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淡紫裳 - 佐藤 垢石 ( さとう こうせき )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
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  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
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  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
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この一文昭和十四年四月京城日報社の招きにより、将棋名人木村義雄氏と共に、半島の各地を歩いた記録である。      一  朝鮮半島幹線は、いま複線工事をしているので、三十分以上も遅れて京城へ着いた。駅のフォーム婦人団体女学生団などが、二、三百人も堵列(とれつ)している。これは、支那前線から帰ってきた看護婦たちを出迎えているのだ。私たちの出迎え人も山のようである。
 朝はやく釜山駅をたつと我らは、すぐ窓からそとの景色に顔を向けた。赤土山に、松の木がまばらに生えているという話は聞いていたから、それは別段珍しくはなかったが、川という川に転積している石の、角がとれてないのには驚いた。朝鮮人理屈っぽいというけれど、石までとは思わなかったのである。歴代の総督もこの角のとれない石には随分悩まされてきたのであろう。などとくだらぬことを話し合いながら飽かず移り行く風景を眺めた。
 ところが、京城へ着いて聞いてみると、やはり漢江とか洛東江とかいう大きな川の石は丸いのであるという。汽車の窓から見える川の石は、まだ山から生まれ落ちたばかりの石であるから、角がとれないのだ。と説明されて、なるほどと思ったのだ。
 朝鮮の家は小さい。汽車から遠くの山の麓に並んでいる農家を見ると屋根をふいた藁の色が、赤土山の色にとけ込んで、何とも漠々たる感じを与える。そして、屋根破風(はふ)というものがないから、掘立小屋みたいだ。王朝時代、多年|苛斂誅求(かれんちゅうきゅう)に苦しめられた風が残っているためかも知れない。
 とにかく私らは、初めての土地であるから見るもの悉く珍しいのである。洛東江も、錦江鉄橋の上を渡った。川を見ると想像していた水の色とは全く違う支那の川のように茶色ににごっているものと思っていたのに、どの川の水も青く澄んで悠々と流れている。そして、細かい美しい砂利河原に一杯押しひろがっている。これには、魚がいると思った。

     二

 朝鮮の水の色はよく澄んで蒼(あお)いが、空も蒼く澄んでいるのは甚だ快い。きょうで京城へ着いて四日目になるのだが、この町の空に一片の雲も認めなかったのである。朝鮮には、雲というものがないらしい。
 汽車太田京城中間を進んでいる時と思う。隣席の客が窓外の田圃(たんぼ)の真ん中に大きく構えているドレッチャーを指して、あれはこの辺の地下三尺ばかりのところにある砂金を掘っているのだと教えてくれた。そして、そのあたり鮮人が泥の中をかきまわしているのは、彼ら個人砂金を捜しているのだという。北海道大陸の方の砂金捜しの話は、聞いていたが、いま汽車の窓から見る風景のなかに砂金捜しの姿を発見したのは、夢のような心地がした。鮮人に一貫目もある大きな砂金を拾わせたいものである。
 その隣席の客は語を続けて、朝鮮には至る所に金がある。昭和十四年度における朝鮮の産金予想二十七トンであると説明した。二十七トンの金、これは私らにはどんな量か、どんな紙幣束に代わってくるか想像もつかない。恐ろしく、金が沢山あるところだと思った。そういえば、何となく赤土山がピカピカ光るような気がする。
 京城へ入ってみると、朝鮮臭いところはどこにもない。だから、取りたてて変わった印象はないのである。変わった印象を受けないのが、かえって変わった印象を受けたくらいである。建物も人も乗物も犬にも特別なところがない。
 出迎えの人に案内されて、朝鮮神宮参拝し、それから夜、京城日報主催朝鮮将棋大会木村名人歓迎会というのに臨んだが、妓生さんを見られると思ったところ、内地ら行った芸妓ばかり酌に出た。それはどちらでもいいとして、この席上で思いもよらぬ人に邂逅(かいこう)した。

     三

 京城到着当夜の歓迎宴は、京喜久というので開かれた。杯がしげくまわりはじめると、座に一人老人が起(た)って大きな声で、『二十年振りで会う木村義雄君にご挨拶を申しあげる』と説きだした。何を語るのかと耳を傾けていると『私は朝鮮銀行にいる時代、つまりいまから二十年前、東京出張を命ぜられ麹町のある旅館へ宿を取った。翌朝宿の浴衣(ゆかた)を着て近所の床屋へ行き、頭をきれいにしてさて勘定と懐を捜すと入れてきたはずの財布がない。止むを得ず床屋から宿まで馬を連れてきた訳だが、財布紛失のことを麹町警察署へ届けた。ほどなく警察から落とし物が発見されたという通知に接したので行って見ると、そこに拾い主であるという久留米絣(くるめかすり)の袷(あわせ)を着た十五、六歳の少年が立っている。財布の中は現金もさることながら重要書類が入っているので私はこの少年に対して深く感謝した。そして規定に従って謝礼金を取ってくれといったが少年は何としても受け取らない。


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