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- 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ●太宰治【文豪ナビ 太宰治 ナイフを持つ前にダザイを読め!!】
  • 太宰治 『太宰治全集 3』 (ちくま文庫)
  • 太宰治をおもしろく読む方法 (単行本) 山口 俊雄 (編集)
  • 太宰治 人間失格 ヴィヨンの妻 お伽草子 惜別 津軽 5冊
  • 古書「太宰治全集 第2巻」筑摩書房、昭和46年発行
  • ◎◎ 太宰治集/人間失格 斜陽 走れメロス ヴィヨンの妻◎◎
  • 定本 太宰治全集 初版 筑摩書房 中古
  • 太宰治本「太宰萌え 入門者のための文学ガイドブック」岡崎武志
  • ◆◇ 太宰治著「女生徒」(角川文庫)
  • 朗読CD 朗読街道22「富嶽百景」太宰治 試聴あり
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撰(えら)ばれてあることの 恍惚(こうこつ)と不安と 二つわれにあり            ヴェルレエヌ  死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目(しまめ)が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。

 ノラもまた考えた。廊下へ出てうしろの扉をばたんとしめたときに考えた。帰ろうかしら。

 私がわるいことをしないで帰ったら、妻は笑顔をもって迎えた。

 その日その日を引きずられて暮しているだけであった。下宿屋で、たった独りして酒を飲み、独り酔い、そうしてこそこそ蒲団(ふとん)を延べて寝る夜はことにつらかった。夢をさえ見なかった。疲れ切っていた。何をするにも物憂かった。「汲(く)み取り便所は如何(いか)に改善すべきか?」という書物を買ってきて本気に研究したこともあった。彼はその当時、従来の人糞(じんぷん)の処置には可成(かなり)まいっていた。
 新宿歩道の上で、こぶしほどの石塊(いしころ)がのろのろ這(は)って歩いているのを見たのだ。石が這って歩いているな。ただそう思うていた。しかし、その石塊(いしころ)は彼のまえを歩いている薄汚い子供が、糸で結んで引摺(ひきず)っているのだということが直ぐに判った。
 子供に欺かれたのが淋しいのではない。そんな天変地異をも平気受け入れ得た彼自身の自棄(やけ)が淋しかったのだ。

 そんなら自分は、一生涯こんな憂鬱戦い、そうして死んで行くということに成るんだな、と思えばおのが身がいじらしくもあった。青い稲田が一時にぽっと霞(かす)んだ。泣いたのだ。彼は狼狽(うろた)えだした。こんな安価な殉情的な事柄に涕(なみだ)を流したのが少し恥かしかったのだ。
 電車から降りるとき兄は笑うた。
莫迦(ばか)にしょげてるな。おい、元気を出せよ」
 そうして竜の小さな肩を扇子でポンと叩いた。夕闇のなかでその扇子が恐ろしいほど白っぽかった。竜は頬のあからむほど嬉しくなった。兄に肩をたたいて貰ったのが有難かったのだ。いつもせめて、これぐらいにでも打ち解けて呉(く)れるといいが、と果敢(はか)なくも願うのだった。
 訪ねる人は不在であった。

 兄はこう言った。「小説を、くだらないとは思わぬ。おれには、ただ少しまだるっこいだけである。たった一行真実を言いたいばかりに百頁の雰囲気をこしらえている」私は言い憎そうに、考え考えしながら答えた。「ほんとうに言葉は短いほどよい。それだけで、信じさせることができるならば」
 また兄は、自殺をいい気なものとして嫌った。けれども私は、自殺処世術みたいな打算的なものとして考えていた矢先であったから、兄のこの言葉を意外に感じた。

 白状し給え。え? 誰の真似なの?

 水到(みずいた)りて渠成(きよな)る。

 彼は十九歳の冬、「哀蚊(あわれが)」という短篇を書いた。それは、よい作品であった。同時に、それは彼の生涯の渾沌(こんとん)を解くだいじな鍵(かぎ)となった。形式には、「雛(ひな)」の影響が認められた。


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