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狂人は笑う - 夢野 久作 ( ゆめの きゅうさく )

  • 色川武大「狂人日記」読売文学賞☆初版元帯
  • 森雅裕『画狂人ラプソディ』1985年度横溝正史賞佳作/北斎推理
  • ゴーゴリ 文庫2冊◆鼻,外套,査察官/狂人日記,肖像画 他
  • ●200円 岩波文庫【阿Q正伝・狂人日記・他】魯迅(プチソフト1)
  • ゆ夢野久作 狂人は笑う 角川文庫 奇想小説短編集 即決
  • 即決/色川武大「狂人日記」/福武書店
  • 岩波文庫 阿Q正伝・狂人日記 他十二編
  • 森雅裕2冊/画狂人ラプソディ/さよならは2Bの鉛筆/廃版絶版貴重
  • 即決★(講談社文芸文庫)狂人日記/色川 武大★初版
  • 道鏡・狂人遺書/坂口安吾/角川文庫
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   青ネクタイ 「ホホホホホホホ……」  だって可笑(おか)しいじゃありませんか。  ……妾(わたし)はねえ。失恋結果世を儚(はか)なみて、何度も何度も自殺しかけたんですってさあ。
 いいえ。妾は知らないの。そんな事をした記憶(おぼえ)はチットも無いのよ。初めっから失恋なんかしやしないわ。第一相手がわからないじゃないの……ねえ。可笑しいでしょう。ホホホホホホ……。
 それあ変なのよ。女学校を出てからというもの毎日毎日土蔵(くら)の二階の牢屋みたいな処に閉じ込められて、一足も外へ出ちゃいけないって云い渡されていたの。何故(なぜ)だかよくわからないけど……おまけに着物も何も取上げられちゃって、妾ほんとうに極(きま)りが悪かったわ。着物を引裂いて首を縊(くく)るからですってさあ。妾はもう情なくて情なくて………。
 御飯を持って来てくれるのは乳母(ばあや)だけなの。お父さんは妾が生れない前にお亡くなりになるし、お母さんも妾をお生みになると直ぐに、どこかへ行っておしまいになったんですって……。ですから妾は、その頃まで独身者で、お金を貸していた叔父(おじ)さんの手に引き取られて、その乳母(ばあや)のお乳で育ったのよ。それあいい乳母(ばあや)だったの……。
 その乳母(ばあや)が、妾が小さい時に持っていた、可愛らしい裸体(はだか)のお人形さんを持って来てくれた時の嬉(うれ)しかったこと……。
 ……まあ。お前は今までどこに隠れていたの。お母様と一緒に遠い処へ行っていたの。よくまあ無事で帰って来てくれたのね……ってそう云って頬ずりをして泣いちゃったのよ。そうして妾は、それからというもの、毎日毎日来る日も来る日も、そのお人形さんばっかりお話していたの。お母様のことだの、お友達のことだの、先生の事だの……それあ温柔(おとな)しい、可愛らしい、お利口な、お人形さんだったのよ。
 そうしたらね。そうしたら或る夕方のことよ……。
 お土蔵(くら)の鼠が、そのお人形さんのお腹を喰い破っちゃったの。そうして中から四角い、小さな新聞紙の切れ端を引き出したのよ。妾がチャンと抱っこしていたのに……ええ。そうなのよ。そのお人形さんのお腹の壊れた処を新聞で貼って、その上から丈夫日本紙で貼り固めて在(あ)ったの。それが剥(は)がれて出て来たの。大方(おおかた)鼠がその糊を喰べようと思って引き出したのでしょう。可哀そうにねえ。
 妾その時ドレ位泣いたか知れやしないわ。そうしてね、余(あんま)り可哀そうですから、頂き残りの御飯粒で、モト通りに貼ってやりましょうと思った序(ついで)に、何の気も無しに、その切端(きれはし)の新聞記事を読んでみたらビックリしちゃったの。妾、今でも暗記してるわ……あんまり口惜しかったから……。
 こうなのよ……。
 ……彼女は遂に発狂して、叔父の家の倉庫の二階監禁(かんきん)さるるに到った。ここに於て彼女を愛していた名探偵ネクタイ氏は憤然として起(た)ち、この事実の裏面を精探すると、驚くべき真相が暴露(ばくろ)した。すなわち強慾なる彼女叔父は、彼女母親財産横領せむがため、窃(ひそ)かに彼女母親を殺して、地下室の壁の中に塗籠(ぬりこ)めたもので、次いでその遺産相続者たる彼女不法檻禁して発狂せしめ、法律上の相続不能者たらしめようとしていた確証が発見され、彼女正気なる事が判明したので、彼女は巨万の富を相続すると同時に、青ネクタイ氏と結婚する事になった。同時に悪(にく)むべき彼女叔父死刑の宣告を受けて……。
 ……っていうのよ。ねえそうでしょう。あのお人形さんは、妾に本当の事を教えに来てくれた天使だったのよ。ねえ。そうでしょう。妾、その晩、日が暮れると直ぐに、お土蔵(くら)を脱(ぬ)け出しちゃったの……。


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