つぽい人殺しの話などを書いてゐる私などには、その合間々々に「書道」を學ぶことは、別天地に遊ぶ鶴の如く心の澄みわたるのを感じます。
去年あたりから、書道の他流試合を横溝君とやることになり、何度も書を送るのですが、無手勝流といふわけか、一度も横溝君の方から送つて來ないのには困つたものですよ。何れ上京したらトツチメてやりませう。
『別冊宝石』昭和二十三年七月号
底本:「海野十三メモリアル・ブック」海野十三の会
2000(平成12)年5月17日第1刷発行
初出:「別冊宝石」
1948(昭和23)年7月5日発行
入力:田中哲郎
校正:土屋隆
2005年5月3日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
海野 十三 (うんの じゅうざ) 以外のオススメ作品
- 幸運の黒子 - 海野 十三
- 当世二人娘 - 清水 紫琴
- てがみ - チェーホフ アントン
- 平野義太郎宛書簡 04 一九三二年四月三十日 - 野呂 栄太郎
- 猫の事務所 - 宮沢 賢治
海野十三氏の弁 探偵作家お道楽帳・その五 のリンク元
- http://atpedia.jp/word/%E4%BD%90%E9%87%8E
- http://atpedia.jp/word/%E6%9B%B8%E9%81%93
- [[ezweb]] 書道 道楽
- [[Yahoo]] 海野十三
- [[Yahoo]] 海野家の子孫
- http://tw.search.yahoo.com/search?p=%E9%81%93%E6%A8%82+%E5%8D%81%E4%B8%89&fr=yfp&ei=utf-8&v=0
- [[Google]] 海野十三メモリアル・ブック
- [[Google]] 海野十三
- [[Google]] 探偵作家
- [[Google]] 少年探偵 別冊宝石
「海野十三氏の弁 探偵作家お道楽帳・その五-海野 十三」の関連ページ
-
第十三倉庫 - kimohatafumiaki @ ウィキ - kimohatafumiaki @ ウィキ
てs -
タ行/ト/所十三 - 漫画家くちこみリンク&掲示板 - 漫画家くちこみリンク&掲示板
qwerタ行/ト/所十三 -
十三の神殿 - アルヴニア世界観WIKI - アルヴニア世界観WIKI
トラペーズ十三神殿の項を参照。 -
2008年度 - 青学野宿愛好会のHP(3個め) - 青学野宿愛好会のHP(3個め)
ここに2008年度の活動をまとめたい気がする4月新歓鹿沼公園鍋20086月樹海野宿、**樹海野宿記(中尾)8月水戸ママチャリレース10月京都ヒッチハイクレース12月歌舞伎町で愚痴聞きます -
2009 - あんどれ うぃき - あんどれ うぃき
◆2009 WORLDS「The Tempest」「十三夜」 -
十三龍門(真) - 麻雀ローカルルールWiki - 麻雀ローカルルールWiki
読みシーサンロンメン正式名称別名和了り飜トリプル役満(門前のみ)牌例解説国士無双を天和または地和で和了る。本来国士無双は作るものではなく、十三不塔に近い性格の役だったとされる。成分分析十三龍門の35 -
自作キャラでバトルロワイアル - 2chパロロワ事典@Wiki - 2chパロロワ事典@Wiki
夫 一番 麻倉美意子 壱里塚徳人 二番 卜部悠 W・N・スペンサー 三番 エヴィアン 海野裕也 四番 エルフィ 追原弾 五番 貝町ト子 太田 -
アスラクライン - 倉庫 - 倉庫
リンク名?一話?二話?三話?四話?五話?六話?七話?八話?九話?十話?十一話?十二話?十三話? -
海野 ミンポ - KUCC@Wiki - KUCC@Wiki
絵の下手さをネタで誤魔化すことにした部室出現日 木曜・休日以外後期になって朝起きれなくなった 目覚ましがいつの間にか切れてる\(^o^)/改名実は大学生になって初めてジャンプを読んだ -
トップページ - Look the same 海野弘の目次を旅する - Look the same 海野弘の目次を旅する
文化史家・評論家の海野弘さんに関する情報をまとめております。タイトルの「Look thesame(ルック・ザ・セイム)」は、『海野弘コレクション3 歩いて、見て、書いて 私の一〇〇冊の本の旅』(右文
