白血球 - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )
がらり…………ぴしゃりと、玄関の格子戸をいつになく手荒く開け閉めして、慌しく靴をぬぐが早いか、綾子は座敷に飛び込んできた。心持ち上気(じょうき)した顔に、喫驚した眼を見開いていた。その様子を、母の秋子は針仕事から眼を挙げて、静かに見やった。
「どうしたんです、慌てきって。……今日はいつもより遅かったようですね。」
「ええ、お当番だったのよ。」
手の包みを其処に置いて、袴も取らずに坐り込んで、それから、低い強い語気で云い出した。
「お母さん!」
「え?」
仕事の手を膝に休めて、秋子は顔を押し進めた。
「お母さん!」とくり返して綾子は一寸息をついた。「この家(うち)は変な家ですってね。」
秋子は黙っていた。
「今日ね、あなたの家には何か変なことはなくって、と黒田さんが仰言るのよ。私何のことだか分らなかったから、よく聞いてみると、この家は前から評判の家ですって。何だか怪しいことがあるんですって。それで、どの人もみんな、はいるとじきに引越していって、空いてる時の方が多かったそうですよ。そこへ私達がやって来て落付いてるものだから、知ってる人は不思議がってるんですって。……ほんとに何のこともないの、としつこく黒田さんが仰言るから、ありはしないわ、よしあったって少し位は平気よ、二十世紀の者はお化なんか信じないから、と云ってやったわ。だけど……。」
「奥さま!」と襖の向うから声がして、女中の清が顔を出したので、秋子は俄に恐い眼付をして見せた。綾子は何のことだか分らずに、きょとんとした顔で口を噤んだ。
秋子は尋ねられた用事を清に答えておいて、それから暫くして、真顔で向き直ってきた。
「そんな話を誰にもしてはいけませんよ。………そして、何か変なことはないかと人に聞かれたら、何にもないと答えるんですよ。」
「なぜ?」
「なぜって、もしおかしな評判でもたってごらんなさい……。」
それがどうしていけないかをはっきり云い現わせなくて、彼女は中途で言葉を切った。
「だって、西洋の御伽噺にあるような、面白いお化なら出たって構わないわ。」
口を尖らし眼をくるりとさしてる綾子の顔を見て、秋子も自然と笑みを浮べた。
けれど……。そういう噂があるとすれば、うっかりしても居られなかった。
二階が二室に階下が三室、便利に出来てる上に、日当りも相当によく、木口は粗末だが新らしく、家賃も案外安いので、近頃のめっけ物だといってすぐに越して来たのだった。が、玄関からすぐに階段、右手が八畳の座敷、それと反対に、左手の台所へ通ずる廊下|側(わき)の、四畳半の女中部屋だけが、何だか薄暗くて陰気だった。それだけのことなら、どうせ女中部屋だからとて我慢も出来たが、越して来たその晩に、変に気味が悪いとかで、清は一寸眠れなかった。
「空気の流通がよくないからだろう。」
主人の晋作はそう云って、それでも念のために隅々まで検べたが、何処にも怪しい点は見出せなかった。
そして夕方、北向の高窓から射す日の光が、薄(うっす)らとぼやけてゆく頃、秋子は何気なくその室にはいって、押入の前に佇むと、ぞーっと底寒い気がして、ぶるぶると身体が震えた。それが変に不気味だった。然し押入を開けてみても、清の夜具や荷物や、不用な道具などがはいってるきりで、少しも変ったことはなかった。気のせいだと思って、彼女はそれを黙っていたが、その晩も清は気味が悪くて眠れないそうだった。それ以後清は、玄関の三畳に寝ることにしていた。
そのことが、綾子の話とぴったり合った。
「あなた、どうもおかしいじゃありませんか。」
良人と二人の時、秋子はそう云って話の終りを結びながら、良人の顔を見守った。
額の両側の禿げ込みは可なり深くなってるが、口髯はまだ濃く黒々としている、その先をひねりながら、晋作は薄ら笑いを湛えて答えた。
「その上本物のお化でも出たら、丁度お誂え向だね。」
「え?」
彼女には冗談が分らなかった。
「いやなに、本当の化物屋敷となればね、家賃がずっと下るからいいって訳さ。」
「まあ何を仰言るのよ、人が本気で話してるのに……全くあの室は少し変ですよ。」
「じゃあ、僕が一晩寝て見るとしようか。」
彼は生来の呑気さから、怪力乱心を信じなかった。そして、妻の話をいい加減に聞き流しながら、女中部屋で一夜を明かすという労をも固より取りはしなかった。
「どうしたんです、慌てきって。……今日はいつもより遅かったようですね。」
「ええ、お当番だったのよ。」
手の包みを其処に置いて、袴も取らずに坐り込んで、それから、低い強い語気で云い出した。
「お母さん!」
「え?」
仕事の手を膝に休めて、秋子は顔を押し進めた。
「お母さん!」とくり返して綾子は一寸息をついた。「この家(うち)は変な家ですってね。」
秋子は黙っていた。
「今日ね、あなたの家には何か変なことはなくって、と黒田さんが仰言るのよ。私何のことだか分らなかったから、よく聞いてみると、この家は前から評判の家ですって。何だか怪しいことがあるんですって。それで、どの人もみんな、はいるとじきに引越していって、空いてる時の方が多かったそうですよ。そこへ私達がやって来て落付いてるものだから、知ってる人は不思議がってるんですって。……ほんとに何のこともないの、としつこく黒田さんが仰言るから、ありはしないわ、よしあったって少し位は平気よ、二十世紀の者はお化なんか信じないから、と云ってやったわ。だけど……。」
「奥さま!」と襖の向うから声がして、女中の清が顔を出したので、秋子は俄に恐い眼付をして見せた。綾子は何のことだか分らずに、きょとんとした顔で口を噤んだ。
秋子は尋ねられた用事を清に答えておいて、それから暫くして、真顔で向き直ってきた。
「そんな話を誰にもしてはいけませんよ。………そして、何か変なことはないかと人に聞かれたら、何にもないと答えるんですよ。」
「なぜ?」
「なぜって、もしおかしな評判でもたってごらんなさい……。」
それがどうしていけないかをはっきり云い現わせなくて、彼女は中途で言葉を切った。
「だって、西洋の御伽噺にあるような、面白いお化なら出たって構わないわ。」
口を尖らし眼をくるりとさしてる綾子の顔を見て、秋子も自然と笑みを浮べた。
けれど……。そういう噂があるとすれば、うっかりしても居られなかった。
二階が二室に階下が三室、便利に出来てる上に、日当りも相当によく、木口は粗末だが新らしく、家賃も案外安いので、近頃のめっけ物だといってすぐに越して来たのだった。が、玄関からすぐに階段、右手が八畳の座敷、それと反対に、左手の台所へ通ずる廊下|側(わき)の、四畳半の女中部屋だけが、何だか薄暗くて陰気だった。それだけのことなら、どうせ女中部屋だからとて我慢も出来たが、越して来たその晩に、変に気味が悪いとかで、清は一寸眠れなかった。
「空気の流通がよくないからだろう。」
主人の晋作はそう云って、それでも念のために隅々まで検べたが、何処にも怪しい点は見出せなかった。
そして夕方、北向の高窓から射す日の光が、薄(うっす)らとぼやけてゆく頃、秋子は何気なくその室にはいって、押入の前に佇むと、ぞーっと底寒い気がして、ぶるぶると身体が震えた。それが変に不気味だった。然し押入を開けてみても、清の夜具や荷物や、不用な道具などがはいってるきりで、少しも変ったことはなかった。気のせいだと思って、彼女はそれを黙っていたが、その晩も清は気味が悪くて眠れないそうだった。それ以後清は、玄関の三畳に寝ることにしていた。
そのことが、綾子の話とぴったり合った。
「あなた、どうもおかしいじゃありませんか。」
良人と二人の時、秋子はそう云って話の終りを結びながら、良人の顔を見守った。
額の両側の禿げ込みは可なり深くなってるが、口髯はまだ濃く黒々としている、その先をひねりながら、晋作は薄ら笑いを湛えて答えた。
「その上本物のお化でも出たら、丁度お誂え向だね。」
「え?」
彼女には冗談が分らなかった。
「いやなに、本当の化物屋敷となればね、家賃がずっと下るからいいって訳さ。」
「まあ何を仰言るのよ、人が本気で話してるのに……全くあの室は少し変ですよ。」
「じゃあ、僕が一晩寝て見るとしようか。」
彼は生来の呑気さから、怪力乱心を信じなかった。そして、妻の話をいい加減に聞き流しながら、女中部屋で一夜を明かすという労をも固より取りはしなかった。
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- [[ezweb]] 蓮田 変な家
- [[ezweb]] 白血球とわ?
- [[Google]] トレカ専門店サンクチュアリ 評判
- http://search.auone.jp/?q=%90%D4%8C%8C%8B%85%94%92%8C%8C%8B%85%20%83g%83%8A%83R%20%90%E2%8B%A9&sr=0201&ie=SJIS
- http://search.babylon.com/?babsrc=home&q=%E6%8A%B5%E6%8A%97%E5%8A%9B%E3%80%80%E7%99%BD%E8%A1%80%E7%90%83&start=10
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Name ウラディミローブナ 得意なマップ ウェア、3rd、 苦手なマップ 潜水艦 使用武器 M4 自己紹介 白血球大好き!※備考孤高のAR。口数 -
フィルデンセントバーク症候群 - 世界観設定 - 世界観設定
の人よりも赤血球含有量が多いが、血漿体や白血球の含有量が極端に少なく、克服することはほぼ不可能に近く、現代の医療技術でも完治は無理であるため『不治の病』と恐れられている。発生率は26億分の1と、きわめて低確立である。主な -
泌尿器 - toyo_goro @ ウィキ - toyo_goro @ ウィキ
) * ネフローゼ症候群の主な症状は? 「アフロの講師欠場」 (高脂血症) * 腎盂腎炎の主な症状は? 「腎盂炎中」 (白血球円柱) -
UC - ASH @ wiki (Medical note) - ASH @ wiki (Medical note)
皮質ステロイド、免疫抑制)、白血球除去療法(GCAP/LCAP)、中心静脈栄養外科的治療------内科的治療に反応しない場合や重篤な場合(大出血、穿孔、癌化、中毒性巨大結腸症)に行う -
組織の分類と特性 - 柔道整復師のタマゴ - 柔道整復師のタマゴ
ℓの量となる.血液の40~45%を細胞成分である血球が占め,残りの55~60%を液性成分である血漿が占める.血球は赤血球,白血球,血小板に大別される.すべての血球は,骨髄 -
Slime - FUTONAGA WIKI - FUTONAGA WIKI
スライムに比べるとぜんぜん可愛くない。 意外とタフなので気をつけて。 ちなみにレベル3のマクロファージの名前は、白血球の一種から取られている。 -- るろう人 防御高めな種族。 攻撃100以下だとBermuda倒すのは困難。 -- 不霊 -
みんなのトランス - 青戸専任 @ ウィキ - 青戸専任 @ ウィキ
,065084 白血球中~~なんとかDEXA=骨塩定量 C530,101EMDS = エリスロシンDS (薬剤) E156G(200mg)EEG=脳波検査 基本料算定せず。初再診「J」、@1299,01△D
