科学が臍を曲げた話 関連リンク

海野 十三 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

科学が臍を曲げた話 - 海野 十三 ( うんの じゅうざ )

  • a1428┃科学のパズル×暮しのコツと科学×くらしの科学が解る本
  • 健康と運動の科学【九州大学健康科学センター 編】
  • ●科学の逆説 現代科学と東洋思想●湯浅泰雄ほか●●切手可●
  • 科学知識 大正15年9月号 便所の科学 高野六郎
  • 【子供の科学】1989年3月★科学で楽しむ野球
  • 日本科学未来館サイエンスガイド/日本科学未来館
  • 大卒程度 警察官・消防官 本試験問題集 人文科学・社会科学
  • 【即決】親子でわかる!科学おもしろQ&A NHK子ども科学電話相談
  • 岩波講座 地球惑星科学〈7〉数値地球科学
  • 進研ゼミ高校encollege小論文3冊 医学部 自然科学系人文科学社会
次のページ
 みなさん、科学(サイエンス)だって、時には気むずかしいことがありますよ。そんなときには、臍(へそ)を曲げちまいますよ、臍をネ。
 童話みたいですが、昔、オーストリヤ王様が、世界最大ダイヤモンド所有したいという欲望を持って、持っているだけのダイヤを全部|坩堝(るつぼ)に入れて融合させようと思ったところが、もともと炭素のかたまりであるダイヤは、忽(たちま)ち一陣の炭酸瓦斯(ガス)と変じて、空中に掻(か)き消えたという昔話があります。これも臍まげの一つです。
 この時代天下横行した錬金術(れんきんじゅつ)というのは、頗(すこぶ)る大きな目標を持っていました。万物(ばんぶつ)何でも金(きん)に変えるというのです。到るところで錬金術師は鞴(ふいご)を吹いたりレトルトを炙(あぶ)ったりしましたが、遂(つい)に成功しませんでした。何でも、「哲学者の石」というのがあって、それさえ使えば万物が黄金にかわる筈(はず)だと云い出したものがいて、今度は哲学者の石を探し歩く宝探しのようなことが始まりました。これも遂に駄目だったことは、今日(こんにち)金の高いことによって皆さんご存知のとおりです。
 しかし科学の上に於ける失敗は、他の失敗と違って、失敗しぱなしで終るものではありません。錬金術のお蔭で、化学というものが大変発達しました。日本には錬金術師が居なかったお蔭で、化学というものは一向に芽をふいて来ませんでした。――而(しか)して、近代になって、長岡半太郎博士水銀を金に変化する実験成功して、遂に人類の憧(あこが)れていた一種の錬金術見出したわけです。その方法は、水銀原子の中核を、|α粒子(アルファりゅうし)という手榴弾(しゅりゅうだん)で叩き壊すと、その原子核一部が欠けて、俄然(がぜん)金に成る。つまり物質は、金とか鉛(なまり)とか酸素とか水銀とか云うが、これを形成している物質は共通であり、唯それに含有(がんゆう)せられている数が違うために、いろいろ違った物質となっているものだという見地(けんち)から、この名案が考え出されたのです。
 しかし科学は矢張り臍まがりで、この方法はまだ実用に遠く、金には成るには成るが、顕微鏡で探さねばならぬ程ですから、費用仆(ひようだお)れで金にはならない。……だが油断出来ませんぞ。最近になって人造(じんぞう)宇宙線研究が俄(にわ)かに盛んになりましたが、この研究が進むといよいよこの人造宇宙線を使って、水銀を金に化(か)することが他愛(たわい)もなく出来るようになりそうな気がします。勿論そうなったからといって悦(よろこ)ぶのは早い。金が簡単出来るようになったら、今日一|匁(もんめ)十何円|也(なり)という金が、一匁一銭也位になるでしょうから、いくら金がドンドン手に入っても仕方がないでしょう。まあそのときは、鼻紙に金でもって頭文字(イニシャル)でも入れることですネ。
 宇宙線の人造ということも面白い問題ですが、その宇宙線と並んで現代人気のあるのは超短波(ちょうたんぱ)でしょう。
 超短波というと電波の一種で、波長がたいへん短い。一メートルから十メートル位の間のものです。ラジオ放送に使っているのは二百から五百メートルですから、いかに短いかということが判りましょう。
 この超短波についても、いろいろと面白い失敗が繰りかえされました。超短波を使って近くで通信をすると、びっくりするくらい大変よく聴える。しかるに何百キロ何千キロという遠方(えんぽう)になると、どんなに電力を増(ま)しても聴えない。これは可笑(おか)しいというのでいろいろ調べてみました。
 電波というものは、地表の一点から発射されると、どんな道を通って前進するか? お月様が傘(かさ)を被(かぶ)ったときに外に輪が見えますが、あれに似た恰好(かっこう)に、地球の外には、地球を包んで電気天井(てんじょう)というのがあります。電気天井高さは、地表から百キロぐらいです。電波はこの電気天井と地表との間に明いている空間走るのです。走るといっても、波長が長いラジオのような電波なら、足を地表につけたままで前進するし、短波のように短い電波になると、地上から探照灯(たんしょうとう)を出したような恰好に空に向けて前進し、電気天井にあたってまた下へ下りて来ます。例えば青森で出すと上へ上って門司(もじ)の上空で電気天井にぶっつかり今度は反射して台北(たいほく)へ下りてくるという風に、下りたところに受信機(じゅしんき)があれば聴える。この電気天井反射するため、短波は遠方でもよく聴える。中には下りて来たのが又地面にあたって反射し、再び電気天井にあたって反射し、もう一度下へ下りて来るというのもあります。しかし要(よう)するに、電波は上へ上っても、電気天井で跳(は)ねかえされることが判りました。
 ところが例の超短波になると、いくら電力を増しても届かぬので、一体どこへ行ってしまうのだか判らない。狐(きつね)に鼻をつままれたような恰好で、大迷宮(だいめいきゅう)事件にぶっつかったとでも云いたいところです。使いに出した者が途中で煙のように消えてしまうのですから、これは面妖(めんよう)な話。
 ところが其の後だんだん調べてみると、少しずつ判って来ました。そして遂(つい)に確かな結論が生れて、人々は「なアーんだ」ということになりました。超短波は一体|何処(どこ)へ行ったのか。地表と電気天井の間で煙のように消えてしまったものではなく、実に電波にとっては金城鉄壁(きんじょうてっぺき)だと思われていた電気天井をばまるで籠(かご)の目から水が洩(も)るように、イヤそれよりもX光線が木でも肉でも透(すか)すように、超短波電気天井スースー外へ抜けていたのでした。スースー外へ抜けているのですから、いくら放送局電力を増してみても、地上には少しも応答(おうとう)のないのも無理はありません。超短波電気天井を抜け、地球の羈絆(きはん)を切って一直線宇宙へ黙々(もくもく)として前進しているのです。
「ああ、ちょっと聞き給え、変な電波が聴えるぜ。我が火星にはこんな符号(ふごう)を打つ局はない筈(はず)だ、ハテナ?」
 というような訳で、この超短波は案外火星あたりで問題にしているのじゃないかと思われます。とにかく超短波行方不明(ゆくえふめい)事件が幸(さいわ)いになって、電波の中には電気天井スースー抜けるものがあることが判りました。とは云うものの未(いま)だに火星からも、
「オイ地球君! 待望の電波を有難(ありがと)う!」
 などと云って来ないところを見ると、出奔(しゅっぽん)した超短波落ちつく先は案外怪しいかも知れないんですが、まだそこまで判っていません。


次のページ

海野 十三 (うんの じゅうざ) 以外のオススメ作品

科学が臍を曲げた話 (かがくがへそをまげたはなし) のリンク元

「科学が臍を曲げた話-海野 十三」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN