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話の種 - 寺田 寅彦 ( てらだ とらひこ )

  • N100601 萬華鏡☆寺田寅彦著☆岩波書店刊
  • 柿の種★寺田寅彦★岩波文庫
  • 寺田寅彦随筆集第一巻~五巻セット★岩波文庫
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  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 4』岡本かの子 寺田寅彦★1円
  • 寺田寅彦随筆集/岩波文庫/全5冊組/函■昭和48年
  • 【望星2008年11月号】寺田寅彦に会いたい!
  • 【ラク】FZ0501026●古書/岩波書店/寺田寅彦全集 文学編 第15巻
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 4』岡本かの子 寺田寅彦★1円
  • 【ちくま日本文学034】寺田寅彦 1878-1935
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         一       給仕人は電気  今春米国モンタナ工科大学卒業生のために祝宴を開いた時、ボーイの代りに電気を使って御馳走した。一列に並べた食卓の真中に二条のレールを据え付け、この上を御馳走を満載した可愛らしい電車が徐々(そろそろ)と進行する。卓の両側に陣取った御客様の前に来るごとに、宜しく召上がれと停車する。この給仕車の進退を食卓の片隅でやっていた主人役は、その学校教授先生であったという話である。

      磁石に感ぜぬ鉄の合金

 一に一を加えて二になるのは当り前だが、白い物と白い物を合せれば必ずしも白くなると限らぬ。合金などの性質も一般にその組成金属の性質から推して知られぬ妙な事がある。例えば普通金属中で最も磁石に感じやすいものは鉄とニッケルだが、不思議な事には鉄を七十七、ニッケル二十三割合に交ぜて作った合金常温ではほとんど磁石に感じない。ハイカラ同志が結婚して急に世帯染みたという訳でもあるまいが、とにかくこの不思議合金航海の方に応用する事になった。一体近来の汽船には鉄を多量に使用するため、ややもすれば船体の鉄材が船の生命――羅針盤磁石に感じて多少の誤差を起させる。さればと云って鉄の代りに他の金属を用いては高くなる。これには前述の二十三プロセントニッケル鋼を羅針盤近傍必要の箇所に使ったらよいというので、目下ブレメンで新造中の船にはこれを採用するはずになっている。
明治四十九月三日『東京朝日新聞』)


         二

      罪人発見する器械

 近頃サイコメーターすなわち測心器とでも名づくべき器械を作った人がある。その人の説によると、人体に適度な弱い電流を通し、これを鋭敏な電流計接続しておくと、その人の心の状態によって電流の強さが変り電流計に感じる。非常に驚いたり、また恐れたり、著しい心の劇動があると、そのために筋肉や血行に急変を起し、即座に電流が変るから電流計の鏡が著しく動く。この事を利用して重罪嫌疑者の審問に使おうというのがいわゆる測心器の目的であるそうな。先ず嫌疑者の両の手に器械の電極シッカリ握らせておいて、色々の問を掛ける、そのうちにギックリ胸にこたえる事があると器械の鏡から反射する光線がピクリと動く。いくら平気を粧うて胡麻化そうとしても駄目だという事である。この器械がいよいよ成効するかどうかは未だ判らぬが、とにかく面白い発明である。も少し早くこの器械が出来ていてそして男三郎(おさぶろう)の審問などに使ったら面白かったろうに。

      電気療法のさまざま

 強い電光皮膚病、殊に狼瘡(ろうそう)などを治すいわゆるフィンゼン療法は数年前から行われている。またエッキス線で照らして皮膚血液の病を癒(いや)す事も往々あるが、しかしこの線のために癌腫(がんしゅ)を生じた例があるから注意を要するとの事。次に電気浴の新しいやり方は盥(たらい)四つ四肢を別々に入れ電気を通すので心臓病痛風などに好いという。また強い電光に全身を浴するとトルコ風呂よりも薬になるそうである。次にちょっと耳新しいのはロシアの某医師患者咽喉の中へ紫色電灯を点じて喉頭の病を治した事である。その他中耳や眼の治療にも電灯を用いる事があるそうな。次には痛みなしに歯を抜くためテスラ電流を用いる事。このテスラ電流というのは非常高圧なそして非常に頻繁な交番電流であるが、これを局部に通すと一時そこが麻痺してしまう、その間に手早く引抜いてしまうという趣向で、この法は他の外科手術にも応用される事と思う。次には電気按摩器械、これは以前から我邦(わがくに)へも渡っている。槌(つち)のような形をした物の中に小さい電動器(モートル)があってこれが回転すると槌がブルブルふるえる、そこで槌の頭を肩なり腰なり、すきな処へ当てれば、好い工合に按摩出来るという仕掛けである。
明治四十九月四日東京朝日新聞』)


         三

      火災電気

 灯用としての瓦斯(ガス)と電気と、どちらが火事を起しやすいかという事は議論の種になっているが、近頃新しい統計によると、電気から起るのが〇・一五ないし〇・二〇プロセント、瓦斯から起る方が〇・二三ないし〇・四〇プロセントだという。すなわち瓦斯の方が少し悪い事になっている。

      航海無線電信

 遠洋航海途中で船の位地を知るために、正確な時計を要するは誰も知る通り。しかるに長い航海の間にはどんな良い時計(クロノメーター)でも多少の誤差を生ずるのは免れ難い。この不都合をなくするには陸上天文台で定めた正確な時刻無線電信海上の船に毎朝報じ時計の誤りを正すようにすればよいというので、今度カナダ政府ではこれを実行する事になったそうな。

      肉類の中の結核

 獣肉中に結核の有無を見るには従来ただこれを切開して吟味するより外に手段はなかったが、近頃ある人がX光線で透して見てすぐに病所の有無を知る事を発見した。

      カナリヤの雛

 近頃英国で、ある学者が二軒の小鳥屋についてカナリヤが生む雛鳥(ひなどり)の雌雄の数を調べてみた処、甲の家では雌百に対し雄が七十七であったが、これに反して乙の鳥屋では雌百に対する雄が三百五十三の大多数を占めていた。そこで甲の家のカナリヤを一番(ひとつがい)選んで乙の家に移し、その後に孵化した雛について、雌雄割合如何と調べてみると、面白い事には乙の家に来て以後は雄を多く生むようになった。これから考えると、生れる雛の雌雄いずれが多いかという事はその親鳥の食餌(えさ)や鳥屋温度その他の周囲の状況できまるものだという事が分る。もし他の諸動物についても同様の事があるかないか調べてみたら面白いだろう。

      指頭の渦紋

 人間の指の渦紋の形は生れ落ちてから死ぬるまで変らないもの故、人間の見覚えをするには最もよい目印しである。それで現に罪人などの指形を紙に写しておいて再犯の時の参考にする事がある。これならば額のほくろや瘤(こぶ)などよりは確かな事は勿論であろう。そこで十本の指の紋がことごとく符合するようなものが二人以上あるだろうかと云うに、ある数学者計算した結果によればザット六十四万億以上の人間を集めなければ同じ指の人は二人とはあるまいという事である。世界の人口|悉皆(しっかい)でもわずかに二十億に足らずだから、先ず同じ人はないと見てよかろう。今に指形を印に親子の再会などという新聞種が出来るかも知れぬ。
明治四十九月七日『東京朝日新聞』)


         四

      脳髄重さ

 仏国の某学者が、種々の動物について、その全体量と脳髄重量との比例を調べてみた。その結果によれば、比較的重い脳をもっているものは人間の外に手長猿鸚鵡(おうむ)、はつか鼠、駒鳥などで、これらのものの脳は体量の二十分の一ないし百分の一くらいの目方である。百分の一近辺のものは猩々(しょうじょう)、鹿、猫など、それから下って百分の一より千分の一の間にあるのが麒麟(きりん)、象、羚羊(かもしか)、獅子、袋鼠、鷲、白鳥、雉(きじ)、鼠、蛙、鯉など、なお一層下って千分の一より一万分の一の間には海馬(セイウチ)、鯨、鰐(わに)、海鰻(あなご)、章魚(たこ)などがひかえている。それで現世界における動物の脳の目方は体量の二十分の一以下万分の一の間にあるものと思えばよい。尤も畸形児などでは大きな頭のもあるがそういうのは別である。


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