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風ばか - 豊島 与志雄 ( とよしま よしお )

  • ★ジャンクリストフ3/ロマンロラン豊島与志雄昭和38年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ2/ロマンロラン豊島与志雄昭和37年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ1/ロマンロラン豊島与志雄昭和37年岩波文庫
  • ★ジャンクリストフ8/ロマンロラン豊島与志雄昭和38年岩波文庫
  • レ・ミゼラブル全4冊 ユーゴー・豊島与志雄 岩波文庫
  • レ・ミゼラブル 全4巻 ユーゴー作 豊島与志雄 訳 岩波文庫
  • 岩波文庫 レ・ミゼラブル 1巻 豊島与志雄訳 挿絵原画 
  • ロマン・ロラン:豊島与志雄訳:ジャン・クリストフ 全8冊
  • ジャン・クリストフ/ロマン・ロラン 豊島与志雄訳 岩波文庫全4冊
  • ●死刑囚最後の日●ユーゴー豊島与志雄●養徳叢書S24●即決
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     一  ――皆(みな)さんは、人間身体(からだ)は右と左とまったく同じだと、思っていますでしょう。右と左とにそれぞれ、眼(め)が一つ、耳が一つ、鼻(はな)が半分、口が半分、手が一つ、足が一つ……。まんなかから切ってみると、右と左とは、まったく同じように見えます。ところが、よくしらべてみると、ずいぶんちがっています。いくら神様(かみさま)でも、生きた人間身体(からだ)を、右と左とまったく同じにこさえることは、おできにならなかったのでしょう。自分の顔(かお)やひとの顔(かお)を、よく見てごらんなさい。眼(め)でも耳でも、右と左では、その大きさや形がみなちがっています。右と左と同じなものは、けっしてありません。手なんか、大きさも長さもちがうし、力もちがいます。ことに、胸(むね)の中や腹(はら)の中になると、右と左とはひどくちがってるものです。それですから、たとえば、目かくしをして、広いところを、歩いてみてごらんなさい。けっしてまっすぐに歩けるものではありません。自然(しぜん)に、右か左かにまがってしまいます。人間は、どんなりっぱな身体(からだ)のひとでも、右と左とはかたわです……。
 そういう話を、先生がなさいました。
 なるほど、よく見ると、眼(め)でも耳でも、右と左とは同じ形ではありません。
 おかしいな、と子供たちは思いました。
 が、なおおかしいのは、目かくしをしてまっすぐに歩けないことでした。自分ではまっすぐに歩いてるつもりでも、いつのまにか少しずつ、右か左かへまがってしまいます。
「みんなかたわだ」
「なに、かたわなもんか」
「じゃあ、野原にいってやってみよう
「ようし。みんなこいよ」

     二

 広いたいらな野原でした。春さきのことで、日がうららかにてっています。芝草(しばくさ)が青々とのびだしています。蝶(ちょう)がとんでいます。空には高く、雲雀(ひばり)がないています。
 みんなでじゃんけんをして、勝(か)ったものが一番|先(さき)に、ハンケチで目かくしをして、まっすぐに歩きだしました。ほかの者は立って見ています。
 目かくしをした者は、まっすぐに歩いてるつもりですが、やがて、右か左かに少しずつまがっていきます。それを見ると、みんなはわっとはやしたてました。けれど、笑(わら)った者もみな、自分の番になると、やはりまっすぐには歩けませんでした。
「こんどは僕(ぼく)だ、見ておれよ」
 元気よくそういって、マサちゃんという子供が、目かくしをして、歩きだしました。
 広い野原の中です。オイチニ、オイチニ……と調子(ちょうし)をとってまっすぐに歩いていきます。
 遠(とお)くなるにつれてだんだん小さく、帽子(ぼうし)の下に白いハンケチの目かくしをしたその後姿(うしろすがた)が、まるで人形のようで……そしてふしぎにも、まっすぐに歩いていきます。
 だいぶ行ってから、くるりと向(む)きなおって、目かくしを取って、
「どうだい」
 見ていた子供たちは、はじめびっくりして、ぼんやりして、それから急(きゅう)に手をたたいてほめました。
 マサちゃんはもどってきました。
「君(きみ)たちは、ただまっすぐに歩こうとばかりしてるからだめだ。自分のくせを知って、練習(れんしゅう)しなくちゃいけないよ」
 そこでみんなは、マサちゃんに教(おそ)わって、まっすぐに歩く練習(れんしゅう)をしました。まず、自分は右か左かに、どのくらいまがるくせがあるか、それをたしかめて、それから目かくしをした時は、それだけ逆(ぎゃく)にまがる気持(きもち)で歩(ある)く……。ところが、それがじっさいはひどくむずかしくて、なかなかうまくいきませんでした。

     三

 日が西にかたむいて、森のかげがうすぐらくなりはじめました。風がでてきました。
今日(きょう)はこれだけにしておこう。僕(ぼく)がも一|度(ど)歩いてみせるから、よく見ておけよ」
 マサちゃんは目かくしをして、さいごにも一|度(ど)見せてやるというようすで、歩きだしました。
 それが、どうしたのか、少しいってまがりだしました。
 一かたまりになって見ていた者たちは、すぐに声をたてました。
「まがった、まがった……」
 マサちゃんは目かくしを取りました。
「ほんとにまがったのかい」
「まがったとも。いばってたくせに、なーんだい」
 マサちゃんはくやしがりました。そしてまたやりなおしましたが、やはりうまくいきません。


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