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石亀のこと - 佐藤 垢石 ( さとう こうせき )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
 鮎は、毛鈎(けばり)や友鈎で掛けるばかりでなく、餌に食いつくのは、誰も知っている。  私が少年のころ、父と共に利根川で用いていた毛鈎は、播州ものの甚だ粗末出来であった。近年のように加賀鈎や土佐鈎のように精巧のものは、見たこともなかったのである。だから、毛鈎で若鮎を釣るのに、必ず餌をつけたものだ。
 最も広く用いられたのが、魚の蛆(うじ)であった。空鈎(からばり)を水中へ流しても釣れないが、蛆を餌につけると、よく釣れた。次に、藻蝦(もえび)の肉を餌に用いた。藻蝦のくびを取り去り、殻の上から二本の指先で押すと、肉が飛び出す。それを鈎へつけると、若鮎は争ってそれを食った。若鮎は、遠く河口から上流さして遡りくる途中、藻蝦を常食にしていたためかも知れない。
 蛆(うじ)も藻蝦(もえび)もないときには、石亀(いしがめ)を用いた。石亀は、川虫の一種である。水際の小石の上をさらさらと流れる浅い瀬に、小砂を長さ一分五厘くらいの長さの筒にまとめて、その中に棲んでいる青灰色細長い小虫である。これも、若鮎の好物である。これを鈎先にさしても、よく食いついた。魚釣る餌には、誰でも苦労するものだ。
 後年相州小田原酒匂川へ遊んだとき、土地釣り人が道楽処女髪の毛を用い、たなご鈎ほどの小さな鈎に、なにか餌をつけて浅瀬で若鮎を釣っているのを見た。頻繁に、釣れるのである。どんな餌かと、その釣り人に見せて貰ったところ、それは石亀であった。
 石亀は、栃木県茨城県にまたがる那珂川釣り人も、若鮎釣りの餌に使っているという話だ。どこの釣り人も、同じ餌を発見するものと見える。
 鰺(あじ)と※(むつ)の肉で、若鮎を釣るのを見たのも、小田原山王川の上流であった。それは、明治の末年であったろう。
 湯河原千歳川でも、熱海の町を流れる小川でも、鰺の肉やシラスの頭で若鮎を釣っていた。それを、はじめて見たのは、まだ小田原から熱海人車鉄道が通っている頃だ。
 このごろでは、伊豆河津川仁科川、稲生沢でも、鰺や※の肉、シラスの頭などで、初秋の鮎の餌釣りを試みたことがある。昨年、落ち鮎の餌釣りの本場である四国土佐釣りの旅をしたのであるが、まだ新荘川も、物部川も、奈半利川季節が早かったので、試みられなかったのは、まことに残念に思う。
 今年も、もう餌釣り季節に入ったから、再遊を試みないか、と、土佐の釣友、森下雨村氏から、つい二、三日前手紙がきた。



底本:「垢石釣り随筆」つり人ノベルズ、つり人社
   1992(平成4)年9月10日第1刷発行
底本の親本:「釣随筆市民文庫河出書房
   1951(昭和26)年8月発行
初出:「釣趣戯書」三省堂
   1942(昭和17)年発行
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2007年5月2日作成
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