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雌に就いて - 太宰 治 ( だざい おさむ )

  • ●太宰治【文豪ナビ 太宰治 ナイフを持つ前にダザイを読め!!】
  • 太宰治 『太宰治全集 3』 (ちくま文庫)
  • 太宰治をおもしろく読む方法 (単行本) 山口 俊雄 (編集)
  • 太宰治 人間失格 ヴィヨンの妻 お伽草子 惜別 津軽 5冊
  • 古書「太宰治全集 第2巻」筑摩書房、昭和46年発行
  • ◎◎ 太宰治集/人間失格 斜陽 走れメロス ヴィヨンの妻◎◎
  • 定本 太宰治全集 初版 筑摩書房 中古
  • 太宰治本「太宰萌え 入門者のための文学ガイドブック」岡崎武志
  • ◆◇ 太宰治著「女生徒」(角川文庫)
  • 朗読CD 朗読街道22「富嶽百景」太宰治 試聴あり
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 フィジー人は其(その)最愛の妻すら、少しく嫌味(いやみ)を覚ゆれば忽(たちま)ち殺して其肉を食うと云う。又タスマニヤ人は其妻死する時は、其子までも共に埋めて平然たる姿なりと。濠洲の或る土人の如きは、其妻の死するや、之(これ)を山野に運び、其脂をとりて釣魚の餌となすと云う。




 その若草という雑誌に、老い疲れたる小説発表するのは、いたずらに、奇を求めての仕業(しわざ)でもなければ、読者へ無関心であるということへの証明でもない。このような小説もまた若い読者たちによろこばれるのだと思っているからである。私は、いまの世の中の若い読者たちが、案外に老人であることを知っている。こんな小説くらい、なんの苦もなく受けいれて呉(く)れるだろう。これは、希望を失った人たちの読む小説である。
 ことしの二月二十六日には、東京で、青年将校たちがことを起した。その日に私は、客人と長火鉢をはさんで話をしていた。事件のことは全く知らずに、女の寝巻に就(つ)いて、話をしていた。
「どうも、よく判らないのだがね。具体的に言ってみないか、リアリズムの筆法でね。女のことを語るときには、この筆法に限るようだ。寝巻は、やはり、長襦袢(ながじゅばん)かね?」
 このような女がいたなら、死なずにすむのだがというような、お互いの胸の奥底にひめたる、あこがれの人の影像をさぐり合っていたのである。客人は、二十七八歳の、弱い側妻(そばめ)を求めていた。向島の一隅の、しもたやの二階を借りて住まっていて、五歳のててなし児(ご)とふたりきりのくらしである。かれは、川開きの花火の夜、そこへ遊びに行き、その五歳の娘に絵をかいてやるのだ。まんまるいまるをかいて、それを真黄いろのクレオンでもって、ていねいに塗りつぶし、満月だよ、と教えてやる。女は、幽(かす)かな水色の、タオルの寝巻を着て、藤の花模様伊達巻(だてまき)をしめる。客人は、それを語ってから、こんどは、私の女の問いただした。問われるがままに、私も語った。
ちりめんは御免だ。不潔でもあるし、それに、だらしがなくていけない。僕たちは、どうも意気ではないのでねえ。」
パジャマかね?」
「いっそう御免だ。着ても着なくても、おなじじゃないか。上衣(うわぎ)だけなら漫画ものだ。」
「それでは、やはり、タオルの類かね?」
「いや、洗いたての、男の浴衣(ゆかた)だ。荒い棒縞で、帯は、おなじ布地の細紐(ほそひも)。柔道着のように、前結びだ。あの、宿屋浴衣だな。あんなのがいいのだ。すこし、少年を感じさせるような、そんな女がいいのかしら。」
「わかったよ。君は、疲れている疲れていると言いながら、ひどく派手なんだね。いちばん華(はな)やかな祭礼はお葬(とむら)いだというのと同じような意味で、君は、ずいぶん好色なところをねらっているのだよ。髪は?」
日本髪は、いやだ。油くさくて、もてあます。かたちも、たいへんグロテスクだ。」
「それ見ろ。無雑作の洋髪なんかが、いいのだろう? 女優だね。むかしの帝劇専属の女優なんかがいいのだよ。」
「ちがうね。女優は、けちな名前を惜しがっているから、いやだ。」
「茶化しちゃいけない。まじめな話なんだよ。」
「そうさ。僕も遊戯だとは思っていない。愛することは、いのちがけだよ。


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