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聖女人像 - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )

  • 聖女が眠る村/フランセス・ファイフィールド/HPB1638
  • 戸川昌子「聖女」
  • ★【角川ホラー文庫】 聖女の肉  和田はつ子
  • 芸術新潮94年7月★聖女たちとやさしいキリスト教
  • ☆RB☆シャイニング・ウィンド 聖女リュウナ衣装 コスプレ
  • あの日のあなたへ/聖女と堕天使/狼たちの休息/ビバリー.バートン
  • KOF同人誌「聖女チェレステ団の悪童」 華氏 硝音あや
  • 1円★artfolio★堂本印象 木版画『聖女観音』072878
  • 【帯付】篠田真由美☆聖女の塔☆建築探偵桜井京介の事件簿
  • 「腐爛の華 スヒーダムの聖女リド​ヴィナ」 ユイスマン
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 深々と、然し霧のように軽く、闇のたれこめている夜……月の光りは固よりなく、星の光りも定かならず、晴曇さえも分からず、そよとの風もなく、木々の葉もみなうなだれ眠っている……そういう真夜中に、はっきりと人の気配のすることがある。どこかで、ガラガラ雨戸を繰る音がする。ただそれきり。どこかで、数音の人声がする。ただそれきり。どこかで、廊下歩く足音がする。ただそれきり。それきりだが、それ故にまた、深夜の中にくっきりと浮き出るのだ。
 私の夢もそれに似ている。茫漠たる眠りの中に、瞬間の形象がくっきりと浮き出す。――海岸の深い淵のなか、水面から僅かにのぞき出てる、苔むした滑らかな巌の上に、誰かがじっとしがみついている。――幾抱えもある巨木の根本に、何を為すでもなく、何を見るでもなく、永遠彫刻のように、誰かが静かに佇んでいる――。荒野の中を、誰かが歩いている。片方は底知れぬ深い断崖である。もし覗きこめば、視線と共に体まで底へ引きずりこまされそうだ。危い。ただ歩いている。――誰かが呪文のようなことを唱える……大凶大吉との交叉する一刻だ。悪魔になりたいか、神になりたいか。息をひそめよ、息をひそめよ。
 そういう種類の夢を、私はしばしばみる。昼となく夜となく、昏迷に似た眠りのなかに、それらの形象が明瞭に浮き出し、それらを、或は眠りながら、或は眼覚めながら……私は見戌るのである……遂にいずこかへ消え失せてしまうまで。
 私は病気らしい。寝つくというほどではないが、常に寝床を敷かして、気の向くままに起きたり寝たり、ぶらぶらしている。普通の通念による病気かどうか、実はそれがまだはっきりしないのだ。――一ヶ月あまり雨の一滴もなく、異常な炎熱が続いた、その暑気あたりかも知れない。そういう暑中に、過度の精神労働をした、その疲労かも知れない。多忙なあまり、手当り次第に飲んだ酒類の中の、メチールアルコール体内に蓄積した、その作用かも知れない。或は、体のいずこかにひそかに巣くってる細菌か、内臓のいずれかの人知れぬ故障か、脳髄一部分の組織の変質か、そういうものに依るのかも知れない。いや、それらのいずれでもなかろう。恐らくはそれらすべての総合だろう。だから私は医者に診て貰わないのである。明瞭な一定の疾患ではないのだ。むしろ、それは私にとっては休養なのだ。休養が病識らしいものに転化したのかも知れない。仕事が一段落ついてから取った休暇が、心身の緊張を一時に弛緩さしたのだとも言える。
 長い炎熱のあと、遂に雷雨が来た。大したものではなく、その後に豪雨を得て大地は初めて蘇ったのだが、その時は然しほっと息がつけた。雷鳴電光を伴いながら、沛然と降ってからりと霽れるのではなく、じわじわと降った。四五十分後には細雨となった。縁側の先端の軒先に、高く伸びた夾竹桃の数本がある。その根本すれすれに、軒の屁から水滴垂れた。そこに、大きながま蛙が出て来て、水滴受けていた。前足を立て、後足で蹲まってる、その頭から背中に、しきりに水滴垂れる。大きな腹部の背面に垂れると、ぼこりぼこりと音がする。蛙は時々、頭を動かし、向きを変える。だが水滴落ち場所を離れない。餌食の昆虫を待ち受けてるのであろうか。単に水滴を浴びてるのであろうか。
 のっそりしたその蛙の遅鈍さが、それを一心に見戌ってる私を嘲るのだ。


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