犯人 関連リンク

太宰 治 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

犯人 - 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ■講談社文庫■真犯人■パトリシアコーンウェル 
  • ★P・コーンウェル 文庫k30「真犯人」 ★
  • ◇希少本 『真犯人』 P・コーンウェル著◇H
  • 『真犯人』 パトリシア・コーンウェル 検屍管ケイ 帯付
  • 『犯人のいない犯罪』■小杉健治■初版本 元帯
  • 真犯人 パトリシア・コーンウェル 講談社文庫 ミステリー 切手可
  • 真犯人/パトリシア・コーンウェル 4刷 USED
  • 5分間ミステリー真犯人を探せ ケン・ウェバー 扶桑社
  • A412送料無料【シャーロック・ホームズ 犯人は二人】DVD
  • B63 犯人のお好みは麻婆豆腐だった/辻真先
次のページ
「僕はあなたを愛しています」とブールミンは言った「心から、あなたを、愛しています」  マリヤ・ガヴリーロヴナは、さっと顔をあからめて、いよいよ深くうなだれた。 ――プウシキン(吹雪)  なんという平凡。わかい男女の恋の会話は、いや、案外おとなどうしの恋の会話も、はたで聞いては、その陳腐(ちんぷ)、きざったらしさに全身|鳥肌(とりはだ)の立つ思いがする。
 けれども、これは、笑ってばかりもすまされぬ。おそろしい事件が起った。
 同じ会社に勤めている若い男と若い女である。男は二十六歳、鶴田(つるた)慶助。同僚は、鶴、鶴、と呼んでいる。女は、二十一歳、小森ひで、同僚は、森ちゃん、と呼んでいる。鶴と、森ちゃんとは、好き合っている。
 晩秋の或(あ)る日曜日、ふたりは東京郊外の井(い)の頭(かしら)公園であいびきをした。午前十時。
 時刻も悪ければ、場所も悪かった。けれども二人には、金が無かった。いばらの奥深く掻(か)きわけて行っても、すぐ傍(そば)を分別顔(ふんべつがお)の、子供づれの家族がとおる。ふたり切りになれない。ふたりは、お互いに、ふたり切りになりたくてたまらないのに、でも、それを相手に見破られるのが羞(はずか)しいので、空の蒼(あお)さ、紅葉のはかなさ、美しさ、空気清浄社会混沌(こんとん)、正直者は馬鹿を見る、等という事を、すべて上(うわ)の空(そら)で語り合い、お弁当はわけ合って食べ、詩以外には何も念頭に無いというあどけない表情を努(つと)めて、晩秋の寒さをこらえ、午後三時には、さすがに男は浮かぬ顔になり、
「帰ろうか。」
 と言う。
「そうね。」
 と女は言い、それから一言、つまらぬことを口走った。
「一緒に帰れるお家があったら、幸福ね。帰って、火をおこして、……三畳一間でも、……」
 笑ってはいけない。恋の会話は、かならずこのように陳腐なものだが、しかし、この一言が、若い男の胸を、柄(つか)もとおれと突き刺した。
 部屋
 鶴は会社世田谷の寮にいた。六畳一間に、同僚と三人の起居である。森ちゃんは高円寺の、叔母(おば)の家に寄寓(きぐう)。会社から帰ると、女中がわりに立ち働く
 鶴の姉は、三鷹(みたか)の小さい肉屋に嫁(とつ)いでいる。あそこの家の二階が二間。
 鶴はその日、森ちゃんを吉祥寺(きちじょうじ)駅まで送って、森ちゃんには高円寺行きの切符を、自分三鷹行きの切符を買い、プラットフオムの混雑にまぎれて、そっと森ちゃんの手を握ってから、別れた。部屋を見つける、という意味で手を握ったのである。
「や、いらっしゃい。」
 店では小僧がひとり、肉切|庖丁(ぼうちょう)をといでいる。
「兄さんは?」
おでかけです。」
「どこへ?」
寄り合い。」
「また、飲みだな?」
 義兄は大酒飲みである。家で神妙に働いている事は珍らしい。
「姉さんはいるだろう。」
「ええ、二階でしょう?」
「あがるぜ。」
 姉は、ことしの春に生れた女の子に乳をふくませ添寝(そいね)していた。
「貸してもいいって、兄さんは言っていたんだよ。」
「そりゃそう言ったかも知れないけど、あのひとの一存では、きめられませんよ。私のほうにも都合があります。」
「どんな都合?」
「そんな事は、お前さんに言う必要は無い。」
パンパンに貸すのか?」
「そうでしょう。」
「姉さん、僕はこんど結婚するんだぜ。たのむから貸してくれ。」
「お前さんの月給はいくらなの? 自分ひとりでも食べて行けないくせに。部屋代がいまどれくらいか、知ってるのかい。


次のページ

太宰 治 (だざい おさむ) 以外のオススメ作品

犯人 (はんにん) のリンク元

「犯人-太宰 治」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN