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聖書の権威 - 有島 武郎 ( ありしま たけお )

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  • 古本 第1刷発行 聖書学の基礎知識 新約聖書と文学批評 
  • 【白川義員作品集】 聖書の世界シリーズ★旧約聖書の世界★ 美品
  • ●美品●小説「聖書」 文庫本 5冊組 ウォルター・ワンゲリン
  • 聖書ギリシア語四週間(野口誠)'00いのちのことば社
  • パウル・トゥルニエ著 赤星進訳「聖書と医学」聖文舎
  • 910 小説「聖書」旧約篇 Walter Wangerin
  • ●ATD旧約聖書註解16 雅歌・哀歌・エステル記 定価4000円
  • 道しるべ ロビンソン、ウインワード共著 聖書同盟
聖書』の権威  私には口はばったい云い分かも知れませんが聖書と云う外はありません。聖書が私を最も感動せしめたのは矢張り私の青年時代であったと思います。人には性の要求と生の疑問とに、圧倒される荷を負わされる青年と云う時期があります。私の心の中では聖書と性慾とが激しい争闘をしました。芸術的の衝動性欲に加担し、道義的衝動聖書に加担しました。私の熱情はその間を如何(ど)う調和すべきかを知りませんでした。而して悩みました。その頃の聖書は如何に強烈な権威を以て私を感動させましたろう。聖書を隅から隅にまですがりついて凡ての誘惑に対する唯一の武器とも鞭撻とも頼んだその頃を思いやると立脚の危さに肉が戦(おのの)きます。
 私の聖書に対する感動はその後薄らいだでしょうか。そうだとも云えます。そうでないとも云えます。聖書内容生活としっかり結び付けて読む時に、今でも驚異の眼を張り感動せずに居られません。然し今私は性欲生活にかけて童貞者でないように聖書に対してもファナティックではなくなりました。是れは悪い事であり又いい事でした。楽園を出たアダムは又楽園に帰る事は出来ません。其処には何等かの意味に於て自ら額に汗せねばならぬ生活が待って居ます。私自身の地上生活及び天上生活が開かれ始めねばなりません。こう云う所まで来て見ると聖書から嘗(かつ)て得た感動は波の遠音のように絶えず私の心耳を打って居ます。神学伝説から切り放された救世の姿がおぼろながら私の心の中に描かれて来るのを覚えます。感動の潜入とでも云えばいいのですか。

 何と云っても私を強く感動させるものは大きな芸術です。然し聖書内容は畢竟凡ての芸術以上に私を動かします。芸術宗教とを併説する私の態度が間違って居るのか、聖書を一箇の芸術とのみ見得ない私が間違って居るのか私は知りません。(大正五年十月



底本:「日本の名随筆 別巻100 聖書作品社
   1999(平成11)年6月25日第1刷発行
底本の親本:「有島武郎全集 第七巻」筑摩書房
   1980(昭和55)年4月
入力加藤恭子
校正:門田裕志、小林繁
2005年5月3日作成
青空文庫作成ファイル
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