石塀幽霊 関連リンク

大阪 圭吉 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

石塀幽霊 - 大阪 圭吉 ( おおさか けいきち )

  • 【送料80円】 幽霊候補生 赤川次郎 幽霊シリーズ 第2弾
  • 【源氏鶏太の幽霊もの】「幽霊になった男」(講談社・初版函付)
  • 中古本 山崎洋子3冊 危険なあなた/ヨコハマ幽霊ホテル ほか
  • ★★ FC ファミコン 赤川次郎の幽霊列車 箱取説付き ★★
  • アン・ライス『彷徨者アズリエル』初版帯付 美青年幽霊は時を
  • ☆★幽霊船 白石一郎 ★☆
  • 幽霊部隊 ウォルター・ウェイジャー 鎌田三平 二見文庫
  • 【毛筆署名本】大庭みな子 幽霊達の復活祭 昭和56年 初版
  • 『憲兵銃殺(憲兵と幽霊)』中川信夫/中山昭二/天知茂/久保菜穂子
  • ■ブラック・ウッド『幽霊島』創元社世界恐怖小説全集2■
次のページ
          一  秋森(あきもり)家というのは、吉田太郎(よしだゆうたろう)君のいるN町のアパートのすぐ西隣にある相当に宏(ひろ)い南向きの屋敷であるが、それは随分と古めかしいもので処まんだらにウメノキゴケの生えた灰色の甍(いらか)は、アパートのどの窓からも殆んど覗(うかが)う事の出来ない程に鬱蒼たる櫟(くぬぎ)や赤樫(あかがし)の雑木林にむっちりと包まれ、そしてその古屋敷の周囲は、ここばかりは今年の冬に新しく改修されたたっぷり一丈はあろうと思われる高い頑丈な石塀にケバケバしくとりまかれていた。屋敷の表はアパートの前を東西に通ずる閑静な六|間(けん)道路を隔てて約三百坪程の東西に細長空地があり、雑草に荒らされたその空地の南は、白い石を切り断ったような十数丈の断崖になっていた。
 吉田太郎君は此処へ越して来た時から、この秋森家の古屋敷に何故か軽い興味を覚えていた。雄太郎君の抱いた興味というのは、只この屋敷の外貌についてだけではなく、主としてこの古屋敷に住む秋森家家族中心としてのものであった。全く、雄太郎君がこのアパートへ越して来てからもう殆んど半歳になるのだが、時たま裏通りに面した石塀の西の端にある勝手口で女中らしい若い女を見かけた以外には、まだ一度も秋森家家族らしき者を見たこともなければ、またその古びた高い木の門の開かれたことをさえ見たことはなかった。要するに秋森家家族というのは陰鬱で交際がなく、雄太郎君の考えに従えば、まるで世間から忘れられたように、この山の手静かな丘の上に置き捨てられていたのだった。尤も時たま耳にした人の噂によれば、なんでもこの秋森家の主人というのはもう六十を越した老人で、家族と云えばこの老主人とまだ独身でいる二人の息子との三人で、これに中年の差配人とその妻の家政婦、並びに一二名の女中を加えたものがこの宏い屋敷の中で暮しているということだった。が、そんな報告をした人でさえ、その老主人と二人の息子を見たことはないと云っている。ところが、突然この秋森家舞台にして、至極不可解きわまる奇怪な事件が持ちあがった。そしてふとしたことから雄太郎君は、身を以てその渦中に巻きこまれてしまったのだ。
 それは蒸しかえるような真夏の或る日曜日のことだった。午後の二時半に、一寸した要件で国元への手紙書き終えた雄太郎君は、恰度この時刻にきまっていつものように郵便屋が、アパートの前のポストへ第二回目の廻集に来ることを思い出して、アパートを出て行った。習慣というものは恐ろしいもので、雄太郎君の予想通り実直な老配達夫は、もうポストの前へ屈みこんで取出口にガチャガチャと鍵をあてがっていた。そこで雄太郎君は彼の側に歩みよって一寸挨拶をし、郵便物渡して、さてそれから、じっとり汗に濡れた老配達夫の皺の多い横顔を見ながら、暑いなア、と思った。――断って置くが、この附近は山の手のうちでも殊に閑静な地帯で、平常でも余り通りはないのであるが特にその日は暑かった為めか、表の六間道路は真っ昼間だというのに猫の子一匹も通らず、さんさんと降りそそぐ白日の下にまるで水を打ったような静けさであった。その静寂のなかで不意に惨劇がもちあがったのだ。
 始め、雄太郎君と集配人の二人は、西隣の秋森家の表門の方角に当って低い鋭い得(え)も云われぬ叫び声を耳にした。期せずして二人はその方角へ視線を投げた。すると二人の立っているポストの地点から約三十間ほど隔った秋森家の表門のすぐ前を、なにか黒い大きな塊を飛び越えるようにして、白い浴衣を着た二人の男が、横に並んで、高い頑丈な石塀沿いに雄太郎君達の立っているのと反対の方向へ、互に体をすりつけんばかりにして転がるように馳け出していった。が、次の瞬間もう二人の姿は、道路と共に緩やかな弧を描いて北側へカーブしている、秋森家の長い石塀の蔭に隠れて、そのまま見えなくなってしまった。――全く不意のことではあったし、約三十間も離れていたので、その二人がどんな男か知るよしもなかったが、二人とも全然同じような体格で、同じような白い浴衣に黒い兵児(へこ)帯を締めていたことは確かだ。雄太郎君は軽い眩暈(めまい)を覚えて思わず側のポストへよろけかかった。が、カンカンに灼けついていたポストの鉄の肌にハッとなって気をとりなおした時には、もう老配達夫は秋森家の表門へ向って馳け出していた。雄太郎君も直ぐにその後を追った。けれども二人が表門に達した時にはもう二人の怪しげな男の姿はどこにも見当らなかった。黒い大きな塊に見えたのは案にたがわず這うようにして俯向きに崩打(たお)れたまま虫の息になっている被害者の姿だった。見るからに頸の白い中年婦人だ。鋪道の上にはもう赤いものが流れ始めている。郵便屋はすっかり狼狽し屈み腰になって女を抱きおこしながら雄太郎君へあちらを追え! と顎をしゃくってみせた。
 秋森家の表を緩やかな弧を描いて北側へカーブしている一本道の六間道路は、秋森家の石塀の西端からその石塀と共にグッと北側へ折曲っている。雄太郎君は夢中でその右曲りの角へ馳けつけると、体を躍らすようにして向うの長い道路をのぞき込んだ。その道路の右側は秋森家の長い石塀だ。左側は某男爵邸の裏に当る同じような長い高い煉瓦塀だ。恐らく隠れ場所とてない一本道――。だが、犯人はいない!
 犯人の代りに通りの向うから、一見何処かの外交員らしい洋服の男がたった一人、手に黒革のカバンを提げてやって来る。雄太郎君は馳けよると、すかさず訊ねた。
「いまこの道で、白い浴衣を着た二人の男に逢いませんでしたか?」
「………」男は呆気にとられ瞬間黙ったまま立竦(たちすく)んでいたが、意外にも、すぐに強く首を横に振りながら、
「そんな男は見ませんでした。……なにか、あったんですか?」
「そいつア困った」と雄太郎君は明かにどぎまぎしながら投げ出すように、「いま、この秋森さんの門前人殺し……」
「なんですって!」男は見る見る顔色を変えて「人殺しですって! いったい、誰が殺(や)られたんです?」と引返す雄太郎君に並んで馳けだしながら、とぎれとぎれに云った。
「私は、この秋森の差配人で、戸川弥市(とがわやいち)って者です」
 けれどもすぐに石塀を折曲って秋森家門前が見えると、二人はそのまま黙って馳け続けた。そして間もなく郵便屋に抱き起こされて胸の傷口へハンカチを押当られたままもうガックリなっている女を見ると、洋服の男は飛びかかるようにして、
「あ、そめ子!」
 と、そしてものに憑かれたように辺りをキョロキョロ見廻しながら、
「……こ、これは私の家内です……」
 そう云ってべったり坐り込んで了った。
 曲角(まがりかど)の向うから、気狂いじみたチンドン屋馬鹿騒ぎが、チチチンチチチンと聞えて来た。


          二

 それから数分の後。N町の交番だ。
 新米の蜂須賀(はちすか)巡査は、炎熱の中に睡魔戦いながら、流石(さすが)にボンヤリ立っていた。
 そこへ一人チンドン屋が、背中へ「カフェー・ルパン」などと書いた看板を背負い、腹の上に鐘や太鼓抱えたまま息急(いきせき)切って馳け込んで来ると、いま秋森家の前を通りかかったところが、恐ろしい殺人事件が起きあがっていた事、死人の側には三人の男がついていたが、ひどく狼狽している様子だったので、取りあえず自分が知らせに来た事、などを手短に喋り立てた。殺人事件! 蜂須賀巡査電気に打たれたようにキッとなった。時計を見る。三時十分前だ。取りあえず所轄署へ電話で報告をすると、そのまま大急ぎでチンドン屋を従えて馳けだした。
 現場には、もう例の三人の他に、秋森家女中その他数人の弥次馬が集っていた。


次のページ

大阪 圭吉 (おおさか けいきち) 以外のオススメ作品

石塀幽霊 (いしべいゆうれい) のリンク元

「石塀幽霊-大阪 圭吉」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN