白 関連リンク

芥川 竜之介 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

- 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

  • 朗読CD 朗読街道30「魔術・妙な話・春の夜」芥川龍之介
  • 「芥川龍之介」 関口安義   岩波新書
  • ◆◇ 芥川龍之介 著「羅生門・鼻」(新潮文庫) ◇◆
  • 朗読CD 朗読街道28「トロッコ・蜜柑・片恋・他」芥川龍之介
  • 【netJIKOH】★文藝臨時増刊 芥川龍之介読本 昭和29年★
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 6』芥川龍之介★1円
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 1』芥川龍之介★1円
  • 芥川龍之介◆侏儒の言葉・西方の人◆続西方の人収録
  • 別冊毎日グラフ 芥川龍之介 生誕百年、そして今
  • 絶版■芥川龍之介【邪宗門・杜子春】新潮文庫帯/昭和42年/葱.秋
次のページ
芥川龍之介         一  ある春の午(ひる)過ぎです。(しろ)と云う犬は土を嗅(か)ぎ嗅ぎ、静かな往来を歩いていました。狭い往来の両側にはずっと芽をふいた生垣(いけがき)が続き、そのまた生垣の間(あいだ)にはちらほら桜なども咲いています。白は生垣に沿いながら、ふとある横町(よこちょう)へ曲りました。が、そちらへ曲ったと思うと、さもびっくりしたように、突然立ち止ってしまいました。
 それも無理はありません。その横町の七八間先には印半纏(しるしばんてん)を着た犬殺しが一人、罠(わな)を後(うしろ)に隠したまま、一匹の黒犬を狙(ねら)っているのです。しかも黒犬は何も知らずに、犬殺しの投げてくれたパンか何かを食べているのです。けれども白が驚いたのはそのせいばかりではありません。見知らぬ犬ならばともかくも、今犬殺しに狙われているのはお隣の飼犬(かいいぬ)の黒(くろ)なのです。毎朝顔を合せる度にお互(たがい)の鼻の匂(におい)を嗅ぎ合う、大の仲よしの黒なのです
 白は思わず大声に「黒君! あぶない!」と叫ぼうとしました。が、その拍子(ひょうし)に犬殺しはじろりと白へ目をやりました。「教えて見ろ! 貴様から先へ罠(わな)にかけるぞ。」――犬殺しの目にはありありとそう云う嚇(おどか)しが浮んでいます。白は余りの恐ろしさに、思わず吠(ほ)えるのを忘れました。いや、忘れたばかりではありません。一刻もじっとしてはいられぬほど、臆病風(おくびょうかぜ)が立ち出したのです。白は犬殺しに目を配(くば)りながら、じりじり後(あと)すざりを始めました。そうしてまた生垣(いけがき)の蔭に犬殺しの姿が隠れるが早いか、可哀(かわい)そうな黒を残したまま、一目散(いちもくさん)に逃げ出しました。
 その途端(とたん)に罠が飛んだのでしょう。続けさまにけたたましい黒の鳴き声が聞えました。しかし白は引き返すどころか、足を止めるけしきもありません。ぬかるみを飛び越え、石ころを蹴散(けち)らし、往来どめの縄(なわ)を擦(す)り抜け、五味(ごみ)ための箱を引っくり返し、振り向きもせずに逃げ続けました。御覧なさい。坂を駈(か)けおりるのを! そら、自動車に轢(ひ)かれそうになりました! 白はもう命の助かりたさに夢中になっているのかも知れません。いや、白の耳の底にはいまだに黒の鳴き声が虻(あぶ)のように唸(うな)っているのです。
「きゃあん。きゃあん。助けてくれえ! きゃあん。きゃあん。助けてくれえ!」

        二

 白はやっと喘(あえ)ぎ喘ぎ、主人の家へ帰って来ました。黒塀(くろべい)の下の犬くぐりを抜け、物置小屋廻りさえすれば、犬小屋のある裏庭です。白はほとんど風のように、裏庭の芝生(しばふ)へ駈(か)けこみました。もうここまで逃げて来れば、罠(わな)にかかる心配はありません。おまけに青あおした芝生には、幸いお嬢さん坊ちゃんもボオル投げをして遊んでいます。それを見た白の嬉しさは何と云えば好(い)いのでしょう? 白は尻尾(しっぽ)を振りながら、一足飛(いっそくと)びにそこへ飛んで行きました。
お嬢さん! 坊ちゃん! 今日は犬殺しに遇(あ)いましたよ。」
 白は二人を見上げると、息もつかずにこう云いました。(もっともお嬢さん坊ちゃんには犬の言葉はわかりませんから、わんわんと聞えるだけなのです。)しかし今日はどうしたのか、お嬢さん坊ちゃんもただ呆気(あっけ)にとられたように、頭さえ撫(な)でてはくれません。白は不思議に思いながら、もう一度二人に話しかけました。
お嬢さん! あなたは犬殺しを御存じですか? それは恐ろしいやつですよ。坊ちゃん! わたしは助かりましたが、お隣の黒君は掴(つか)まりましたぜ。」
 それでもお嬢さん坊ちゃんは顔を見合せているばかりです。おまけに二人はしばらくすると、こんな妙なことさえ云い出すのです。
「どこの犬でしょう? 春夫(はるお)さん。」
「どこの犬だろう? 姉さん。」
 どこの犬? 今度は白の方が呆気(あっけ)にとられました。(白にはお嬢さん坊ちゃん言葉ちゃんと聞きわけることが出来るのです。


次のページ

芥川 竜之介 (あくたがわ りゅうのすけ) 以外のオススメ作品

白 (しろ) のリンク元

「白-芥川 竜之介」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN