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火のついた踵 - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • 宮本百合子選集第一巻・小説集 ☆宮本百合子
  • 【本】 宮本百合子研究・宮本百合子批評 関係書 6冊 N21078
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    人  物   奥平振一郎  統計学者三十歳)     みさ子  振一郎の妻(十八歳)   橋詰 英一  みさ子の従兄二十四歳)   谷  三郎  英一、みさ子の友人(同)   吉沢 朝子(登場せず)みさ子の友達十九歳)      女中 きよ     場  所   東京。     時   現代。或る五月


第一 奥平の客間

上部の壁や天井は白く、下部を、暗緑色壁紙で覆うた洋室。
正面は、浅く広いヌック。大きい三つの窓に、極く薄い肉桂色の窓帷が、黒い鮮やかな飾紐で片よせられ、簡素な形のマホガニー円卓子、布張の椅子たっぷり薔薇を盛った花壺等が置かれている。
上手の壁際には、大きな金縁の額。書棚。長椅子。重い暗色の垂帳で、隣室と境している。
下手は、一間半ばかり、透硝子のフォルディング・ドーアになっている。前後三尺ずつの壁間は、ヌックよりに彫像、繁った灌木の鉢。下手には、背の高いヴィクター、二人掛の腕椅子等。硝子の折畳扉から差す日が、如何にも晴々と、床に流れ家具を照し、扉の金色の把手(とって)や、鉢植の新緑を爽やかに耀(かがや)かせる。
幕開く。舞台空虚
光りや色彩快感が、徐(おもむ)ろに漠然とした健康や活力の感を看る者に味わさせた頃、上手の垂帳から、みさ子が出て来る。(藤色のネルの着物、全体、さっぱりした服装


みさ子 (部屋に入りながら、振返り)一寸こっちへ来て御覧にならないこと? 綺麗よ。今日は、私がすっかり大掃除をしたんですもの。
振一郎 (黙って入って来る。黒っぽいセルの着付。四辺(あたり)を見廻し)ほう。綺麗だね。
みさ子 この部屋は、日がよく射すから、猶気持が好いわ。(ヌックの方へ行く)御覧なさいませ。一寸この薔薇! 素敵でしょう? 私こんなのが咲くとは思わなかったわ。
振一郎 (気がなさそうに)よく咲いたね。
みさ子 匂いをかいで御覧遊ばせよ。いいじゃあないの? ほら!(花壺を持ち、顔を埋めるようにして匂をすい、良人の鼻先に出す)
振一郎 うむ。いいね。花を持った枝は切る方が、来年のために好いんだよ。
みさ子 そうお。私が好きだから、どうせお部屋の花に切ることになってしまうわ。(ヌックの卓子の上に花壺を置き、そこの椅子に坐る)貴方もおかけにならないこと?
振一郎 (ぶらぶら行って、向い合わせに掛ける)英一さん達は幾時頃来るの?
みさ子 わからないの。ただ、お昼っからって云ってよこしただけなんですもの。――でも、きっともうじきに来るんでしょう、どうせ日曜ですもの一日、あの人達は暇なんだわ……(調子をかえ)貴方今日はいいでしょう?
振一郎 さあ……
みさ子 駄目
振一郎 しなければならないことがあるからね。
みさ子 (失望を押え)たまだからいいじゃあないの? 一寸でいいから一緒にお茶でも召上れよ。
振一郎 しなければならないことを控えて、表面ばかりおつきあいをしなければならないことはないだろう?
みさ子 それはそうだわ。――だけれども――あの人達だって、随分久しぶりで来るんですもの……
振一郎 あなたが、ゆっくり遊んであげれば結構じゃあないか。
みさ子 だって……(深く顔を曇らせる、遠慮しながら)貴方、あの人達の来るのがお厭なの?
振一郎 どうして? 僕がそんなことを云ったかい?
みさ子 おっしゃりゃしないわ。けれども――若し、悦んで下さるなら、暫くの間位、皆で、気持よく楽しんで下さるのじゃあないかと思うの。貴方は、私独りで遊んであげれば好いだろうっておっしゃるけれど――そうじゃないのよ。
振一郎 僕は僕で、仕事責任があるんだから、仕方がない。ね? そうでしょう? あなたや、英一さん達みたいに、遊んでいて好い人間ではないんだから。
みさ子 (淋しそうに)何だか、きめっこのようね。私一度でも好いから、貴方にも一緒に面白く遊んで戴きたいわ。いつも、いつも――お仕事
振一郎 そんな子供のようなことを云うものじゃあない。
みさ子 (涙ぐみ)子供のようなことじゃあないわ。どこに、自分の好きな人も一緒に楽しまないでいるのに、平気で嬉しがっていられる人があって?(強いて確かりし)ね、貴方、これからこうしようじゃないの? 貴方が来て貰っては困るとお思いになったら、はっきりそう云って頂くの。そして、私、断ってしまうわ。


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