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続文芸的な、余りに文芸的な - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

  • 丹羽文雄集 日本文学全集文芸野間文芸賞
  • 『折口信夫文芸論集』★安藤礼二編 講談社文芸文庫 2010刊 美品
  • 【本】男たちへ 塩野七生 著 文芸春秋
  • ★野間宏『暗い絵|顔の中の赤い月』講談社文芸★即決!
  • ■ 青葉の翳り―阿川弘之自選短篇集 /講談社文芸文庫■
  • 【講談社文芸文庫】高橋源一郎『さようなら、ギャングたち』
  • 父の帽子/森茉莉/講談社文芸文庫
  • @ベイビーメール 山田悠介 文芸社 ツ44
  • ◎那覇文芸あやもどろ 特集:山之口獏論集
  • ■初版■ 中上健次 ■  化粧  ■講談社文芸文庫■
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芥川龍之介      一 「死者生者」 「文章倶楽部」が大正時代作品中、諸家の記憶に残つたものを尋ねた時、僕も返事をしようと思つてゐるうちについその機会を失つてしまつた。僕の記憶に残つてゐるものはまづ正宗白鳥氏の「死者生者(ししやせいしや)」である。これは僕の「芋粥」と同じ月に発表された為、特に深い印象を残した。「芋粥」は「死者生者」ほど完成してゐない。唯幾分か新しかつただけである。が、「死者生者」は不評判だつた。「芋粥」は――「芋粥」の不評判だつたのは吹聴(ふいちやう)せずとも善い。「読後感とでも云ふのかな。さう云ふものの深い短篇だね。」――僕は当時久米正雄君の「死者生者」を読んだ後、かう言つたことを覚えてゐる。が、「文章倶楽部」の問に応じた諸家は誰も「死者生者」を挙げてゐなかつたらしい。しかも「芋粥」は幸か不幸か諸家の答への中にはいつてゐる。
 この事実証明する通り、世人は新らしいものに注目し易い。従つて新らしいものに手をつけさへすれば、兎に角作家にはなれるのである。しかしそれは必ずしも一|爪痕(さうこん)を残すことではない、僕は未だに「死者生者」は「芋粥」などの比ではないと思つてゐる、のみならず又正宗氏自身も短篇作家としては、「死者生者」を書いた前後に最も芸術的ではなかつたかと思つてゐる。が、当時の正宗氏は必ずしも人気はなかつたらしい。

     二 時代

 僕は時々かう考へてゐる。――僕の書いた文章はたとひ僕が生まれなかつたにしても、誰かきつと書いたに違ひない。従つて僕自身の作品よりも寧ろ一時代の土の上に生(は)えた何本かの艸(くさ)の一本である。すると僕自身の自慢にはならない。(現に彼等は彼等を待たなければ、書かれなかつた作品を書いてゐる。勿論そこに一時代は影を落してゐるにしても。)僕はかう考へる度に必ず妙にがつかりしてしまふ。

     三 日本文芸特色

 日本文芸特色、――何よりも読者に親密(intime)であること。この特色善悪は特に今は問題にしない。

     四 アナトオル・フランス

 〔Nicolas Se'gur〕 の「アナトオル・フランスとの対話」によれば、この微笑した懐疑主義者は実に徹底した厭世主義者である。かう云ふ一面は Paul Gsell の「アナトオル・フランスとの対話」(?)にも現はれてゐない。彼は「あなたの作中人物は皆微笑してゐるではないか?」といふ問に対し、野蛮にもかう返事をしてゐる。――「彼等は憐憫(れんびん)の為に微笑してゐる。それは文芸上の技巧に過ぎない。」
 このアナトオル・フランスの説によれば人生は唯意志する力と行為する力との上に安定してゐる。しかし我々は意志する為には一点に目を注がなければならぬ。それは何びとにも出来ることではない。殊(こと)に理智と感受性との呪(のろ)ひを受けた我々には。
「エピキユウルの園」の思想家、ドレフイイユ事件のチヤンピオン、「ペングインの島」の作家だつた彼もここでは面目を新たにしてゐる。尤も唯物主義的に解釈すれば、彼の頽齢(たいれい)や病なども或は彼の人生観を暗いものにしてゐたかも知れない。しかしこれは彼の作品中、比較的等閑に附せられたものを、――或は事実上出来の悪いものを(たとへば「赤い卵」の如き)彼の一生の文芸的体系に結びつける綱を与へてゐる。病的な「赤い卵」なども彼には必然作品だつたのであらう。僕はこの対話書簡集から更に新らしい「アナトオル・フランス論」の書かれることを信じてゐる。
 このアナトオル・フランス十字架を背負つた牧羊神である。尤も新時代は彼の中に唯前世紀から今世紀に渡る橋を見出すばかりかも知れない。が、世紀末に人となつた僕はやはりかう云ふ彼の中に有史以来の僕等を見出してゐる。

     五 自然主義

 自然は僕等が一定の年齢に達した時、僕等に「春の目ざめ」を与へてゐる。それから僕等が餓(う)ゑた時、烈しい食慾を与へてゐる。それから僕等が戦場に立つた時、弾丸を避ける本能を与へてゐる。それから何年か(或は何箇月か)同棲生活の後、その女人と交(まじは)ることに対する嫌悪の情を与へてゐる。それから、……
 しかし社会命令自然命令一致してゐない。のみならず屡(しばしば)反対してゐる。そればかりならば差支へない(?)。しかし僕等は僕等自身の中に自然命令否定する何か不思議なるものを持ち合せてゐる。


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