畜生道 関連リンク

平出 修 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

畜生道 - 平出 修 ( ひらいで しゅう )

  • 読まずば二度死ね★内藤陳★冒険小説探偵小説SF小説開高健
  • (b041)「こちらノーム」IT小説? スパイ小説?企業小説?長谷川潤二
  • ◆第四次元の小説/幻想数学短編集 幻想小説/数学/物理学
  • 中古小説●○乱気流 小説・巨大経済新聞【上・下】高杉 良●○D
  • 現代怪奇小説集 上巻のみ 初版帯つき ホラー小説 幻想文学 即決
  • た竹本健治 腐蝕の惑星 SF小説 冒険小説 文庫 初版帯つき 即決
  • こころに効く小説の書き方 三田誠広 光文社 小説作法 切手可
  • ピェール・プール「小説E=MC2」SF小説
  • 小説家の小説家論 安岡章太郎 初版
  • ★ゲゲゲの女房・小説・武良布枝・水木しげる・連続テレビ小説
次のページ
 十二月も中ばすぎた頃であつた。俺がやつと寒い寝台から出たと云ふのに、もう電話裁判所から催促だ。法廷が開けますから、すぐいらつして下さいと云ふのだ。俺が行かない間は、共同弁護人はみんな手を空(むな)しくして待つて居る。俺をさしおいて審理に取りかかるやうな事は決して無い。俺を先輩だとして敬意を表してくれる好意はいつでも感謝して居るんだが、それで又いつでも遅刻する。忙(いそが)しさうな真似をしてわざと遅れるのではないが、俺は朝が遅い。ただそれ丈である。其日も急(せ)き立てられて車を命じた。桜田門へ来ると夥(おびただ)しい巡査だ。赤い着ものの憲兵も見える。霜枯れのした柳の並木は剣光帽影(けんくわうばうえい)で取囲まれて居る。裁判所の門へはいると、一層警戒厳しい。出入を一々|誰何(すゐか)する。俺は何の気なしに車を下りて式台の石段を上(のぼ)つた。警部がつかつかやつて来て、「誰方(どなた)です」と問うた。流石(さすが)に敬語を使つた。「高津だ。」俺はかう云ひすてて扉(ドア)の内へ歩を運んだ。俺の名前警部の耳にも響いて居たと見え、何も云はないで俺の歩むが儘に任せてくれた。かう云ふときになると俺は常に損をする。俺は背(せい)が低い。顔は一見頑丈だが、下膨れの為に愛嬌はあつても、威厳がない。寒さうに肩をすぼめてあの宏壮な建物の入口の石段を踏んだとき、之が高津暢であるとは誰れも思ふまい。
「この人が高津か。」警部は俺の声名と風采とが余りに懸隔があると思つたらしかつた。
 大審院(だいしんゐん)の控所はなかなかの混雑である。中老、壮年、年少、各階級弁護士が十七、八人、青木が所謂「神仏混同法被(はつぴ)をつけて、馬の毛の冠(かんむり)をのつけて」入廷の支度をして居る。新聞記者らしい人や、刑事巡査らしいものもごたごた出入をして居る。田村が廷丁(ていてい)と何か云ひ合つてる。
海城(かいじやう)さんが見えるまで待ち玉へ。」田村が甲高(かんだか)な声を尖(とが)らして居る。
「もう十時半でせう。昨日裁判長から九時にそろつて下さいと云はれたとき、海城さんは毎日八時半に弁護人は一同打揃つて居りますなどと、真面目に云つて入(い)らしつたぢやありませんか」と廷丁(ていてい)が理責(りぜめ)を云ふ。
「今朝用事が出来れば昨日(きのふ)の通りは行かんぢやないか。」
 田村はまじめに海城の来るのを待つてゐるんだと思ふと俺は可笑しかつた。海城のやつも俺流だ。あの先生はともすると俺よりもづぼらかもしれぬ。「八時半にはみんな揃つて居ます」などと云ひつぱなしにするあたりはあいつの一流だ。
 俺は給仕を呼んだ。「どうした。」と法廷模様をきいた。あんまりに遅いので外の事件を先にして審理がひらけたと云ふことだ。それなら俺を急がすこともないではないかと給仕を叱つた。叱つた方が無理であるとはすぐ思ひついたが、取消をするのも面倒くさいからその儘にしておいた。
 幸徳(かうとく)某|外(ほか)二十幾名が不軌を計つたと伝へられ、やがてそれが検挙となつて裁判沙汰に行はれた。こんなにものものしい警戒も混雑も此裁判事件公判が開けて居るからである。田村は此事件主任のやうなものであつた。国民は激昂(げきかう)して弁護人たる田村金山にあてて、「逆徒の弁護をするなら首がないぞ」と云ふ様な投書をいくらもつきつけた。俺は新聞でその事を知つて居た。


次のページ

平出 修 (ひらいで しゅう) 以外のオススメ作品

畜生道 (ちくしょうどう) のリンク元

「畜生道-平出 修」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN