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男女交際より家庭生活へ - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

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 先頃の『弘道』に掲載された「日本人理想に吻合(ふんごう)しない西洋人家庭生活」と云う記事読み、種々な感想の湧上るのを覚えました。  全篇の結論として、目下問題とされている家族制度家庭生活改善理想を徒に外国風習などに摸倣せず、日本日本民族独特の見地から、識見を以て発足すべきであると云う主旨には、恐らく何人も意義を挾む者はないでしょう。
 あらゆる国々の習俗には、悉(ことごと)く美点と欠点とが並行しています。人間が、或る場合自己の天分によって却って身を過つことがあるように、一国にしても、或る時には、その是とすべき伝統的習俗によって、却って真実人間生活破綻を生ぜしめることが多くあります。それ故、徒に新奇を競うて、外国人の営む生活の形骸を真似るのは、全く笑うべく悲しむべきことです。
 併し、一国の文化社会状態観察した場合に、何時も、その裏面、消極的方面のみに注目するのは、果して妥当な態度でしょうか。
 他人の話を聞き、他人に会い、その言動の裡から欠点ばかりを摘発するとしたら、結局自分は、今在るだけの自己を肯定するばかりで、何ら新らしい利益を得たことにならないのではありませんか。同様のことが、外国旅行者にも云えると思います。
 その上、日常生活はまるで日本とは違い、言語まで、その微妙な点で自分達の持合わせ感情とは異った内容を含蓄しているような場合先ず、変なこと、妙なことの方が、一般地味社会生活基礎よりは目立って見え、注意を牽くのは当然です。一寸見た場合、完全な顔の道具だてを持っている者よりは、大きな痣でも頬にある者の方が人目を欹(そばだ)てしめる。けれども、それが人類に与えられた顔として典型的なものであると云う人はありませんでしょう。
 修辞上の効果から云えば、自己の主張し肯定しようとする一方のものを引立てるために、それと対照する他の一方のものを強調して描くのが賢い方法であるかもしれません。
 併し、或る国の社会状態紹介し、批評し、未だそれを直接見聞したことのない人々にも、思索の材料として提供しようとする場合、講演者なり、著者なりの眼の着け処は、真に大切なものではないでしょうか。
 最も、公平でなければなりません。美しい方面も、非難すべき方面も、共に見て、その間に横(よこた)わる美なる理由、非とすべき理由研究しなければならないものではあるまいかと考えるのです。
 例えば、外国人の著書に屡々(しばしば)欧米婦人運動又は女性社会に於ける位置進化というものの研究材料として、東洋、多く支那日本のそれを例に引く場合を考えて見ましょう。
 彼等は、日本婦人が全く奴隷的境遇に甘じ、良人は放蕩をしようが、自分離婚で脅かそうが、只管(ひたすら)犠牲の覚悟で仕えている。そして、自分の良人を呼ぶのにさえその名を云わず“Our master”と呼ぶ、と云ったと仮定します。
 これを見た日本人は、恐らく、一言を付加せずにはいられない心持が致しましょう。
 勿論、日本にもそんな無情な良人がないことはない。けれども、決して、一般日本婦人状態だとは云えない。寧ろ、そんなのは少数の例外で、多くは、良人は妻を扶け、妻は良人を扶けて相|偕(とも)に生活している、と云いましょう。英語直訳すれば、まるで何だかよそよそしい、卑屈な響になって仕舞うが、日本女性が良人を、「宅の主人」と呼ぶのは、決して、奴僕(ぬぼく)が雇主を指して云うような感情を持ってはいない。丁度、英語を喋る国の女が、自分の良人を第三者に対して話す時には、ミスター・誰々と姓を呼ぶ、それと共通な心理なのだと抗議を申し込むでしょう。
 言語、習俗が著しく異った場合、斯様な誤謬は起り易い。而して結果としては、双方が見出すべき大なり小なりのよい発見を失って仕舞うのです。表面的の事象から先ず反撥心に支配されて、深い生活内面、或はよりよい事実を見失うのは、どんなものに対しても、我々の執るべき態度ではあるまいと思わずにはいられないのです。
日本人理想に吻合しない西洋人家庭生活」を読み終ってから、私の心に起ったものは、世の中は見様で何と云う相違があることだろう! と云う驚きでした。例としてあげられた人々、場合は、勿論ありますでしょう。まして、私の狭い見聞は、米国の、而も紐育(ニューヨーク)市附近の知識階級に限られていると云ってよろしいのですから、フランスは勿論、他の国々のことに関しては、謹んで言葉控えます。けれども、アメリカ風俗も彼等の為に弁護する為ではなく、我々が常識として或る社会生活余り偏した一面のみで知っていることは、如何にも反省すべきことと感ぜられます。米国なら米国社会が現存し、我々と直接間接に交渉を持っていると云う事実は、決してリディキュラスな話で終ることではありません。「人によって見方も違う」と云われた一例として、私は自分の周囲に見聞きした事柄から綜合した観察を述べ、又、違った角度から見た事実を述べて見たいと思います。
 我々が、種々な社会状態生活現象観察する場合先ず予備知識として頭に入れて置かなければならないのはその社会が、どんな個人によって形成されているかと云うことだと思います。
 総体として如何なる気質人間集合であるか、箇々の箇人は、その根柢に於て如何なる国民性の上に生存しているか。
 現象は、内に、原因を持たずに現れるものではありません。或る人が何か善行をする。或る男が破廉恥な罪悪を犯す。その善行なり、悪行なりの素因を万人は彼等の心事に見出そうとするように、私共が、或る国民生活観察する場合、漠然となりとも正鵠を得た、民族気質を知らなければいけないと思うのです。
 それなら、米国人は、どんな気質性格を持っているでしょうか。
 先ず、彼等が箇人主義的な生活をしていると云うことは誰でも申すことです。又、独立的気風に富んでいること、公衆道徳の進歩した国民、終りに驚くべき物質的であると云うのに、恐らく皆の意見一致しますでしょう。
 如何にも米国人は箇人主義的な国民だと思います。独立的で、同時に今度欧州大戦参加してから彼等自身をも驚かした程の一致力を有し、各自が利害に明かで、着々と得るべきものは精神物質両面ながら獲得して行きます。
 けれども、ここに考えなければならないことは、米国人は、箇人主義と云う一つの主義の上に、意識して彼等の生活を築きあげたのでもなく、又、独立的であるべきと云う道徳訓練の後に、今日の気風を産み出したのでもない、と云うことです。
 箇人主義と云う思想上の一名詞が考え出されない以前から、既にアメリカ人生活は、箇人箇性を基本に置いたものであった。アメリカ植民地時代から、独立的気風は各人の内心に燃えていた。それは、遠い昔、政治思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去って、未開の新土に生活を創始しようと覚悟した程のものは、皆、何等かの意味に於て、強い箇人の自覚と、何物にも屈しない独立心を備えていたからなのです
 アメリカと云っても、往古の状態は、決して今日我々の知識にある米国ではありませんでしたろう。今はもう人数も減り、圧迫されて仕舞ったアメリカンインディアンが到る処に生活していました。


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