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闇中問答 - 芥川 竜之介 ( あくたがわ りゅうのすけ )

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  • 平林たい子 にくまれ問答 昭和34初版 光文社
  • s和本読本 信長安土城 安土問答諺注5冊揃日蓮仏教古書古文書
  • 問答式 減価償却質疑応答集 50音別耐用数年表別表1、2収録 会計
  • ☆問答無用!のパジェロ・エクシード☆
  • 【書籍】森田正馬/水谷啓二『神経質問答』
  • 【即決】筒井康隆「文学部唯野教授の女性問答」中公文庫
  • 31四次元問答 都筑卓司 1992.4.1
  • ●絶版【文学部唯野教授の女性問答】筒井康隆(プチソフト2)
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芥川龍之介        一 或声 お前は俺の思惑とは全然違つた人間だつた。 僕 それは僕の責任ではない。
或声 しかしお前はその誤解にお前自身も協力してゐる。
僕 僕は一度も協力したことはない。
或声 しかしお前は風流を愛した、――或は愛したやうに装つたらう。
僕 僕は風流を愛してゐる。
或声 お前はどちらかを愛してゐる? 風流か? それとも一人の女か?
僕 僕はどちらも愛してゐる。
或声 (冷笑)それを矛盾(むじゆん)とは思はないと見えるな。
僕 誰が矛盾と思ふものか? 一人の女を愛するものは古瀬戸(こせと)の茶碗を愛さないかも知れない。しかしそれは古瀬戸の茶碗愛する感覚を持たないからだ。
或声 風流人はどちらかを選ばなければならぬ。
僕 僕は生憎(あいにく)風流人よりもずつと多慾に生まれついてゐる。しかし将来は一人の女よりも古瀬戸の茶碗を選ぶかも知れない。
或声 ではお前は不徹底だ。
僕 若(も)しそれを不徹底と云ふならば、インフルエンザに罹(かか)つた後も冷水摩擦をやつてゐるものは誰よりも徹底してゐるだらう。
或声 もう強がるのはやめにしてしまへ。お前は内心は弱つてゐる。しかし当然お前の受け社会的非難をはね返す為にそんなことを言つてゐるだけだらう。
僕 僕は勿論そのつもりだ。第一考へて見るが善(い)い。はね返さなかつたが最後押しつぶされてしまふ。
或声 お前は何と云ふ図々(づうづう)しい奴だ。
僕 僕は少しも図々しくはない。僕の心臓は瑣細(ささい)な事にあつても氷のさはつたやうにひやひやとしてゐる。
或声 お前は多力者のつもりでゐるな? 
僕 勿論僕は多力者の一人だ。しかし最大の多力者ではない。若し最大の多力者だつたとすれば、あのゲエテと云ふ男のやうに安んじて偶像になつてゐたであらう。
或声 ゲエテの恋愛純潔だつた。
僕 それは※(うそ)だ。文芸史家の※だ。ゲエテは丁度三十五の年に突然伊太利(イタリイ)へ逃走してゐる。さうだ。逃走と云ふ外はない。あの秘密を知つてゐるものはゲエテ自身を例外にすれば、シユタイン夫人一人だけだらう。
或声 お前の言ふことは自己弁護だ。自己弁護位|手易(たやす)いものはない。
僕 自己弁護は容易ではない。若(も)し手易いものとすれば、弁護士と云ふ職業成り立たない筈(はず)だ。
或声 口巧者(くちがうしや)な横着ものめ! 誰ももうお前を相手にしないぞ。
僕 僕はまだ僕に感激を与へる樹木や水を持つてゐる。それから和漢東西の本を三百冊以上持つてゐる。
或声 しかしお前は永久にお前の読者を失つてしまふぞ。
僕 僕は将来に読者を持つてゐる。
或声 将来の読者はパンをくれるか?
僕 現世読者さへ碌(ろく)にくれない。僕の最高の原稿料は一枚十円に限つてゐた。
或声 しかしお前は資産を持つてゐたらう?
僕 僕の資産本所にある猫の額ほどの地面だけだ。僕の月収は最高の時でも三百円を越えたことはない。
或声 しかしお前は家を持つてゐる。それから近代文芸読本の……
僕 あの家の棟木(むなぎ)は僕には重たい。近代文芸読本印税はいつでもお前に用立ててやる。


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