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義民甚兵衛 - 菊池 寛 ( きくち かん )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
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人物  農夫     甚兵衛   二十九歳 甚しき跛者  その弟    甚吉    二十五歳  同      甚三    二十二歳  同      甚作    二十歳  甚兵衛継母 おきん   五十前後  隣人     老婆およし 六十歳以上  庄屋     茂兵衛  村人     勘五郎  村人     藤作  一揆首領  甲  同      乙  刑吏、村人、一揆その他大勢 時  文政十一十二月 所  讃岐国香川郡弦打村           第一甚兵衛の家。藁葺きの、大なれども汚き百姓家。左に土間土間につづいて台所の右は八畳の居間、畳も柱も黒く光っている。入口の柱には、金比羅大神宮の大なる札を貼っている。その札も、黒くくすぶっている。八畳の奥は部屋のあることを示している。家財道具はほとんどなし。
母屋の左に接近して、一棟の建物がある。画(かぎ)られて、牛小屋納屋とになっている。牛はいない。
幕開く。甚作と甚三とが、家の前庭で、「前掻き」と称する網を繕(つくろ)っている。(方形の形をして柄が付いている。小溝の鮒や泥鰌(どじょう)を掬(すく)うに用いるもの)しばらくすると、母のおきんが、母屋と牛小屋との間から、大根を二本さげて出てくる。冬の日黄昏(たそがれ)近し。



おきん 畜生! また大根を二、三本盗みやがった! 作、今度見つけたら背骨の折れるほど、どやしつけてやれ! どこのどいつやろう。
甚作 新田の権(ごん)が、昨日夕方裏の畑のところを、うろうろしていたけに、あいつかも知れんぞ。飢饉で増えたのは畑泥棒ばかりじゃ。
おきん 大根やって、今年は米の飯よりも大事じゃ。百本ばかりある大根が、冬中のおもな食物(くいもの)じゃけになあ。
甚三 お母(かあ)、木津の藤兵衛の家じゃもう食物(くいもの)が尽きたけに、来年の籾種にまで、手を付けたというぞ。
おきん 藤兵衛が家でけ。ええ気味じゃ。藤兵衛の嬶(かかあ)め、俺がいつか小豆一升貸せいうて頼んだのに、貸せんというてはねつけやがったものな。


(おきん、台所へ入り水を汲んで大根を洗っている。隣家の老婆、およし入ってくる。ぼろぼろの着物を着て、瘠せはてている)


およし 甚作さんたち、何しているんでや。
甚作 これから、魚掬いに行くんじゃ。
およし お前の所じゃ、まだそななことができるから、ええな。わしの所じゃ、老人(としより)夫婦泥鰌一匹捕ることやてできやせん。食べるものは、もう何にもなしになってしもうた。
甚三 およし婆さん。羨むなよ。これでな、二人で一日中小溝を漁ってもな、細い泥鰌二十匹も取ればええ方じゃぞ。
およし そうかな
甚三 この近所じゃ、銘々で取り尽して、川には、小鮒一つやて、おりゃせんわ。山には、山の芋どころか、のびるだって、余計は残っておらんぜ。
およし もう一月もしたら、何食うやろうぜ。
甚三 おおかた壁土でも食っているやろう。
甚作 滝の宮の方じゃ、もう松葉食うとるだ。
およし 民百姓がこなに苦しんどるのに、お上じゃまだ御年貢を取るつもりでいるんじゃてのう。
甚作 御年貢米の代りに、人間の乾干しを収めるとええぞ。
およし 明和飢饉じゃて、これほどではなかったのう。
甚作 あの時には、お救い小屋が立ったというじゃないか。
およし そうじゃ、そうしゃ。わしもな、お救い小屋お粥をもろうたがなあ。ひどい飢饉じゃったけれどもな、今度ほどは困らなかったぞ。みんな、お上がよかったからじゃ。御家老様が、偉い御家老様だったでな。お蔵米を惜しげもなくお下げになったのじゃ。


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