豚吉とヒョロ子 関連リンク

夢野 久作 のオススメ作品

作家別索引

作品別索引

豚吉とヒョロ子 - 夢野 久作 ( ゆめの きゅうさく )

  • ★夢野久作★日本探偵小説全集 (4) 夢野久作集★文庫
  • 夢野久作 『夢野久作全集 6』 (ちくま文庫)
  • 【2】夢野久作傑作選 夢野久作(著) 文庫版 全巻5冊揃
  • ☆♪夢野久作「夢野久作全集5」文庫 犬神博士 超人鬚野博士
  • 夢野久作★死後の恋★少女地獄★日本探偵小説全集夢野久作集
  • ★夢野久作☆夢野久作全集〈5〉☆文庫★
  • ★夢野久作☆夢野久作全集〈8〉☆文庫★
  • ★夢野久作☆あやかしの鼓―夢野久作怪奇幻想傑作選☆文庫★
  • 夢野久作 ドグラ マグラ  現代教養文庫 夢野久作傑作選4  
  • 日本探偵小説全集4 夢野久作集/ドグラ・マグラ/瓶詰の地獄 他
次のページ
 豚吉(ぶたきち)は背(せい)の高さ当り前の半分位しかないのに、その肥り方はまた普通(あたりまえ)の人の二倍の上もあるので、村の人がみんなで豚吉という名をつけたのです。又、ヒョロ子も同じ村に生れた娘でしたが、背丈(せた)けが当り前の人の倍もあるのに、身体(からだ)はステッキのように細くて瘠(や)せていましたので、こんな名前を付けられたのです。
 村の人はこの二人を珍らしがってヤイヤイ騒ぎますので、二人は外へ出ることも出来ません。そのうちに二人とも立派大人になりました。
 ある時、村の人たちの寄り合(あい)がありましたが、その時に誰か一人が、
「あの二人を夫婦にしたらなおなお珍らしかろう。村の名物になると思うがどうだ」
 と云いますと、みんな一時に、
「それがいいそれがいい」
 と手をたたいてよろこびまして、そこに居た二人の両親にこの事を話しますと、両親も、
「村の人がみんなですすめられるのならよろしゅう御座います」
 と云いました。それから二人に聞いて見ますと、二人はまだ会ったことはありませんが、かねてからお互に人と違った身体(からだ)を持っていることを思いやって、両方で可愛そうに思っていたところですから、喜んで承知いたしました。
 村の人はいよいよ喜びました。
「サア面白いぞ。世界中にない珍らしい夫婦がこの村に出来るのだ。村中で寄ってたかって大祝いに祝え」
 というので、大騒ぎをやって用意をしましたので、まるで殿様の御婚礼のような大仕かけな婚礼の支度が出来ました。
 そうして、いよいよ婚礼儀式がある晩となりますと、村中の人は皆、あらん限りの立派着物を着飾って、神様の前の広場に集まりました。
 神様の前の広場には、作り花で一パイに飾られたお儀式場所出来ていまして、そのうしろに出来宴会場には、村の人々が作った御馳走やお酒が一パイに並んでいます。まわりには篝火(かがりび)がドンドン燃やしてありますので、そこいらは真昼のように明かるく見えました。
 そのうちに、町から来た楽隊が賑(にぎ)やかな音楽を初めて、時間が来たことを知らせましたので、みんな神様の前に集まって、礼服を着た神主と一所に、珍らしい夫婦の豚吉とヒョロ子が来るのを今か今かと待ちました。
 けれども、いくら待っても夫婦の姿は見えませんでした。
 そのうちに、二人を迎えに行った美しい馬車が二台帰って来ますと、それには二人の姿は見えず、二人の両親が泣きながら乗っておりましたが、みんなの前に来ますと、
「皆さん、申しわけありません。二人は逃げしまいました」
 と云いました。
「サア、大変だ」
 と村中の人は騒ぎ出して、儀式も御馳走も打ち棄てて、大勢の人々が夜通しがかりで探しましたが、二人の姿はどこにも見えませんでした。
 豚吉とヒョロ子は、こうして大勢の人々が騒いでいる時、村からずっと遠い山道を手を引き合ってのぼっておりました。
「ふたりで夫婦になったら、今迄よりもっともっと恥かしくなるよ」
「ほんとですわねえ。とても村には居られませんよ。けれどもみんな心配しているでしょうね」
「しかたがない。こうして出かけなければ、一生涯に外に出る時は無いからね」
「ほんとに情のう御座います。どうかして私たちの身体(からだ)を当り前の人のようにする工夫は無いのでしょうか。私はいつもそのことを思うと悲しくて……」
 とヒョロ子は泣き出しました。
「泣くな泣くな」
 豚吉は慰さめました。
「それはおれでも同じことだ。今に都に行ったらば、よいお医者にかかって治してもらってやるから、泣くな泣くな」
 こう云ってあるいているうちに、二人は山を越えて広い街道に出ますと、夜が明けました。
 豚吉は今まで威張っておりましたが、ここまで来ると、身体(からだ)が肥っておりますのでヘトヘトに疲れしまいました。
「おれあもうあるけない」
 と豚吉は泣きそうな声で云いました。
「まあ、あなたは何て弱い方でしょう。私がおぶってあげましょうか。あたしはこんなに瘠せてても、力はトテモ強いんですよ」
馬鹿なことを云うもんじゃない。おれは人の三倍も四倍も重たいんだぞ。そんなことをして、大切なお前が二つに折れでもしたら大変じゃないか」
「いいえ、大丈夫ですよ。私は人の五倍も六倍も力があるのですから」
「いけないいけない。そんなことをしたらなお人に笑われる。それより休んだ方がいい。ああ、くたびれた」
「でも、あとから村の人が追っかけて来ますよ」
「虎が追っかけて来たって、おれはもう動くことが出来ない。休もう休もう」
 と云ううちに、そこの草の上にドタンと尻もちをつきました。
 ヒョロ子は困ってしまって、立ったまま四方を見まわしますと、ずっと遠方から馬車が一台来るのが見えました。ヒョロ子は喜ぶまいことか、大声をあげて、
馬車屋サーン。早く来て頂戴よ――」
 とハンケチを振りました。
「何、馬車が来た」
 と豚吉も立ち上りましたが、背が低いので見えません。
「何だ、草ばかりで見えやしない」
「そんなことがあるもんですか。ソレ御覧なさい」
 と云ううちに、豚吉を抱えて眼よりも高くさし上げました。
「アッ、見えた見えた。オーイ、馬車屋ア――。早く来――イ」
 と豚吉も喜んでハンケチを振りました。


次のページ

夢野 久作 (ゆめの きゅうさく) 以外のオススメ作品

豚吉とヒョロ子 (ぶたきちとヒョロこ) のリンク元

「豚吉とヒョロ子-夢野 久作」の関連ページ


関連ページ
Web Services by Yahoo! JAPAN