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贋物 - 薄田 泣菫 ( すすきだ きゅうきん )

  • 古書≪森鴎外集≫7 青年、舞姫他 【 森鴎外】河出書房 貴重 初版
  • 「森鴎外私論」吉野俊彦 森鴎外評論-批評-書籍・10冊 N21681
  • 岩波文庫1675昭和41年/阿部一族他二編森鴎外 岩波書店
  • 600円~ 岩波文庫【青年】森鴎外 (プチソフト1)
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・山椒大夫  他四篇」(旺文社文庫)◇◆
  • ◆◇ 森鴎外著「青年」(新潮文庫) ◇◆  名著! 
  • ◆◇森鴎外著「舞姫・うたかたの記  他三篇」(岩波文庫)◇◆
  • ◆新品DVD★『NHK 名作の風景 8』森鴎外 正岡子規 夏目漱石1円
  • 森鴎外 高瀬舟・高瀬舟縁起・寒山捨得・寒山捨得縁起 CD 未開封
  • 森鴎外 舞姫 雁 井上靖 訳編 明治の古典8 初版
 村井|吉兵衛(きちべゑ)が伊達家入札で幾万円とかの骨董物を買込んだといふ噂を伝へ聞いた男が、 「幾ら名器だつて何万円は高過ぎよう。それにそんな物を唯(たつた)一つ買つたところで、他(ほか)の持合せと調和が出来なからうぢやないか。」
といふと、吉兵衛は女と金の事しか考へた事のない頭を、勿体ぶつて一寸|掉(ふ)つてみせた。そして一言一句が五十銭づつの値段でもするやうに、出(だ)し惜(をし)みをするらしく緩(ゆつく)りした調子で、
「なに高い事は無いさ、幾万円払つた骨董が宅(うち)の土蔵にしまひ込んであるとなると、外(ほか)に沢山(どつさり)あるがらくた道具までが、そのお蔭で万更(まんざら)な物ぢや無からうといふので、自然|値(ね)が出て来ようといふものぢやないか。」
と言つて笑つたといふ談話(はなし)だ。
 今の富豪(かねもち)が高い金を惜しまないで骨董品を集めるなかには、かうして狡い考へをするのが少くない。唯骨董品ばかりでは無い。一人娘に華族の次男を聟養子(むこやうし)にするなぞもそれだが、多くの場合骨董に贋物が多いやうに、聟養子にやくざ者が多いのはよくしたものだ。
 京都でさる知名の男が、自分書斎新築して立派出来上つたが、さてその書斎出来栄に調和するだけの額や軸物の持合せが少しも無い。買ひ集めるとなると、大枚の金が要る事だし、寧(いつ)そ贋物(がんぶつ)で辛抱したら、格安出来上るだらうと、懸額(かけがく)から、軸物、屏風、床(とこ)の置物まで悉皆(すつかり)贋物(がんぶつ)で取揃へて、書斎の名まで贋物堂(がんぶつだう)と名づけて納まつてゐた。
 面白いのは、そこの主人が軸物よりも屏風よりも、もつと甚(ひど)い贋物(がんぶつ)である事だ。――京都画家(ゑかき)が贋物(いかもの)を拵(こさ)へる事が巧(うま)いやうに、京都の女は贋物(いかもの)を産む事が上手だ。孰(いづ)れにしても立派な腕前である。



底本:「日本の名随筆 別巻9 骨董作品社
   1991(平成3)年11月25日第1刷発行
   1999(平成11)年8月25日第6刷発行
底本の親本:「完本 茶話 上巻」冨山房
   1983(昭和58)年11月発行
※疑わしい箇所は、底本の親本を参考にしてあらためました。
入力:門田裕志
校正高柳典子
2005年5月4日作成
2005年6月7日修正
青空文庫作成ファイル
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