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火葬国風景 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )

  • 独立開業★ペット火葬車★移動火葬車
  • 4502/5E/火葬・4枚セット/白枠・英語
  • 4501/5E/火葬・4枚セット/白枠・日本語
  • 4504/5E/火葬・2枚セット/白枠・英語
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  • 4500/5E/火葬・1枚セット/白枠・日本語
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  • 4050/MI/火葬・3枚セット/黒枠・日本語
  • 4048/MI/火葬・4枚セット/黒枠・英語
  • 4049/MI/火葬・2枚セット/黒枠・英語
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   甲野八十助(こうのやそすけ) 「はアて、――」  と探偵小説家の甲野八十助は、夜店人混みの中で、不審のかぶりを振った。  実は、この甲野八十助は探偵小説家に籍を置いてはいるものの、一向に栄(は)えない万年新進作家だった。およそ小説書くにはタネが要(い)った。殊(こと)に探偵小説と来ては、タネなしに書けるものではなかった。ところで彼は或る雑誌社から一つの仕事を頼まれているのであるが、彼の貧弱な頭脳の中には、当時タネらしいものが一つも在庫していなかった。逆さに振ってものみ一匹出てこないという有様だった。苦しまぎれに、彼はいつもの手で、フラリと新宿夜店街へ彷徨(さまよ)いいでた。いつだったか彼はその夜店街で、素晴らしいタネを拾った経験があったので、今夜ももしやというはかない望みをつないでいたのだった。
「はアて、あいつは誰だったかナ」
 甲野八十助は、寒い夜風に、外套の襟を立てながら、また独言(ひとりごと)をいった。
 彼はいまそこの人混みの中で、どこかで知り合ったに違いない男と不図(ふと)擦(す)れちがったのだった。その男というのがまた奇妙人物だった。非常に背が高くて、しかも猫背で、骨と皮とに痩せていた。眼の下には黒い隈(くま)が太くついていて、頬には猿を思わせるような小じわが三四本もアリアリと走っていた。そして頭には、宗匠の被(かぶ)るような茶頭巾を載せ、そのくせ下は絹仕立らしい長い中国服のような外套を着ていた。そして右手には杖をつき、歩くたびにヒョックリヒョックリと足をひいていた。
「やあ、――」
 と甲野八十助は、そのときこの奇妙な男に声をかけたのだった。彼は至って顔まけのしない性質だったから……。
「いよオ――」
 と相手は口辺に更に多数の醜いしわの数を増しながら、ガクガクする首を前後に振り、素直に応じたのだった。
 八十助はそれで満足だった。それ以上、何を喋ろうという気もなかった。そのまま、この知人と別れて、同じ人混みをズンズンと四谷見附(よつやみつけ)の方へ流れていったのだった。
(あいつは、誰だったかナ)
 八十助には、いま挨拶を交(かわ)した奇妙な男の素性思い出すことが、何だか大変楽しく思われて来た。それでソロソロこの楽しい一人ゲームを始めたのだった。
 だが、思う相手の素性は、いつまで経っても、彼の脳裏に浮びあがりはしなかった。
「誰だったか。あいつの素性よ、出てこい、――」
 八十助は、小学校友人から出発して、中学時代大学時代恋愛時代それから結婚時代、さらに進んで妻と死別した後の遊蕩(ゆうとう)時代それから今の探偵小説時代までの、ことごとくの時代の中に、彼の奇妙な男の姿を探し求めたけれど、どうもうまく思い出せなかった。ついそこまで出ているだが、どうも出て来ないのであった。彼はすこしジリジリとして来た。
 そのとき彼は、大きな飾窓(ウインド)の前を通りかかった。そしてそこに並べてある時事写真の一つに眼を止めた。「逝(ゆ)ける一宮大将(いちのみやたいしょう)」とあって、太い四角な黒枠に入っている厳(いか)めしい正装将軍写真だった。その黒枠を見たとき、彼は電光の如(ごと)く、さっきの奇妙な男の正体を掴んだのだった。
「うん、彼奴(あいつ)だッ。――」
 そう叫んだ彼は、不思議にも、叫び終ると共に、なぜかサッと顔色を変えた。何故何故(なぜなぜ)?


   鼠谷仙四郎(ねずみやせんしろう)


「そうだ、彼奴だ。彼奴に違いない!」
 螳螂男(かまきりおとこ)への古い記憶電光のようにサッと脳裏に映じた。黒枠写真を見たときに、どうして彼奴のことを思い出したのであろうか。それはいわゆる第六感というものであろうが、不思議なこととて気になった。しかし後日になってその不思議が解ける日がやってきたとき、八十助は呼吸(いき)の止まるような驚愕経験しなければならなかったのである。
「そうだ、彼奴は姿こそ変り果てているが、鼠谷仙四郎に違いない!」
 鼠谷仙四郎――という名前を口のなかで繰返していると、八十助は小学校へ上ったばかりのあの物珍らしさに満ちた時代思い出す。木の香新しい、表面がツルツル光っている机の前に始めて座った時、その隣りに並んでいるオズオズした少年が鼠谷仙四郎君だった。そのころの鼠谷は、顔色は青かったが、涼しいクリクリする大きい眼を持ち、色は淡(うす)いが可愛い小さい唇を持った美少年だった。たまたま机を並び合ったというので、二人の少年はすぐ仲善(なかよ)しになってしまった。この仲善しは、年と共に濃厚になり、軈(やが)て大学卒業すると二人はこれまでのように毎日会えなくなるだろうというので、女学生もやらないだろうと思われるほどの大騒ぎを起したのだった。
 その揚句(あげく)、八十助と鼠谷とは一つのうまい方法を考えた。そのころ二人とも勤め先が決っていて、八十助は丸の内保険会社に、鼠谷の方は築地(つきじ)の或る化粧品会社通勤することになっていた。それで申し合わせをして午後の五時ごろ、二人が勤め先を退けるが早いか、距離から云ってほぼ等しい銀座裏のジニアという喫茶店落合い、そこで紅茶を啜(すす)りながら積もる話を交わすことにしたのだった。これは大変名案だった。二人はすっかり朗(ほがら)かになり、卒業のときに大騒ぎをしたのが可笑(おか)しく思われてならなかった。
 ところがこの名案ジニアのランデヴー(?)は名案には違いなかったが、彼等二人の交際に思いがけない破局を齎(もたら)すことになったのも運命悪戯(いたずら)であろうか。


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