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行為の価値 - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

  • No.9640 無償…自己犠牲ではなく償いを期待しない純粋な魂の行為
  • (青林書院)商行為法 現代法学全書☆送料無料!☆C3-1
  • ■MTG■白 FOIL 勇敢な行為 黒枠 日本語 
  • [昭和46]石原慎太郎 太陽の季節/行為と死 他5作 函・帯付
  • B-008 古本 行為と死 石原慎太郎 昭和39年初版発行
  • 6154/AP/破滅的な行為・3枚セット/黒枠・英語
  • いかなる場でも貫く教師の授業行為の原則 向山 洋一
  • ★行為と死 太陽の季節 他 石原慎太郎文庫1 1964初版
  • 石原慎太郎 / 行為と死 河出書房 初版
  • ■犯罪実行行為論/西原春夫著/成文堂/定価6000円
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 オーストリイのウィーン市のはずれに公園のように美しい墓地がある。そこに、ベートーヴェンの墓やモーツァルトの墓があった。偉大な音楽家の生涯にふさわしく、心をこめて意匠された墓が、晩春の花にかこまれてあるのを見た。
 ポーランドワルシャワ市はポーランド人自由を求めて幾度の行進した町だが、そこの公園美しいショパン記念像がある。大理石の浮彫のその彫像は、五月若葉のかげにまことに印象深かった。
 モスクワの街々にプーシュキンやオストロフスキー、グリボエードフなど文学者記念像が立っていることは、ひろく知られている。日本の、どの街に、どんな音楽家の像が立てられているだろうか。どんな学者の姿が見られるだろうか。今日まで日本支配して来た権力は、文化理解する能力をもたなかった。人間智慧がこしらえられるものは、武器牢獄とであり、人々の間に響く声といえば号令だとしか考えなかった。ましてや、人民解放のために生涯を捧げた解放者の像などはない。
 明治末期から大正にかけて、日本ブルジョアインテリゲンツィア文学の一つを代表した作家夏目漱石は、文学的生涯の終りに、自分リアリズムにゆきづまって、東洋風な現実からの逃避の欲望と、近代的な現実探究態度との間に宙ぶらりんとなって、苦しんだ。最後の作「明暗」は、ただ現象ばかり追っかけリアリズムでは現実芸術として再現することさえ不可能であるということを示している。
 漱石は、今日歴史から顧みれば、多くの限界の見える作家であるが、知識人独立性、自主性を主張することにおいては、なかなか強情であった。官僚にこびたりすることは、文学者のするべきことでないという態度をもっていた。東京帝大教授として、文部省の愚劣さを知りぬいていたから、そういうところからくれる博士号などは欲しくないと云って、ことわった。
 同じ時、三宅雪嶺という哲学者博士号をもらってうけた。ことわるほどのものでもなかろう、と笑って受けて、腹が大きいとかほめたものもあった。この雪嶺は、国粋主義者で、中野正剛を婿にした。これもことわるほどの者でもなかろう、というわけだったのかもしれない。誰かから、立派邸宅をおくられた。ことわるほどのものでもなかったと見えて、それもうけとった。
 漱石の妻君の弟に、建築家があった。その人は、建築家仲間がその姓名のゴロを合わせて、「アドヴァンテージ」(利益)というあだ名で呼ぶような人柄であった。漱石は、その人をすかなかった。親類でも、いやな奴はいやな奴として表現する。それが漱石であった。
 漱石死去して、門人たちは出来るだけこの文学者の趣向に合った墓をこしらえてあげたく思った。ところが、アドヴァンテージが墓をつくった。石づくりの、でっちりとした重苦しい墓で、それは漱石の心に反した。心ある人々は、死んで、抗議の云えない人の墓を、生前好かれていなかったと知っている者が、今こそと自分の生得の力をふるってこしらえた心根をいやしんだ。そして、漱石を気の毒に思った。その墓は、まるで、どうだ、何か云えるなら云ってみろ、と立っているようである。
 日本治安維持法は十七年間に十万人の犠牲を出して、一九四五年の秋、その血なまぐさい歴史表面上まきおさめた。
 この悪法が撤廃され、獄中の人々が解放された時、日本は一種の昂奮した状態におかれた。悪法犠牲者が、そのとき英雄と見られた。まして、もう少しで自由になれるとき、獄死した共産主義者たちに対して、尽しきれない遺憾表明された。それは、自然で、真実の心であった。
 入獄していた三木清氏が、解放の日を待たず死去された。戸坂潤氏も、死去された。三木清という哲学者は、西田幾多郎哲学解説者であり、戦争中は南方に出かけたりしていた。最も進歩的な階級哲学である唯物弁証法哲学に対して、日本で一時大流行をした西田哲学というものは一種の観念哲学であり、自然社会に対する進歩的な認識を助けるというよりも、それを混乱させる役割をもった。それが、西田哲学歴史における性格である。
 三木清氏に、一人の娘さんがある。やっと女学校ぐらいの年頃で、父親入獄中、疎開先の埼玉県農家一人で留守していた。夫人は早く死去されたとかきいた。さし入れ、その他の世話は、娘さんの稚い心くばりを、東京市内の某書店につとめていた或る人が扶けて、行っているという話をきいた。三木氏義理兄弟帝大農学部教授がある。どうして、その人が、小さい娘一人をかばって世話をひきうけられないのだろう。おどろいて、不思議に思った。


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