白銅貨の効用 関連リンク

海野 十三 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

白銅貨の効用 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )

  • 大型5銭白銅貨・小型5銭白銅貨セット
  • 菊5銭白銅貨 明治27年
  • 【Pセット出し-RS】 100円プルーフ白銅貨 平成11年
  • ☆菊5銭白銅貨《明治22~24年》 3種  美品
  • 【Pa-RS】 プルーフセット出し 100円白銅貨 平成2年
  • 【Pa-RS】 プルーフセット出し 100円白銅貨 平成元年
  • ★即決★平成5年500円白銅貨★プルーフ★【未使用、ホルダ入】
  • 【参考品/貿易銀】明治10年 白銅製? 美品
  • 【Ma-RS】 ミントセット出し 500円白銅貨 平成9年
  • 【Pa-RS】 プルーフセット出し 500円白銅貨 平成2年
 シノプシス  政府鋳造(ちゅうぞう)せる白銅貨(はくどうか)の効用について徹底的に論じた一文である。これを以て白銅貨の文化価値を明かにしたものという可(べ)く、随(したが)って考現学資料ともなるものである。

 序論
 ここに十銭の白銅貨がある。この効用は如何? と尋(たず)ぬれば、
「十銭の品物を買うことができる。」
 或いは
「十銭の持つ財的エネルギーとして、他のエネルギー変換出来る。」
 などというであろうが、それは忠実なる造幣局のお役人と同じ考えに等しく、全くもって十銭白銅貨の極(ご)く一部効用を指したものに過ぎない。十銭白銅貨なんて、そんなツマンナイ物品ではないのである。
 以下その効用について論旨を拡げたい。

 分銅としての効用
 十銭白銅貨は物体であるが故に重量をもつ。そして硬い物質出来あがっているから、相当乱暴に取扱っても壊れたり擦(す)り減(へ)ったりすることがない。そこに目をつけて分銅(ふんどう)代りに用いる。十銭白銅貨の重量はザッと一|匁(もんめ)である。これは記憶するのにまことに便利だ。随って、杉箸の中央に糸をつけてこれを指でもち、そのところより両方へ等距離の箇所を選び、糸を下げる。一つにはこの十銭白銅貨四個を釣り、他の糸にはアルミ製の物干挟(ものほしばさ)みのようなものをつけ、これに封書をくわえさせる。どっちが上(あが)るか下(さが)るかによって、郵税として三銭切手を貼るべきか、もう一枚殖やして六銭だけ貼るべきかがわかるという簡易秤(かんいばかり)の役目をつとめる。

 射的としての効用
 好ましきは射撃手としての腕前達人たることである。吾人(ごじん)に許されたるは、ピストルに非ず、機関銃に非ず、猟銃制限いたずらに厳(げん)にして駄目空気銃だけが許されている。空気銃とて、照準を合わせ練習立派にやれるし、プスリと射抜(いぬ)いた刹那(せつな)の快感も相当なものである。ところでその射的であるが最も面白く、且つ有益なるは、庭の樹の枝に糸を下げ、その先に十銭白銅貨をブラ下げて置いてこれを射つことである。若し窓辺によって射(い)るとして、的の下っている樹まで十メートルを距(へだ)て置きたらんには、中々あたること六(むつ)ヶ|敷(し)く、殊(こと)に風に樹のゆれて的のクルクル動き出すに於ては、更に難中の難であって、もし之を美事(みごと)に仕止めるようだと、莫大なる会費を出して射撃倶楽部(クラブ)員になって練習を積むのに比べて、簡易と経済に於て天地|霄壌(しょうじょう)の差がある。

 爪磨きとしての効用
 爪を鋏で切りっぱなせば角(かど)があって方々へ引っかかる。この角をなくするために鑢(やすり)というものがあるが、おいそれと常に間に合うものではない。これには十銭白銅貨の中央の穴を爪の角に当ててガリガリと削ってみると非常に気持ちよくとれる。ことに新鋳造(しんちゅうぞう)のものは中々よく削れてよろしく、造幣局がなるべく毎年新鋳造貨を出して貰いたいと思う程である。爪をすべて削りおえた後は、机上(きじょう)に該貨(がいか)をポンと叩けば、爪の粉は忽(たちま)ちとれること妙なり。

 自働販売器操作の効用
 十銭白銅貨や五銭白銅貨をもって自働販売器の類を操作させることは、夙(つと)に逓信省(ていしんしょう)が公衆電話にて行えるところで、近来は鉄道省も之を切符販売用に用い、専売局煙草の自働販売器を認め、キャラメルチョコレートの自働販売器あり、一時は地下鉄改札までを十銭白銅貨に働く重力によって行ったものである。この外(ほか)、白銅貨の効用は甚だ多種なるも約束の紙数に達したれば擱筆(かくひつ)する。要するに十銭白銅貨は単なる貨幣だとばかり考えている方(かた)があったら、それは正に大なる認識不足であると申すべきである。十銭白銅貨は十銭貨幣であると同時に、重量|秤(はかり)であり、標的(ひょうてき)であり、爪磨きであり、交換呼出器であり、切符|押出機(おしだしき)であり、煙草キャラメル押出機でもある。

 結言
 更に一般場合、物その物の本来の使途以外に、此の白銅貨の如く科学性能様々に生かして用いられるものは色々とあると思うが、これが調査研究とは、けだし文化史的にも科学史的にも興味のあることと信ずる。



底本:「海野十三全集 別巻2 日記書簡・雑纂」三一書房
   1993(平成5)年1月31日第1版第1刷発行
初出:「科学画報」誠文堂新光社
   1933(昭和8)年6月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
※この作品は初出時に署名佐野昌一」で発表されたことが、底本の解題に記載されています。
入力田中哲郎
校正:土屋隆
2005年1月7日作成
青空文庫作成ファイル
このファイルは、インターネット図書館青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力校正制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


海野 十三 (うんの じゅうざ) 以外のオススメ作品

白銅貨の効用 (はくどうかのこうよう) のリンク元

「白銅貨の効用-海野 十三」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN