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頭ならびに腹 - 横光 利一 ( よこみつ りいち )

  • 横光利一全集 横光利一集 10冊 希少?
  • 現代日本文学全集36 横光利一集 筑摩書房
  • 【激安】福田清人ほか『横光利一 人と作品』
  • 横光利一 文学読本 秋冬の巻■昭和12年 初版 布装丁
  • 古本「新潮文庫、春 園」横光利一著、昭和24年発行
  • ●定本横光利一全集1 小説 初版 定価4900円
  • ●定本横光利一全集7 小説 初版 定価5500円
  • ●中古図書●日本文学全集 横光利一集 集英社
  • kj100611 旅愁 全四編 横光利一 改造社/昭和21年発行
  • 初版 春は馬車に乗って 横光利一 名著復刻全集 近代文学館 切手
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 真昼である。特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。沿線の小駅は石のやうに黙殺された。
 とにかく、かう云ふ現象の中で、その詰み込まれた列車の乗客中に一人の横着さうな子僧が混つてゐた。彼はいかにも一人前の顔をして一席を占めると、手拭鉢巻をし始めた。それから、窓枠を両手叩きながら大声で唄ひ出した。

「うちの嬶ア
 福ぢやア
 ヨイヨイ、
 福は福ぢやが、
 お多福ぢや
 ヨイヨイ。」

 人々は笑ひ出した。しかし、彼の歌ふ様子には周囲の人々の顔色には少しも頓着せぬ熱心さが大胆不敵に籠つてゐた。

寒い寒い
 云たとて寒い
 何が寒かろ。
 やれ寒い
 ヨイヨイ。」

 彼は頭を振り出した。声はだんだんと大きくなつた。彼のその意気込みから察すると、恐らく目的地まで到着するその間に、自分の知つてゐる限りの唄を唄ひ尽さうとしてゐるかのやうであつた。歌は次ぎ次ぎにと彼の口から休みなく変へられていつた。やがて、周囲の人々は今は早やその傍若無人な子僧の歌を誰も相手にしなくなつて来た。さうして、車内は再びどこも退窟と眠気のために疲れていつた。
 そのとき、突然列車停車した。暫く車内の人々は黙つてゐた。と、俄に彼等は騒ぎ立つた。
「どうした!」
「何んだ!」
「何処だ!」
衝突か!」
 人々の手から新聞紙滑り落ちた。無数の頭が位置を乱して動揺めき出した。
「どこだ!」
「何んだ!」
「どこだ!」
 動かぬ列車の横腹には、野の中に名も知れぬ寒駅がぼんやりと横たはつてゐた。勿論、其処は止るべからざる所である。暫くすると一人車掌が各車の口に現れた。
「皆さん、此の列車はもうここより進みません。」
 人々は息を抜かれたやうに黙つてゐた。
「H、K間の線路故障が起りました。」
車掌!」
「どうしたツ。」
「皆さん、この列車はもうここより進みません。」
「金を返せツ。」
「H、K間の線路故障が起りました。」
通過はいつだ?」
「皆さん、此の列車はもうここより進みません。」
 車掌人形のやうに各室を平然として通り抜けた。人々は車掌を送つてプラツトホームへ溢れ出た。彼等は駅員の姿と見ると、忽ちそれを巻き包んで押し襲せた。数箇の集団が声をあげてあちらこちらに渦巻いた。しかし、駅員らの誰もが、彼らの続出する質問一人として答へ得るものがなかつた。ただ彼らの答へはかうであつた。
電線さへ不通です。」
 一切が不明であつた。そこで、彼ら集団最後の不平はいかに一切が不明であるとは云へ、故障線の恢復する可き時間予測さへ推断し得ぬと云ふ道断さは不埒である、と迫り出した。けれ共一切は不明であつた。いかんともすることが出来なかつた。従つて、一切の者は不運であつた。さうして、この運命観が宙に迷つた人々の頭の中を流れ出すと、彼等集団は初めて波のやうに崩れ出した。喧騒は呟きとなつた。苦笑となつた。


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