藍色の蟇 - 大手 拓次 ( おおて たくじ )
森の宝庫の寝間(ねま)に
は黄色い息をはいて
陰湿の暗い暖炉のなかにひとつの絵模様をかく。
太陽の隠し子のやうにひよわの少年は
美しい葡萄のやうな眼をもつて、
行くよ、行くよ、いさましげに、
空想の猟人(かりうど)はやはらかいカンガルウの編靴(あみぐつ)に。
陶器の鴉
陶器製のあをい鴉(からす)、
なめらかな母韻をつつんでおそひくるあをがらす、
うまれたままの暖かさでお前はよろよろする。
嘴(くちばし)の大きい、眼のおほきい、わるだくみのありさうな青鴉(あをがらす)、
この日和のしづかさを食べろ。
しなびた船
海がある、
お前の手のひらの海がある。
苺(いちご)の実の汁を吸ひながら、
わたしはよろける。
わたしはお前の手のなかへ捲きこまれる。
逼塞(ひつそく)した息はお腹(なか)の上へ墓標(はかじるし)をたてようとする。
灰色の謀叛よ、お前の魂を火皿(ほざら)の心(しん)にささげて、
清浄に、安らかに伝道のために死なうではないか。
黄金の闇
南がふいて
鳩の胸が光りにふるへ、
わたしの頭は醸された酒のやうに黴の花をはねのける。
赤い護謨(ごむ)のやうにおびえる唇が
力(ちから)なげに、けれど親しげに内輪な歩みぶりをほのめかす。
わたしは今、反省と悔悟の闇に
あまくこぼれおちる情趣を抱きしめる。
白い羽根蒲団の上に、
産み月の黄金(わうごん)の闇は
悩みをふくんでゐる。
槍の野辺
うす紅い昼の衣裳をきて、お前といふ異国の夢がしとやかにわたしの胸をめぐる。
執拗な陰気な顔をしてる愚かな乳母(うば)は
うつとりと見惚れて、くやしいけれど言葉も出ない。
古い香木のもえる煙のやうにたちのぼる
この紛乱(ふんらん)した人間の隠遁性と何物をも恐れない暴逆な復讐心とが、
温和な春の日の箱車(はこぐるま)のなかに狎(な)れ親しんで
ちやうど麝香猫と褐色の栗鼠(りす)とのやうにいがみあふ。
をりをりは麗しくきらめく白い歯の争闘に倦怠の世は旋風の壁模様に眺め入る。
鳥の毛の鞭
尼僧のおとづれてくるやうに思はれて、なんとも言ひやうのない寂しさ いらだたしさに張りもなくだらける。
嫉妬よ、嫉妬よ、
やはらかい濡葉(ぬれば)のしたをこごみがちに迷つて、
鳥の毛の古甕色(こがめいろ)の悲しい鞭にうたれる。
お前はやさしい悩みを生む花嫁、
わたしはお前のつつましやかな姿にほれる。
花嫁よ、けむりのやうにふくらむ花嫁よ、
わたしはお前の手にもたれてゆかう。
撒水車の小僧たち
お前は撒水車をひく小僧たち、
川ぞひのひろい市街を悠長にかけめぐる。
紅や緑や光のある色はみんなおほひかくされ、
Silence(シイランス) と廃滅(はいめつ)の水色の色の行者のみがうろつく。
これがわたしの隠しやうもない生活の姿だ。
ああわたしの果てもない寂寥を
街のかなたこなたに撒きちらせ、撒きちらせ。
撒水車の小僧たち、
あはい予言の日和が生れるより先に、
つきせないわたしの寂寥をまきちらせまきちらせ。
海のやうにわきでるわたしの寂寥をまきちらせ。
羊皮をきた召使
お前は羊皮(やうひ)をきた召使だ。
くさつた思想をもちはこぶおとなしい召使だ。
お前は紅い羊皮をきたつつましい召使だ。
あの ふるい手なれた鎔炉のそばに
お前はいつも生生(いきいき)した眼で待つてゐる。
ほんたうにお前は気の毒なほど新らしい無智を食べてゐる。
やはらかい羊の皮のきものをきて
すずしい眼で御用をきいてゐる。
すこしはなまけてもいいよ、
すこしはあそんでもいいよ、
夜になつたらお前自身の考をゆるしてやる。
ぬけ羽のことさへわすれた老鳥(おいどり)が
お前のあたまのうへにびつこをひいてゐる。
のびてゆく不具
わたしはなんにもしらない。
ただぼんやりとすわつてゐる。
さうして、わたしのあたまが香のけむりのくゆるやうにわらわらとみだれてゐる。
あたまはじぶんから
あはうのやうにすべての物音に負かされてゐる。
かびのはえたやうなしめつぽい木霊(こだま)が
はりあひもなくはねかへつてゐる。
のぞみのない不具(かたは)めが
もうおれひとりといはぬばかりに
あたらしい生活のあとを食ひあらしてゆく。
わたしはかうしてまいにちまいにち、
ふるい灰塚のなかへうもれてゐる。
神さまもみえない、
ふるへながら、のろのろしてゐる死をぬつたり消しぬつたり消ししてゐる。
やけた鍵
だまつてゐてくれ、
おまへにこんなことをお願ひするのは面目ないんだ。
この焼けてさびた鍵をそつともつてゆき、
うぐひす色のしなやかな紙鑢(かみやすり)にかけて、
それからおまへの使ひなれた青砥(あをと)のうへにきずのつかないやうにおいてくれ。
べつに多分のねがひはない。
ね、さうやつてやけあとがきれいになほつたら、
またわたしの手へかへしてくれ、
それのもどるのを専念に待つてゐるのだから。
季節のすすむのがはやいので、
ついそのままにわすれてゐた。
としつきに焦(こ)げたこのちひさな鍵(かぎ)も
またつかひみちがわかるだらう。
美の遊行者
そのむかし、わたしの心にさわいだ野獣の嵐が、
初夏の日にひややかによみがへつてきた。
陶器の鴉
陶器製のあをい鴉(からす)、
なめらかな母韻をつつんでおそひくるあをがらす、
うまれたままの暖かさでお前はよろよろする。
嘴(くちばし)の大きい、眼のおほきい、わるだくみのありさうな青鴉(あをがらす)、
この日和のしづかさを食べろ。
しなびた船
海がある、
お前の手のひらの海がある。
苺(いちご)の実の汁を吸ひながら、
わたしはよろける。
わたしはお前の手のなかへ捲きこまれる。
逼塞(ひつそく)した息はお腹(なか)の上へ墓標(はかじるし)をたてようとする。
灰色の謀叛よ、お前の魂を火皿(ほざら)の心(しん)にささげて、
清浄に、安らかに伝道のために死なうではないか。
黄金の闇
南がふいて
鳩の胸が光りにふるへ、
わたしの頭は醸された酒のやうに黴の花をはねのける。
赤い護謨(ごむ)のやうにおびえる唇が
力(ちから)なげに、けれど親しげに内輪な歩みぶりをほのめかす。
わたしは今、反省と悔悟の闇に
あまくこぼれおちる情趣を抱きしめる。
白い羽根蒲団の上に、
産み月の黄金(わうごん)の闇は
悩みをふくんでゐる。
槍の野辺
うす紅い昼の衣裳をきて、お前といふ異国の夢がしとやかにわたしの胸をめぐる。
執拗な陰気な顔をしてる愚かな乳母(うば)は
うつとりと見惚れて、くやしいけれど言葉も出ない。
古い香木のもえる煙のやうにたちのぼる
この紛乱(ふんらん)した人間の隠遁性と何物をも恐れない暴逆な復讐心とが、
温和な春の日の箱車(はこぐるま)のなかに狎(な)れ親しんで
ちやうど麝香猫と褐色の栗鼠(りす)とのやうにいがみあふ。
をりをりは麗しくきらめく白い歯の争闘に倦怠の世は旋風の壁模様に眺め入る。
鳥の毛の鞭
尼僧のおとづれてくるやうに思はれて、なんとも言ひやうのない寂しさ いらだたしさに張りもなくだらける。
嫉妬よ、嫉妬よ、
やはらかい濡葉(ぬれば)のしたをこごみがちに迷つて、
鳥の毛の古甕色(こがめいろ)の悲しい鞭にうたれる。
お前はやさしい悩みを生む花嫁、
わたしはお前のつつましやかな姿にほれる。
花嫁よ、けむりのやうにふくらむ花嫁よ、
わたしはお前の手にもたれてゆかう。
撒水車の小僧たち
お前は撒水車をひく小僧たち、
川ぞひのひろい市街を悠長にかけめぐる。
紅や緑や光のある色はみんなおほひかくされ、
Silence(シイランス) と廃滅(はいめつ)の水色の色の行者のみがうろつく。
これがわたしの隠しやうもない生活の姿だ。
ああわたしの果てもない寂寥を
街のかなたこなたに撒きちらせ、撒きちらせ。
撒水車の小僧たち、
あはい予言の日和が生れるより先に、
つきせないわたしの寂寥をまきちらせまきちらせ。
海のやうにわきでるわたしの寂寥をまきちらせ。
羊皮をきた召使
お前は羊皮(やうひ)をきた召使だ。
くさつた思想をもちはこぶおとなしい召使だ。
お前は紅い羊皮をきたつつましい召使だ。
あの ふるい手なれた鎔炉のそばに
お前はいつも生生(いきいき)した眼で待つてゐる。
ほんたうにお前は気の毒なほど新らしい無智を食べてゐる。
やはらかい羊の皮のきものをきて
すずしい眼で御用をきいてゐる。
すこしはなまけてもいいよ、
すこしはあそんでもいいよ、
夜になつたらお前自身の考をゆるしてやる。
ぬけ羽のことさへわすれた老鳥(おいどり)が
お前のあたまのうへにびつこをひいてゐる。
のびてゆく不具
わたしはなんにもしらない。
ただぼんやりとすわつてゐる。
さうして、わたしのあたまが香のけむりのくゆるやうにわらわらとみだれてゐる。
あたまはじぶんから
あはうのやうにすべての物音に負かされてゐる。
かびのはえたやうなしめつぽい木霊(こだま)が
はりあひもなくはねかへつてゐる。
のぞみのない不具(かたは)めが
もうおれひとりといはぬばかりに
あたらしい生活のあとを食ひあらしてゆく。
わたしはかうしてまいにちまいにち、
ふるい灰塚のなかへうもれてゐる。
神さまもみえない、
ふるへながら、のろのろしてゐる死をぬつたり消しぬつたり消ししてゐる。
やけた鍵
だまつてゐてくれ、
おまへにこんなことをお願ひするのは面目ないんだ。
この焼けてさびた鍵をそつともつてゆき、
うぐひす色のしなやかな紙鑢(かみやすり)にかけて、
それからおまへの使ひなれた青砥(あをと)のうへにきずのつかないやうにおいてくれ。
べつに多分のねがひはない。
ね、さうやつてやけあとがきれいになほつたら、
またわたしの手へかへしてくれ、
それのもどるのを専念に待つてゐるのだから。
季節のすすむのがはやいので、
ついそのままにわすれてゐた。
としつきに焦(こ)げたこのちひさな鍵(かぎ)も
またつかひみちがわかるだらう。
美の遊行者
そのむかし、わたしの心にさわいだ野獣の嵐が、
初夏の日にひややかによみがへつてきた。
大手 拓次 (おおて たくじ) 以外のオススメ作品
- 日本の女 - 芥川 竜之介
- センツアマニ - ゴーリキー マクシム
- 「晩年」と「女生徒」 - 太宰 治
- 言葉の不思議 - 寺田 寅彦
- 文壇の趨勢 - 夏目 漱石
藍色の蟇 (あいいろのひき) のリンク元
- http://atpedia.jp/word/%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0
- http://atpedia.jp/word/%E7%81%AB%E7%9A%BF
- [[biglobe]] ???@?
- [[biglobe]] ???F?悶
- [[biglobe]] 東方ProjectCDグッズ
- [[biglobe]] 大手拓次
- http://docomo.ne.jp/cp/as-rslt.cgi?pno=1&key=%82%a0%82%e2%82%b5%82%ab%8ep%82%aa%82%f0%82%f1%82%c8%82%c9%82%cd%82%a0%82%e9&sid=000
- http://docomo.ne.jp/cp/as-rslt.cgi?pno=2&key=%83i%83%93%83p%83X%83%7c%83b%83g%96L%8b%b4&fid=2
- [[ezweb]] 大手拓次 鴉
- [[ezweb]] 夕映 漏らす 小説
「藍色の蟇-大手 拓次」の関連ページ
-
背負い巨大手裏剣 ブルー - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
仮入力 -
背負い巨大手裏剣 ホワイト - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
仮入力 -
824 - 854 - 814 - 伊予鉄ファン - 伊予鉄ファン
800系 第4編成の写真824松前駅古町駅松山市-大手町854松山市-大手町松山市-大手町814鎌田-岡田鎌田-岡田 -
767 - 717 - 727 - 伊予鉄ファン - 伊予鉄ファン
700系 第7編成の写真767鎌田-岡田岡田-古泉松山市-大手町大手町駅鎌田-岡田717鎌田-岡田大手町-古町郡中港駅727土居田-余戸 -
612 - 662 - 伊予鉄ファン - 伊予鉄ファン
610系 第2編成の写真612古町駅662大手町駅港町-梅津寺 -
:背負い巨大手裏剣 ブルー/結果グリーン1 - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
合成素材1 合成素材2 合成結果 演出 みづら(赤) ヴィクトリアスアイパッチ レッド 背負い巨大手裏剣 ブルー -
背負い巨大手裏剣 グリーン - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
背負い巨大手裏剣 グリーン[部分編集] 合成素材1 合成素材2 合成結果 演出 アジアンノットヘアバンド レッド ノーザンスノーキャップ ホワイト 背負い巨大手裏剣 グリ -
:背負い巨大手裏剣 ホワイト/素材パープル1 - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
合成素材1 合成素材2 合成結果 演出 ミニうさしっぽ ブラック 背負い巨大手裏剣 ホワイト 焼きたてバゲット 靴付ニーソックス 背負い巨大手裏剣 ホワイト ハロ -
:背負い巨大手裏剣 ブラック/結果パープル1 - @games アイテム合成所wiki - @games アイテム合成所wiki
合成素材1 合成素材2 合成結果 演出 ぱんだまん 桃 ふわふわシフォンケーキ ピンク 背負い巨大手裏剣 ブラック 男子ノーマルヘア(白) 骨付き肉 背負い巨大手裏剣 ブラック -
766 - 716 - 726 - 伊予鉄ファン - 伊予鉄ファン
700系 第6編成の写真766松山市-大手町松山市駅716古町駅726古町駅
