縮緬のこころ 関連リンク

岡本 かの子 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

縮緬のこころ - 岡本 かの子 ( おかもと かのこ )

  • 古布106二折長ポーチ(兎鹿猿,鳥獣戯画,縮緬)時代着物地手作り
  • カネコイサオ●06年菊と流水柄縮緬ブラウス&スカート●和調和柄
  • ★招き猫★下げ飾り:一本吊り★縮緬TU-10
  • 【七福】上質な生地♪正絹♪縮緬♪小紋袷着物♪美品
  • キッチュライド♪カネコイサオ♪縮緬和柄スカート
  • スクリプト花旅楽団波鯉薄手縮緬シルクアロハシャツワインS
  • きもの99☆即決送料無料☆228新古品の色無地紋意匠織り 縮緬
  • 【京都かぐや】90■新品誂え仕立て 色無地 紋意匠丹後縮緬■
  • 【七福】新品♪正絹♪縮緬♪色無地袷着物♪
  • カネコイサオ◆縮緬のパンツ◆ワンダフルワールド
 おめしちりめんといふ名で覚えてゐる――それでつくられてゐた明治三十年代、私の幼年時代のねんねこ。それも母のきものをなほしたねんねこだつたからそれよりずつとむかし、明治二十前後織物だつたかもしれない。そのねんねこで若いきれいな守女におぶさるのがうれしかつた。柄は紫の矢はづだつたと思ふ。きめが細かくて、そのくせ、しぼが、さらつとして柔かく、しんにぴんとした感じがあつた。何といふ古風な紫の上品な色調、それがやや鼠がゝつた白と中柄の矢はづ絣を組み合せてゐる柄。上品なうへに粋だつた。黒繻子のゑりがかゝつたそのねんねこがすらつとした色の白い若い守女と眼の大きな髪の毛の黒々とした茫漠としたやうな女の児をつつんでゐたその頃の――明治三十年代のやや古びたおめしちりめん想像して下さい。今の錦紗のやや軽薄めいた技巧的感触や西陣お召の厳粛性のやうな感じとは全然ちがふもつと、ち、り、め、ん、といふなまめかしさ、いとしさ、やるせなさ、優しさの含んだ純粋絹をねりにねつてしなとこくとをつけた布地でした。
 かんこちりめんといふ、これは苦労して働いた家刀自の愛のやうな感じのちりめんで、やはりその頃母の古着のなかにあつたやうに覚えてます。しぼがやたらに荒くつて、もめんのやうな感じの素朴なちりめん。はんてんか上つぱりにし度いやうな細い縞が藍色がゝつたサラサ模様であつたやうです。
 私の三歳、五歳の祝ひ着は今の芝居のうちかけで見るやうな花蝶総縫ひのちりめん下着を赤のゑぼしちりめんといふので重ねてありました。しぼがゑぼしの折りのやうに高く立つてゐるからゑぼしちりめんなのださうです。
 あついたちりめんといふのは私の女学校時代学期の合間に着せられる着物についた帯地のちりめんでした。しぼは普通で赤地に白で松竹梅などの柄が出てゐました。ヒワ色、褪紅色の無地ちりめん兵古帯など小学校から女学校時代袴下にしめました。
 娘時代のある時、歌舞伎舞台で見た若い芸妓ちりめん浴衣にすつかり魅せられました。白ちりめんへ桐の葉を写生風に染め抜いてあるのを殆ど素肌に着てゐました。うらやましくて、私のこしらへたのはしかし、さすがに墨色では粋すぎるので薄紫で菱形を大きく出して見ました。純粋ちりめんを素肌に着た気持ち――一応は薄情なやうな感触であり乍らしつとりと肌に落ちついたとなると、何となつかしく濃情に抱きいたはられる感じでせう。その味の深さ、やるせなさは忘れられるものではありません。
 風にあたつても、雨にふられても、うちへうちへと、しつとりくぼめの抑へをひきしめて、一緒に泣いてでも呉れるやうな、なさけはちりめん着物よりほか持つてゐません。
 今のちりめんでは、綿紗とか西陣とか小浜とか立派な名を持つてゐるのより、むしろ名もないたゞの地になつて、やたらに友染の染め下地になつてるやうな普通ちりめんといふだけで通るあのちりめんがなつかしくて好きです。でなければ、優しい静な心の地へ、ところ/″\熱情のしこりを持つたやうな紋ちりめんが好きです。



底本:「日本の名随筆38・装」作品社
   1985(昭和60)年12月25日第1刷発行
   1991(平成3)年9月1日第8刷発行
底本の親本:「岡本かの子全集 第十三巻」冬樹社
   1976(昭和51)年11月
入力:渡邉つよし
校正菅野朋子
2000年7月11日公開
2003年8月31日修正
青空文庫作成ファイル
このファイルは、インターネット図書館青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力校正制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。


岡本 かの子 (おかもと かのこ) 以外のオススメ作品

縮緬のこころ (ちりめんのこころ) のリンク元

「縮緬のこころ-岡本 かの子」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN