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観光について - 宮本 百合子 ( みやもと ゆりこ )

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 それを見たことで その人の人生何かが加わり 或は何かが変る丈の力がなくては 観光の対象として極めて薄弱だ。 「戦災のあとも見て貰って 十分満足させて」云々。これは心ある日本人をして 何となくばつの悪い思いをさせた。日本戦災の跡が、どんな満足すべきものをもっているだろう ヴェルダンの戦跡には 戦化が様式化されている、殺戮破壊悲劇芸術的手法で形を与えられている。惨苦がパセティックという感情に、導かれて、通俗人をそこの廃跡にいる間は厳粛にさせ、歴史の犠牲について、人間の発展について思わせる迫力をもって整理されている。仮に下関から東京までの戦災の、あの空虚、又只乏しさ丈の見える平面が、どんな感情をそそるだろう。日本都市と云われた集合地の立体性の皆無さにおどろき 日本近代文化のおくれた足どりに憐憫とやや嫌悪を抱くだろう。生活上の見聞と感覚発達した日本人はそう感じるのである。
 観光日本が眼をたのしませる何をもつか、ということも大切だろうが其を通じて観る人の精神に如何なる生新な人生の断片をもたらし得たかということこそ大切だと思う。
 従来の支那観光客のために歴代何一つしなかった 葬式されずにころがっている人々の死骸さえかたづけなかった。しかしヨーロッパ精神支那はそのむき出しのままの姿で深い感銘を与えている。それはマンの旅行記をよんでも分る。



底本:「宮本百合子全集 第十八巻」新日本出版社
   1981(昭和56)年5月30日初版発行
   1986(昭和61)年3月20日第2版第1刷発行
初出:同上
入力柴田卓治
校正:磐余彦
2004年2月15日作成
青空文庫作成ファイル
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