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銅銭会事変 - 国枝 史郎 ( くにえだ しろう )

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  • ●招き猫屋15-6●記念硬貨色々★貨幣硬貨コイン絵銭銅銭
  • 戦国IXA ワールド11+12 銅銭40万
  • 戦国IXA 23鯖 67万銅銭
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    女から切り出された別れ話  天明六年のことであった。老中筆頭は田沼主殿頭(たぬまとのものかみ)、横暴をきわめたものであった。時世は全く廃頽期(はいたいき)に属し、下剋上の悪風潮が、あらゆる階級を毒していた。賄賂請託(わいろせいたく)が横行し、物価非常に高かった。武士町人も奢侈(おごり)に耽った。初鰹(はつがつお)一尾に一両を投じた。上野山下浅草境内両国広小路、芝の久保町、こういう盛り場が繁昌した。吉原品川千住(こつ)、新宿、こういう悪所が繋昌した。で悪人が跋扈(ばっこ)した。
 その悪人の物語。――
 梅が散り桜が咲いた。江戸は紅霞(こうか)に埋ずもれてしまった。鐘は上野浅草か。紅霞の中からボーンと響く。こんな形容は既に古い。「鐘一つ売れぬ日はなし江戸の春」耽溺詩人|其角(きかく)の句、まだこの方が精彩がある。とまれ江戸は湧き立っていた。人の葬式にさえ立ち騒ぐ、お祭りずきの江戸っ子であった。ましてや花が咲いたのであった。押すな押すなの人出であった。さあ江戸っ子よ飜筋斗(とんぼ)を切れ! おっとおっと花道じゃあねえ。往来でだ、真ん中でだ。ワーッ、ワーッという景気であった。

 その日|情婦(おんな)から呼び出しが掛かった。若侍は出かけて行った。
 いつも決まって媾曳(あいびき)をする、両国広小路を横へ逸(そ)れた、半太夫茶屋へ足を向けた。
 女は先刻から待っていた。
 やがて酒肴が運び出され、愉快な酒宴が始められた。
 そうだいつもならこの酒宴は、非常愉快な酒宴なのであった。
 この日に限って愉快でなかった。女の様子が変だからであった。ろくろく物さえいわなかった。下ばっかり俯向いていた。そうして時々溜息をした。
「おかしいなあ、どうしたんだろう?」若侍は気に掛かった。
 と、女が切り出した。別れてくれというのであった。
 これには若侍も面食らってしまった。で、しばらく黙っていた。
 不快沈黙が拡がった。
「ふふん、そうか、別れようというのか」こう若侍は洞声(うつろごえ)で云った。
「余儀無い訳がございまして……」
 女の声も洞(うつろ)であった。
 また沈黙が拡がった。
「別れるというなら別れもしよう。だが理由(わけ)が解らないではな」
「どうぞ訊かないでくださいまし」女は膝を手で撫でた。
「どうもおれにはわからない。藪から棒の話だからな」若侍は嘲けるようにいった。相手を嘲けるというよりも、自分を嘲けるような声であった。「では今日が逢い終(じま)いか。ひどくさばさばした別れだな。


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