美しく豊な生活へ 関連リンク

宮本 百合子 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

美しく豊な生活へ - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • こども天然生活 ☆ 02  *別冊天然生活*
  • カタログハウス(通販生活) イトイの通販生活 糸井重里
  • 即決》あるクマの生活 白熊的生活 仕事編【全5種フルコンプ
  • マルチカバー◆エコ生活◆天然生活◆クウネル
  • やさしい生活やさしい時間2雅姫さん*天然生活ゆららハグオーワー
  • たたかうお嫁さま セキララ結婚生活 7年目の結婚生活 けらえいこ
  • わかさ生活★ブルーベリーのある生活
  • ★☆即落 ハーブ百科 (主婦と生活生活シリーズ 218☆★
  • $ものづくり生活VOL.1(別冊天然生活)「人気作家8人の暮らし」
  • 天然生活、別冊天然生活創刊,2,3号■5冊セット希少創刊■格安
次のページ
 この雑誌読者である方々くらいの年頃の少女生活は、先頃まではあどけない少女時代生活という風に表現されていたと思います。そしてそれは、そう言われるにふさわしい、気苦労のない、日常生活の進行は大人にまかして、自分達は愉快学校に通い、友達遊び、すくすくと生成して行ってよいという生活だったと思います。けれども戦争が始まり、特に大東亜戦争が始まってから少女達の生活大変変化をしました。
 家族の中から沢山の人が兵隊にとられて生活の事情が今までよりも困難になった為に、家庭生活の重みが少女達の肩にも幾分かずつ掛りはじめたということもあります。また学校教育方針が急に変って、今までは自分の好きな髪に結って居ってもよかったのが、勇ましい髪形をしなければならなくなったり、千人針動員されたことから次第に、動員の程度がひどくなって、終りには学校工場に働いたり、また実際に工場に行って暮したり、耕作したり、学課は殆ど出来ない状態でこの二年ほどが過ぎたと思います。
 少女時代の二年という時間は、大人の考えることも出来ないほど内容をもった二年ではないでしょうか。十四の娘さんが十五になり、十六になるということ、それはただ十四のものが二つ殖えて十六になったのではなくて、そこには十四であった少女の知らなかったどっさりの事、心もちが加って来ていて、自分らはもう十六であるという喜びと誇りと人世への待ちもうけとをもつようになっています。人生がほのぼのと見え始めて来た時代です。そのときに人間として高まって行くような勉強も、楽しみもない。工場で働いても其はあまり愉快に働いたとも云えない。過労をする。空腹になる。しかもあなた方はどうぞ立派少女となって下さいといういたわりが、世間空気から感じられるというのでもなく生活して来たということは、今日少女たちの総ての人が分け合っている経験だと思われます。
 さて、恐ろしい戦(いくさ)は終りました。前線に行っていらした皆さんの御兄弟はお帰りになった方もあるでしょう。しかし決してもう二度と帰らない御兄弟を持った娘さんもあるでしょう。それから皆さんのお父さんも、徴用から解除され、或は復員になって家庭にお帰りになった方もあるでしょう。しかしまた決して二度と帰らないお父さんを持った方達も少くないでしょう。また帰っていらしても、戦争のために不具になって、娘(こ)としてまた妹としてその人達にいつも親切にして上げたい、何か幸福にして上げたいと思わずにいられないような状態で、新しい生活が始まっている方々も多いでしょう。
 社会状態大変早い勢いで変りました。今日では、みなが自由であるということ。生活を喜んで営むべきである。正しいと信じたことは、ちゃんと言い、又行うべきである。人間らしい生活作るために色々条件改善して行くべきである。そういう声がどこでもきかれるようになりました。それは全く当然であると思います。何のために戦っているのか本当には分らない戦(いくさ)のために、非常に沢山の人が殺され、国民生活破壊されるのを黙ってこらえて行かなければならぬというようなことは間違っていたのですから、今日その間違いを認め、そこから新しい生活を築き上げて行くということこそ、生きるよろこびだと思います。
 ところが、そういう明るい、晴れやかな希望に照らされた建設可能を聞く一方、実際には私どもの毎日の、朝から晩までを満している、いろいろの心配、困難、わけのわからないことがまだまだ決して消えていないのです。
 まず第一食糧問題があります。男でも女でも、年寄でも子供でもみな今日食べる物が足りません。おなかの空くことは、昔は母親心配して何とか食べさせて行けました。今日お母さんだけでは間に合わないでお父さんが動いています。お父さんが動いても子供が大勢の場合には、まだ不充分で、女学校一年、二年、ひどい場合には国民学校の上級生の小さい人達までが、自分智慧食物を見つけようと思うようになって来ています。疎開児童田舎へ行って爆弾からは護られたけれども空腹からは護られませんでした。疎開学童働く楽しみのために農家を手伝ったのではなくて、そうすれば食物を貰えるから、その目的のために働きました。それでも疎開児童が帰って来たときに、親は涙をこぼすほど痩せました。皆さんの御弟妹もそうであったかもしれずあなた方自身もそうだったかもしれません。
 今日しっかりした少女達は、食べる問題は決して親や、兄姉にまかしてだけは置きません。折あるごとに自分も探して手に入れなければならないという必死な心持を持っています。しかしその娘さん達は自分の働いたお金食物を得て行ける年齢ではないし、また食物そのものの値段が、今日ではもう法外なものになっているから、お父さん達が正当な働きで得て来るお金では十分食べて行くことの出来ないような時になっています。よいと云っても、わるいと云っても生きて行くには万事闇で行かなければなりません。此の事情のために若い少女達まで、いつの間にか闇は当り前。要領をうまくして、少しでもどっさり手に入れる方が得だというような考に、いつしか馴らされてしまっているのではないでしょうか。
 女の人は今まで社会的に大変下手(したて)に出るよう馴らされて来ていますから、お金は足りない。が、どうかして物を買わなければならないというときに、自(おのずか)ら若い女性達は、自分が若い娘であるという一つの有利な条件を、自分で知ってか知らずかそれを愛嬌として使って、何となしに物をせしめるというような結果にもなるわけです。また大人経済的非常に苦しい、月給では迚も足りないことから、闇の上前をはねてやりくることも見ないではないでしょう。人間は、先ず正直でなければならないという、一番大事な点が今日では互に信じられないようにまでなっています。正直で飢死(うえじに)する方が正しいのか。それとも、要領をよくして生きる方が得なのか。そう訊かれたとき、幾人の少女が自信をもって答えられるでしょう。


次のページ

宮本 百合子 (みやもと ゆりこ) 以外のオススメ作品

美しく豊な生活へ (うつくしくゆたかなせいかつへ) のリンク元

「美しく豊な生活へ-宮本 百合子」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN